植物は、花を咲かせ、受粉して種子をつくり、その種子から新しい個体が育つという方法でふえることがよく知られています。アサガオ、ヒマワリ、エンドウ、イネなどは、種子によって次の世代を残す代表的な植物です。
しかし、植物のふえ方はそれだけではありません。植物の中には、種子を使わずに、根・茎・葉など体の一部から新しい個体をつくるものがあります。このようなふえ方を「栄養生殖」といいます。
栄養生殖は、畑や庭、家庭菜園、観葉植物の栽培など、身近なところでよく見られる植物のふえ方です。ジャガイモのいもから芽が出たり、イチゴのつるのような部分から新しい株ができたり、サツマイモの根から苗を育てたりすることも、栄養生殖の例として説明できます。
この記事では、「栄養生殖の例」というテーマで、栄養生殖とは何か、どのような植物がどの部分を使ってふえるのか、種子でふえる場合と何が違うのかを、具体例を多く挙げながらわかりやすく解説します。
栄養生殖とは、植物が種子を使わずに、根・茎・葉などの体の一部から新しい個体をつくるふえ方です。
「栄養」という言葉が入っているため、食べ物や栄養分のことを思い浮かべるかもしれません。しかし、ここでいう「栄養」は、植物の体をつくる器官、つまり根・茎・葉などの「栄養器官」を指しています。
植物の体は、大きく分けると、
・根
・茎
・葉
・花
・果実
・種子
などからできています。このうち、根・茎・葉は、植物が水や養分を吸収したり、光合成をしたり、体を支えたりするための部分です。これらは花や種子をつくるためだけの器官ではなく、植物が生きて成長するために重要な部分です。
栄養生殖では、このような根・茎・葉などの一部から、新しい植物が育ちます。つまり、植物の体の一部が、まるで独立した新しい個体の出発点になるのです。
植物のふえ方を理解するうえで、栄養生殖と有性生殖の違いを整理しておくことは大切です。
有性生殖は、雄しべでつくられる花粉と、雌しべの中にある胚珠が関係し、受粉・受精を経て種子をつくるふえ方です。種子から育つ新しい植物は、親と似ている部分を持ちながらも、まったく同じ性質になるとは限りません。これは、両親から遺伝情報を受け継ぐためです。
一方、栄養生殖では、花粉や卵細胞、受精、種子を必要としません。親の体の一部から新しい個体が生じます。そのため、栄養生殖でふえた個体は、基本的に親と同じ遺伝的性質を持ちます。
たとえば、おいしい実をつけるイチゴの株からランナーで新しい株をつくれば、その新しい株も親株とよく似た性質を持つことが期待できます。農業や園芸では、この性質がとても重要です。よい性質を持つ植物を、同じ特徴を保ったまま増やすことができるからです。
栄養生殖には、いくつかの大きな特徴があります。
まず、種子をつくらなくてもふえることができます。花が咲かなかったり、受粉がうまくいかなかったりしても、根・茎・葉などから新しい個体をつくることができる場合があります。
次に、親と同じ性質を持つ個体ができやすいことも特徴です。これは、栄養生殖で生じた個体が、親の体の一部から直接生じるためです。園芸や農業では、味、色、形、収穫量、育ち方などをそろえたい場合に役立ちます。
また、比較的短い時間でふえることができる場合もあります。種子から発芽して成長するよりも、ある程度成長した根・茎・葉などを出発点にするため、早く大きくなることがあります。
ただし、良いことばかりではありません。親と同じ性質を持つということは、病気に弱い性質も同じように受け継ぎやすいということです。もし同じ性質を持つ植物を広い範囲で育てていると、ある病気に対して一斉に弱さを見せることがあります。そのため、農業では栄養生殖の便利さを利用しながらも、病害虫への対策が大切になります。

栄養生殖には、さまざまな形があります。植物のどの部分から新しい個体ができるかによって、いくつかのタイプに分けることができます。
代表的な例としては、次のようなものがあります。
・ジャガイモ:茎の一部である塊茎からふえる
・サツマイモ:根である塊根からふえる
・イチゴ:ランナーから新しい株ができる
・タマネギ:りん茎からふえる
・チューリップ:球根からふえる
・ニンニク:りん茎の一部からふえる
・ショウガ:地下茎からふえる
・レンコン:地下茎からふえる
・サトイモ:いもからふえる
・ヤマノイモ:むかごやいもからふえる
・オリヅルラン:ランナーの先にできる子株からふえる
・ベゴニア:葉から新しい株ができることがある
・セントポーリア:葉ざしでふえる
・サボテン:茎の一部からふえる
・多肉植物:葉や茎の一部からふえるものが多い
・アジサイ:挿し木でふやせる
・バラ:挿し木や接ぎ木でふやせる
・サクラ:接ぎ木でふやされることが多い
このように、栄養生殖の例は、野菜、果物、花、観葉植物、庭木など、非常に広い範囲に見られます。

栄養生殖の例として、もっともよく取り上げられる植物の一つがジャガイモです。
ジャガイモは、ふだん食べている部分を「いも」と呼びますが、植物学的には根ではなく、茎が変化したものです。このような茎がふくらんだものを「塊茎」といいます。
ジャガイモの表面には、くぼんだ部分があります。これを「芽」または「芽の部分」と呼びます。この芽から新しい芽や茎が伸び、やがて葉を広げ、新しいジャガイモの株になります。
家庭でも、ジャガイモをしばらく置いておくと芽が出てくることがあります。これは、ジャガイモの塊茎に新しい個体をつくる力があるためです。畑では、種子ではなく「種いも」を植えてジャガイモを育てます。種いもとは、発芽するために使うジャガイモのいものことです。
ジャガイモの栄養生殖で注意したいのは、「いも」と呼ばれていても根ではなく茎である点です。サツマイモとはこの点が大きく異なります。

サツマイモも、栄養生殖の代表的な例です。
サツマイモの食べている部分は、根が太くなったものです。このような根を「塊根」といいます。ジャガイモは茎がふくらんだものですが、サツマイモは根がふくらんだものです。
サツマイモは、いもそのものから芽を出し、その芽を苗として育てることができます。農業では、種いもから出たつるを切り取り、そのつるを畑に植えて育てる方法がよく使われます。
サツマイモのつるを土に植えると、節の部分から根が出て成長し、やがて新しいサツマイモができます。これも、親の体の一部を使って新しい個体をつくるため、栄養生殖の例になります。
ジャガイモとサツマイモは、どちらも「いも」として身近ですが、栄養生殖に使われる部分の性質が異なります。ジャガイモは茎、サツマイモは根です。この違いは、理科の学習でもよく確認される大切なポイントです。

イチゴは、ランナーによってふえる植物です。
ランナーとは、地面をはうように伸びる細長い茎のことです。イチゴの株からランナーが伸び、その先に小さな子株ができます。子株が土に触れると、そこから根が出て、新しい株として成長します。
このように、親株から伸びたランナーの先に子株ができるふえ方は、栄養生殖のわかりやすい例です。
イチゴ農家では、よい性質を持つ親株からランナーを伸ばして苗をつくります。甘さ、実の大きさ、形、収穫量などの特徴を保ちながら増やすために、ランナーによる栄養生殖が利用されます。
庭やプランターでイチゴを育てていると、ランナーがどんどん伸びて、新しい株が増える様子を見ることがあります。これは、植物が自分の体の一部を使って仲間を増やしている身近な場面です。

タマネギも、栄養生殖と関係の深い植物です。
タマネギの丸い部分は、葉の一部が厚くなって重なり合ったものです。このようなものを「りん茎」といいます。タマネギを切ると、層のように重なった構造が見えますが、これは厚くなった葉が重なっているためです。
タマネギは種子から育てることもできますが、りん茎や小さな球を利用して増やすこともあります。植物の体の一部を使って増えるという点で、栄養生殖と関係します。
同じように、ニンニクもりん茎を使ってふえる植物です。ニンニクは一つの球の中に複数のかけらがあります。この一つ一つのかけらを植えると、芽が出て新しいニンニクの株になります。
料理で使うタマネギやニンニクも、植物のふえ方という視点で見ると、栄養生殖を理解するよい教材になります。

チューリップは、球根でふえる植物としてよく知られています。
春に花を咲かせるチューリップは、地中に球根を持っています。球根には、次に成長するための養分がたくわえられています。花が咲いたあと、地中では新しい球根ができ、条件がよければ次の年にまた芽を出して花を咲かせます。
チューリップの球根の周りに小さな球根ができることがあります。これを分けて植えると、新しい株として育てることができます。このように、球根を使ってふえることも栄養生殖の一つです。
チューリップだけでなく、ユリ、ヒヤシンス、スイセンなども球根で育てられる植物です。花壇や鉢植えで見かける多くの草花は、球根による栄養生殖と深く関係しています。

ショウガは、地下茎によってふえる植物です。
料理に使うショウガの部分は、根のように見えますが、実は地下にある茎です。このような茎を「地下茎」といいます。ショウガの地下茎には節があり、そこから芽が出て新しい株になります。
ショウガを植えるときは、芽のある部分を含む地下茎を土に植えます。すると、その部分から芽が伸び、葉を広げ、さらに地下で新しいショウガが育ちます。
ショウガは根のように見えるため、根でふえる植物と誤解されやすいですが、実際には茎が変化した地下茎によってふえます。この点は、ジャガイモと同じように「見た目」と「植物学的な分類」が異なる例といえます。
レンコンも、地下茎による栄養生殖の例です。
レンコンはハスの地下茎です。水田や池の泥の中に伸びる地下茎が太くなったものを、私たちは食材として利用しています。レンコンには節があり、その節から芽や根が出て、新しいハスの株が育ちます。
レンコンの穴は、空気を通すための通気組織と関係しています。ハスは水中や泥の中で育つため、空気を運ぶしくみが発達しています。
食材として見るとレンコンは野菜ですが、植物の体の一部として見ると地下茎です。そして、その地下茎から新しい個体ができるため、栄養生殖の例として説明できます。
サトイモも、栄養生殖でふえる身近な植物です。
サトイモは、親いもの周りに子いもや孫いもができます。これらのいもを植えると、新しいサトイモの株として育ちます。
サトイモのいもは、茎が変化して養分をたくわえたものです。つまり、サトイモも茎の一部を使ってふえる植物です。
畑でサトイモを育てる場合、種子ではなく、いもを植えて栽培することが一般的です。これも、栄養生殖を利用した農業の例です。
サトイモは、ジャガイモやサツマイモと同じく「いも」と呼ばれますが、それぞれ植物のどの部分がふくらんでいるかは異なります。ジャガイモは塊茎、サツマイモは塊根、サトイモは茎が変化した球茎に近い性質を持つものとして説明されることがあります。

ヤマノイモは、むかごによってふえることがあります。
むかごとは、葉のつけ根などにできる小さな球状の芽のようなものです。むかごが地面に落ちると、そこから芽や根が出て、新しい株に成長します。
ヤマノイモのむかごは、秋になると見られることがあります。小さな粒のように見えますが、植物にとっては新しい個体をつくるための重要な器官です。
むかごによるふえ方も、種子を使わず、植物の体の一部から新しい個体ができるため、栄養生殖の例です。
むかごは食べることもでき、炊き込みご飯などに使われることがあります。身近な食材としても、植物のふえ方としても興味深い存在です。

観葉植物のオリヅルランも、栄養生殖の例としてわかりやすい植物です。
オリヅルランは、細長い茎を伸ばし、その先に小さな子株をつくります。子株は、見た目が小さなオリヅルランそのもののように見えます。この子株を切り取って土に植えると、根を出して新しい株として育ちます。
家庭で育てやすい観葉植物の中には、オリヅルランのように、親株から子株をつくって増えるものがあります。植物が自分の一部を伸ばし、その先に新しい個体を準備している様子を観察できるため、栄養生殖を理解する教材としても適しています。
イチゴのランナーと似ていますが、オリヅルランの場合は、鉢から垂れ下がるように子株ができることが多く、観賞用としても親しまれています。

ベゴニアの仲間には、葉から新しい株をつくることができるものがあります。
葉を切って土や湿った用土の上に置いたり、葉の一部を挿したりすると、そこから新しい芽や根が出ることがあります。これは「葉ざし」と呼ばれる増やし方です。
葉ざしは、葉という栄養器官から新しい個体をつくるため、栄養生殖の一つです。ベゴニアのほか、セントポーリア、多肉植物の一部などでも見られます。
葉から新しい植物が生まれるという現象は、初めて見ると不思議に感じるかもしれません。しかし、植物の細胞には、条件が整うと新しい根や芽をつくる能力を持つものがあります。この性質を利用して、園芸ではさまざまな植物が増やされています。
セントポーリアは、室内で育てられることの多い観葉植物・花もの植物です。紫やピンク、白などの花を咲かせることがあり、鉢植えとして人気があります。
セントポーリアは、葉ざしによってふやすことができます。葉を葉柄ごと切り取り、湿った土や専用の用土に挿すと、やがて根が出て、小さな新しい株ができます。
このように、葉を使って新しい個体をつくることも、栄養生殖の例です。
種子から育てる場合とは異なり、葉ざしで増やした株は親株と同じ特徴を持ちやすくなります。そのため、花の色や形、葉の模様などを保ちながら増やしたい場合に利用されます。

多肉植物は、栄養生殖を観察しやすい植物の一つです。
多肉植物には、葉や茎に水分をたくわえる性質があります。種類によっては、葉が一枚落ちただけでも、その葉の根元から根や芽が出て、新しい株になることがあります。
たとえば、エケベリア、セダム、グラプトペタルムなどの仲間では、葉ざしによって増やせるものがあります。葉を土の上に置いておくと、しばらくして小さな根が出て、さらに小さな芽が育つことがあります。
また、茎を切って挿す「挿し木」で増える多肉植物もあります。サボテンの仲間も、茎の一部を切り取って乾かし、土に挿すことで新しい株として育てられることがあります。
多肉植物は、栄養生殖のしくみを目で見て理解しやすい植物です。葉や茎という一部から、まったく新しい株ができる様子は、植物の生命力を感じさせます。
サボテンも、栄養生殖でふやすことができる植物です。
サボテンの多くは、葉が針のように変化し、茎に水分をたくわえています。サボテンの体の大部分は茎にあたります。この茎の一部を切り取り、切り口を乾かしてから土に挿すと、根が出て新しい株として育つことがあります。
サボテンの挿し木は、園芸でよく利用される方法です。親株と同じ形や性質を持つ株を増やしやすいため、観賞用のサボテンの栽培にも役立ちます。
また、サボテンには、親株の根元や側面から子株が出るものもあります。この子株を分けて育てることも、栄養生殖の一種といえます。

アジサイは、挿し木によってふやすことができる植物です。
挿し木とは、植物の茎や枝の一部を切り取り、土に挿して根を出させ、新しい個体として育てる方法です。アジサイは比較的挿し木がしやすい植物として知られています。
梅雨の時期に美しい花を咲かせるアジサイは、庭木や鉢植えとして人気があります。気に入った花色や形のアジサイを増やしたい場合、挿し木によって親株と同じ特徴を持つ株を育てることができます。
ただし、アジサイの花色は土の酸性度などにも影響されます。そのため、同じ株から増やしたアジサイでも、育てる土の条件によって花色の見え方が変わることがあります。
バラも、栄養生殖によってふやされることが多い植物です。
バラは種子から育てることもできますが、園芸では挿し木や接ぎ木がよく利用されます。挿し木では、枝の一部を切り取って土に挿し、根を出させます。接ぎ木では、育てたい品種の枝や芽を、別の植物の台木に接ぎ合わせて育てます。
バラには非常に多くの品種があります。花の色、形、香り、咲き方、病気への強さなど、品種ごとに特徴が異なります。これらの特徴を保ちながら増やすためには、種子よりも栄養生殖の方が適している場合があります。
特に接ぎ木は、園芸品種を安定して育てるために重要な方法です。根が強い台木に、美しい花を咲かせる品種を接ぐことで、育てやすさと観賞価値を両立させることができます。
サクラも、接ぎ木によってふやされることが多い植物です。
日本でよく見られるソメイヨシノは、種子から増やすのではなく、接ぎ木や挿し木などによって増やされてきたことで知られています。これは、ソメイヨシノの美しい花の特徴を保つためです。
種子から育てると、親とまったく同じ性質になるとは限りません。花の色や咲き方、成長の仕方が変わる可能性があります。一方、接ぎ木で増やすと、親木と同じ遺伝的性質を持つ木を増やすことができます。
サクラ並木で同じ時期に一斉に花が咲く様子は、栄養生殖によって同じ性質の個体が多く植えられていることとも関係しています。
ただし、同じ性質を持つ木が多いということは、病気や環境の変化に対して同じ弱さを持つ可能性もあるということです。この点は、栄養生殖の利点と注意点を考えるうえで大切です。
栄養生殖は、農業で広く利用されています。その理由は、主に三つあります。
一つ目は、同じ性質の作物を増やしやすいことです。味がよい、実が大きい、収穫量が多い、病気に比較的強いなど、望ましい性質を持つ植物を見つけた場合、その性質を保ったまま増やすことができます。
二つ目は、収穫までの期間を短くできる場合があることです。種子から育てるよりも、いも、球根、挿し木、苗などを使った方が早く成長することがあります。
三つ目は、種子をつくりにくい植物や、種子では同じ性質を保ちにくい植物でも増やせることです。果樹や花の品種では、種子から育てると親と異なる性質になることが多いため、接ぎ木や挿し木が利用されます。
農業では、安定した品質の作物を大量に生産することが重要です。そのため、栄養生殖は非常に実用的な技術として利用されています。
園芸でも、栄養生殖はよく利用されます。
気に入った花の色、葉の模様、樹形、香りなどを保ったまま増やしたい場合、種子よりも挿し木、株分け、葉ざし、球根、接ぎ木などが適しています。
たとえば、観葉植物では、葉の模様が美しい品種があります。種子から育てると、その模様が同じように出るとは限りません。しかし、挿し木や株分けで増やせば、親株と同じ特徴を持つ株を得やすくなります。
また、家庭園芸では、栄養生殖は手軽に植物を増やす方法でもあります。オリヅルランの子株を植える、多肉植物の葉を土に置く、アジサイの枝を挿し木にするなど、身近な方法で植物を増やすことができます。
植物を観察しながら育てる楽しみがある点も、栄養生殖の魅力です。
栄養生殖には、さまざまなメリットがあります。
まず、親と同じ性質を持つ個体を増やしやすい点です。これは、農業や園芸で非常に大きな利点です。おいしい果実をつける植物、美しい花を咲かせる植物、育てやすい植物などを、同じ特徴のまま増やすことができます。
次に、種子がなくても増やせる点です。花が咲きにくい植物、種子ができにくい植物、種子から育てると時間がかかる植物でも、栄養生殖によって増やせる場合があります。
さらに、成長が早い場合があります。種子から発芽して育つ場合に比べ、すでに養分をたくわえた球根やいも、ある程度成長した枝や葉を使うため、早く株が大きくなることがあります。
また、家庭でも比較的簡単に行えるものがあります。挿し木、株分け、葉ざしなどは、観葉植物や草花を育てる人にとって身近な方法です。
栄養生殖には便利な面が多い一方で、注意すべきデメリットもあります。
大きなデメリットは、遺伝的な多様性が少なくなりやすいことです。栄養生殖で増えた個体は、親と同じ性質を持ちやすいため、同じ環境では育てやすい反面、病気や害虫、気候変化などに対して同じ弱点を持つことがあります。
たとえば、同じ性質を持つ作物が広い面積で栽培されている場合、ある病気が発生すると、一気に広がる危険があります。すべての株が似た性質を持っているため、一部だけが強く残るということが起こりにくい場合があります。
また、親株がウイルスや病気を持っていると、その影響が子株にも引き継がれることがあります。見た目には元気そうに見えても、栄養生殖で増やした株に病気が広がる可能性があります。
そのため、農業や園芸では、健康な親株を選ぶこと、病害虫を防ぐこと、必要に応じて新しい品種や種子からの更新も考えることが大切です。
栄養生殖でふえた個体は、親と同じ遺伝情報を持つことが多いため、「クローン」と説明されることがあります。
クローンという言葉は、人工的で特別な技術のように感じられるかもしれません。しかし、植物の世界では、自然にクローンのような個体ができることは珍しくありません。
イチゴのランナーからできた子株、ジャガイモの種いもから育った株、サクラの接ぎ木で増やされた木などは、親と同じ遺伝的性質を持つ個体として説明できます。
ただし、栽培環境によって見た目や成長の仕方が変わることはあります。同じ遺伝情報を持っていても、日当たり、水分、土の性質、温度、肥料などの違いによって、植物の状態は変化します。
つまり、栄養生殖では親と同じ性質を持ちやすいものの、育つ環境によって実際の姿には違いが出ることがあります。
栄養生殖と種子による繁殖には、それぞれ長所と短所があります。
種子による繁殖では、親とは少し違う性質を持つ個体が生まれます。これは、環境の変化に対応するうえで重要です。多様な性質を持つ個体が生まれることで、病気や気候変化に強い個体が残る可能性があります。
一方、栄養生殖では、親と同じ性質を持つ個体を増やしやすくなります。これは、農作物や園芸品種の品質をそろえるうえで役立ちます。
つまり、自然界では種子繁殖による多様性が重要であり、人間の栽培では栄養生殖による安定性が重要になる場面が多いといえます。
どちらが優れているというよりも、目的によって適したふえ方が異なります。新しい性質を生み出したい場合には種子繁殖が重要であり、すでにあるよい性質を保ちたい場合には栄養生殖が役立ちます。
栄養生殖は、特別な研究施設だけで見られるものではありません。家庭や学校、畑、花壇、台所でも観察できます。
たとえば、ジャガイモを置いておくと芽が出ることがあります。これは、塊茎から新しい芽が出る例です。
イチゴを育てていると、親株からランナーが伸びて子株ができます。これは、ランナーによる栄養生殖です。
多肉植物では、落ちた葉から小さな芽や根が出ることがあります。これは、葉ざしに近い形の栄養生殖です。
オリヅルランでは、親株から伸びた茎の先に子株ができます。子株を土に植えると、新しい株として育ちます。
アジサイやバラでは、枝を切って土に挿すことで新しい株を育てることがあります。これは挿し木による栄養生殖です。
このように、栄養生殖は、身近な植物を少し注意して見るだけでも発見できます。
栄養生殖を知ると、植物の見方が少し変わります。
これまで「いも」として見ていたジャガイモやサツマイモも、植物の体のどの部分なのかを考えるようになります。ジャガイモは茎、サツマイモは根、ショウガやレンコンは地下茎です。同じように見える食材でも、植物学的には異なる部分であることがわかります。
また、観葉植物の子株や多肉植物の葉から芽が出る様子を見ると、植物の体の一部に新しい個体をつくる力があることを実感できます。
花を咲かせて種子をつくるだけが、植物のふえ方ではありません。植物は、根・茎・葉などを使いながら、さまざまな方法で命をつないでいます。
このことを知ると、台所の野菜、庭の草花、鉢植えの観葉植物など、身の回りの植物がより興味深く見えてきます。
栄養生殖とは、植物が種子を使わずに、根・茎・葉などの体の一部から新しい個体をつくるふえ方です。
代表的な栄養生殖の例には、ジャガイモ、サツマイモ、イチゴ、タマネギ、チューリップ、ショウガ、レンコン、サトイモ、ヤマノイモ、オリヅルラン、ベゴニア、セントポーリア、多肉植物、サボテン、アジサイ、バラ、サクラなどがあります。
ジャガイモは茎がふくらんだ塊茎、サツマイモは根がふくらんだ塊根、イチゴはランナー、ショウガやレンコンは地下茎、チューリップは球根、アジサイやバラは挿し木、サクラは接ぎ木によって増やされることがあります。
栄養生殖の大きな特徴は、親と同じ性質を持つ個体を増やしやすいことです。そのため、農業や園芸では、品質をそろえたり、よい性質を保ったりするために広く利用されています。
一方で、遺伝的な多様性が少なくなりやすく、病気や環境変化に弱くなる可能性もあります。そのため、栄養生殖は便利なふえ方であると同時に、注意深く利用する必要のある方法でもあります。
栄養生殖の例を知ることは、植物のしくみを理解するうえでとても役立ちます。種子だけではなく、根・茎・葉などからも新しい命が生まれることを知ると、身近な植物の世界がより豊かに見えてきます。