世界の経済ニュースを見ていると、しばしば耳にする言葉が「アメリカの貿易赤字」です。
「赤字」という言葉から、経済がまずい状況なのでは?と思う人も多いでしょう。
しかし不思議なのは、長年赤字を出し続けているにもかかわらず、アメリカ経済は世界一の規模を誇り、ドルは基軸通貨としての地位を保ち続けています。
いったいなぜ、アメリカは貿易赤字なのか?
そしてそれは、本当に悪いことなのでしょうか?
本記事では、アメリカの貿易赤字の原因や仕組みを、多角的に解説します。
まず基本を整理しましょう。
例えば、アメリカが1年間に1兆ドル分の商品を輸出し、1.3兆ドル分を輸入すると、
貿易赤字は 3,000億ドル ということになります。
これだけだと単純に「お金が海外に流出して国が貧しくなる」ように思えますが、現実はもっと複雑です。
実際、アメリカはどれほど赤字を出しているのでしょうか。
この規模は世界最大級で、よく中国やメキシコ、日本などが対米黒字国として取り沙汰されます。
アメリカ経済の強みは 個人消費の巨大さ にあります。
GDPに占める個人消費の割合は約70%と非常に高く、多くの人が豊かさを背景にモノやサービスを購入します。
こうした製品は必ずしも国内で作られているとは限らず、価格が安い海外製品を大量に輸入する傾向が強いのです。
さらに、アメリカ企業自身が海外生産を活用することで輸入が増えるケースもあります。
AppleのiPhoneが典型例です。
製造したiPhoneは「輸入品」としてアメリカに戻ってくるため、統計上は輸入扱いになり、アメリカの貿易赤字を膨らませます。
なぜアメリカが貿易赤字なのかを語る上で欠かせないのが ドルの基軸通貨 という特別な立場です。
貿易や投資の多くがドル建てで行われるため、各国は外貨準備としてドルを保有したがります。
ドルを入手するために、アメリカにモノやサービスを売り、代わりにドルを受け取る。つまり、対米貿易黒字を作るのです。
こうした仕組みが、アメリカの 慢性的な貿易赤字 を支える側面があります。
ドル高も貿易赤字を後押ししています。
つまり、アメリカの通貨が強いほど、輸入が増えやすく、輸出が伸びにくい構造になるのです。
基軸通貨としての信頼が高い以上、ドルは投資マネーの逃避先にも選ばれやすく、危機のたびに「ドル高→赤字拡大」という流れが生まれます。
ここで少し経済学寄りの話です。
経済全体の収支を考えると、以下の式が成り立ちます。
経常収支 = 貯蓄 − 投資
アメリカは投資意欲が旺盛で、国内の貯蓄よりも多くの資金を使う傾向にあります。
その資金不足を埋めるのが 海外からの資本流入 です。
経済のバランスとして、資本の流入が貿易赤字を生む仕組みになっているのです。
貿易赤字という言葉はネガティブな響きがありますが、一概に「悪い」とは言い切れません。
特にアメリカは、赤字を出しながらも 世界最大の投資先 であり、資金不足で困ることはほとんどありません。
もちろん、デメリットもあります。
特に政治的には、「雇用を奪われた」という不満が貿易赤字批判の背景にあることが多いです。
ニュースでよく目にするのが アメリカ対中国の貿易赤字。
単なる経済問題にとどまらず、次のような問題が絡むため政治的にも大きな争点になっています。
こうした問題意識から、米中貿易摩擦は過去数年で激化し、追加関税などが繰り返されました。
2017年にトランプ政権が発足すると、貿易赤字を「国の弱さの象徴」として強く批判しました。
確かに一時的に赤字額が減る局面もありましたが、全体としては根本的な赤字体質は変わっていません。
赤字の背後には ドルの基軸通貨の宿命 という大きな構造があるため、関税だけで解決するのは困難なのです。
結論からいえば、アメリカの貿易赤字は 今後も続く可能性が極めて高い です。
とはいえ、過度な赤字拡大は国内雇用や対外債務の面でリスクも抱えます。
そのため、今後も政策的な調整は続くでしょう。
「アメリカの貿易赤字」と聞くと、単なるマイナスの印象を抱きがちですが、世界経済全体の中で見ると 必要悪 という側面もあります。
基軸通貨ドルの供給源としての役割、投資資金の受け皿としての魅力、そしてアメリカ人の旺盛な消費欲。
これらが絡み合い、アメリカは赤字を出し続ける構造にあります。
「赤字は悪」という単純な見方ではなく、世界の金融や貿易の仕組みの中で、その赤字がどんな役割を果たしているのかを考えることが、これからのグローバル経済を理解するカギになるでしょう。