2025年6月、SNS(X/旧Twitter)に投稿されたある声明が、中東情勢に詳しい専門家や政治ウォッチャーの間で話題となっています。
「イスラム共和国は終焉しつつあります。始まったことは後戻りできません。未来は明るく、共にこの歴史的転換点を乗り越えていきましょう。今こそ立ち上がる時です。イランを取り戻す時です。近いうちに皆さんと共にいられますように」
この声明の発信者は、イラン最後の国王であるモハンマド・レザー・パフラヴィーの長男であり、現在も多くのイラン人にとって象徴的な存在であるレザ・パフラヴィー皇太子です。彼は現在アメリカに在住しながら、世界各国のメディアやフォーラムで積極的に発言を続けており、イランの未来に関するビジョンを発信し続けています。
この発言が特に注目を集めた理由のひとつは、その言葉の強さと明快さにあります。「終焉」「取り戻す」「立ち上がる」といった力強い表現が、抑圧に苦しむ人々の心を打ち、広く拡散されました。一部のユーザーはこの発言を“新しい革命宣言”とまで呼び、過去のイスラム革命との対比の中で歴史的な意味合いを見出そうとする声もあります。
また、声明の最後に添えられた「近いうちに皆さんと共にいられますように」という一文は、まるで亡命からの帰還を暗示するかのようであり、王政復古や体制交代の可能性を巡る議論にも火を付けました。
この発言は、長らく抑圧されてきた体制下の国民に希望を与える一方で、現政権にとっては明確な挑戦でもあり、国内外の注目度が一気に高まりました。またこの動きに対し、国外のイラン人コミュニティ、特にヨーロッパやカナダ、アメリカ西海岸の移民たちの間でも「帰還への気運」が高まりを見せているとの報道もあります。
イランにおいて国王を意味する「シャー(شاه)」の称号は、1979年のイスラム革命によって廃止されました。 それまでは世襲の王政国家として、パフラヴィー王朝が支配していました。
レザ・パフラヴィー皇太子は1960年生まれ。革命当時まだ若かった彼は、家族とともにアメリカへ亡命。以後、政治活動を続けながらも、「再びイランの未来を導く存在」として一部の亡命イラン人や国内改革派からの支持を得てきました。
彼は現在ワシントンD.C.を拠点に活動しており、人権団体や中東情勢に関するシンクタンクとの交流も深く、実質的な「影の政治家」としての立ち位置を築きつつあります。
1979年の革命以降、イランはアヤトラ・ホメイニの指導により、イスラム法に基づく神権体制へ移行しました。 これは宗教指導者(最高指導者)によって国家の根幹が統治される制度です。
しかし、40年以上が経過し、現在のイラン社会には次のような亀裂が生じています:
特に2022年に起きたマフサ・アミニ事件以降、体制への怒りと抗議は燃え広がり、いまや多くの市民が命を賭けて“変革”を叫んでいます。
また、インターネット検閲や報道統制が厳しい中、VPNを駆使して国外の情報を得る若者が増加しており、国民の間で「情報の格差」も深刻な問題となっています。
レザ皇太子は2025年6月、アメリカの経済メディア「ブルームバーグTV」に出演し、現在のイラン情勢に対する持論を展開しました。
🗣「これは王政復古ではありません。民主的、世俗的なイランを築くための移行です。私はその移行の象徴として存在しているにすぎません」
彼はかつての王家の血統でありながら、自らを“新時代の道しるべ”と位置づけており、独裁的王制への回帰ではなく、民主化の象徴として振る舞っています。
また同番組内では、「現在のイスラム体制の崩壊は時間の問題である」と明言し、国際社会の支援を求める呼びかけも行いました。
以下の図表は、現在のイラン政治における主要勢力の対立構図を示したものです:
勢力 | 特徴 | 支持層 | 立場 |
---|---|---|---|
イスラム共和国体制 | 神権政治、反米、保守的 | 高齢者、地方住民、保守層 | 現政権 |
改革派・民主派 | 自由主義、人権重視 | 若年層、都市住民、知識層 | 野党的存在 |
王政復古派 | パフラヴィー家の象徴性を支持 | 海外亡命イラン人、一部保守・中道層 | 象徴的リーダー(レザ皇太子) |
このように、イラン国内では単純な2極対立ではなく、三つ巴の構造が見えてきます。
さらに、それぞれのグループの中でも細かい意見の相違があり、国民の求める“新しいイラン像”は多様化しています。
国際社会も、レザ皇太子の声明を無視できません。
また、欧州の一部メディアは「中東の春の再来」と表現する一方、保守的なアラブ諸国は「ドミノ効果」を懸念し、慎重に動向を見守っている状況です。
このように、イランの内政はすでに地政学的対立の一部とも言えます。
イラン国内においてもレザ皇太子の評価は分かれています。
情報統制の厳しい国内では、彼のメッセージを受け取れるのは一部の市民に限られており、彼の本当の支持基盤がどの程度あるのかは依然不明です。
それでも、「変化を望む声」が若年層の間で確実に広がっており、かつての“シャー”が新たな形で再評価されている現象は、見逃せません。
レザ・パフラヴィー皇太子の発言は、長年続いてきたイスラム体制にとって明らかな“挑戦”です。 しかしそれ以上に、絶望の中で生きる多くの市民にとっての希望の光として映っているのかもしれません。
シャーの血統が再びイランを導く日が来るのか。 それとも、この動きは歴史の一幕に過ぎないのか。 答えは、これからの数年の中で明らかになるでしょう。