外航保険
外航貨物海上保険は、 国際間輸送される貨物の輸送中に発生する様々なリスクをカバーする保険です。貿易が行われるためには、 その基本となる売買契約があり、その内容に基づき売主または買主が運送人と運送契約、保険会社と外航貨物1海上保険契約を締結することとなります。 初めて貿易実務に携わる方を念頭に、 貿易と外航貨物海上保険につき説明します。
貿易取引における売買契約
一般に売主が商品をオファー(:売り申し込み) し、買主がそれをアクセプト(:承諾) することによって売買契約が成立します。 その後、売主が商品を買主に引渡し、
その代金の決済を受けます。 売買契約は、 契約自由の原則に従い、
売買の当事者間で白由に取決めることができますが、貿易取引は政治・経済・文化・伝統・慣習などが異なる外国との取引ですので、一つの言葉の解釈を巡っても誤解が生じ紛争となる危険があります。そこで、売買当事者間で事前に共通の認識を作っておく必要があります。
本節では、 貿易取引における売買契約の具体的内容に説明します。
1.貿易取引における売買契約の基本条件
貿易取引における売買契約の中で骨組みとなり契約前に必ず取決めておく必要がある主要な取引条件は、品質条件、数量条件、価格条件、受渡し条件、決済条件の5つです。
(1) 品質条件 - 貿易取引は海外との取引ですので、 直接商品現物を手にとって見ることができるとは限りません。 したがって、買主に商品の品質をどのように知つてもらうかが問題となります。 貿易取引における、 商品の品質決定の方法には以下のようなものがあります。
見本売買、準品売買、銘柄売買、l様書売買、規格売買
一般にプラントなどの高価品や巨大な商品については、技術的・経費的に見本を送ることが困難であるため、仕様書・写真・商品ガタログ等を用いて説明による売買交渉を行います。 また、
国際的に規格が認められている商品の場合には、 その規格をもとに品質を取決めます。
このように、商品の性質に応じた品質の確認・取決めが行なわれることとなります。 しかしながら、 商品によっては、
輸出地船積み時点の品質と輸入地における荷卸し時点の品質に相違が発生する場合(例えば農水産物、原材料)があります。そこで、品質の決定についても取決めをする必要があります。
売主が貨物を本船に船積みした時点で売主の義務が終わる場合、 すなわち売主が船積み時点までの品質を保証する場合 (船積み品質条件) と、
海上輸送を経て陸揚げし買主に引渡すまで品質について保証する場合(陸揚げ品質条件) の2通りがあります。 しかしながら、一般に、 品質の決定時点につき特別な取決めのない限り、 売主の責任は船積み時に終了します。
(2) 数量条件
数量についても品質と同様に、 数量単位としてどのような基準を用いるか、 数量の決定時点をぃつにするかにっいて取決める必要があります。
数量単位については、例えば、英トン(Long Ton=2240ポンド=1016kg)、米トン(Short Ton=2000ポンド=907kg)、仏トン(Metric Ton=2204.6ポンド=1000kg)
のように、同じトンでも国によって重量が異なることもあるので、取引単位を確認する必要があります。
また、 貨物によっては液体商品のように輸送途中に蒸発等の自然現象で数量が微妙に目減りする場合もありますので、 トラブルを防止するためにも数量の決定時点について当事者間で取決める必要があります。
売主が船積み時点までの数量を保証する場合 (船積み数量条件) と海上輸送を経て陸揚げし、 買主に引渡すまでの数量を売主が保証する場合 (陸揚げ数量条件)があります。 - しかしながら、 品質条件と同様に.
数量の決定時点につき特別な取決めのない限り、 売主の責任は船積み時に終了します。
(3) 決済条件
貿易取引においては、 貨物代金の決済は売主の振出す荷為替手形によって行われます。 さらに荷為替手形による決済は、 信用状を利用する方法と信用状を利用しない方法とに分類されます。詳しくは3.
決済条件で説明しますが、荷為替手形を利用する場合、船積み書類として保険証券を添付する必要があります。 このように貨物海上保険は決済という面においても貿易取引に組込まれています。
(4) 受渡し条件
契約品の受渡しをスムーズに行う為には、 引渡し時期 (いつどこで引渡すのか) について取決める必要があります。
(5)価格条件 . 貿易取引においては,仕入原価以外に電信料・倉庫費用・船積み費用'通関費用'海上運賃.海上保険料等の諸費用が生じます。貨物が売主の元を離れ、買主の元に届くまでにかかる費用の概要を示すと次頁のようになります。 そこで、 売主および買主が各々どの範までの費用を負担するか、 すなわち決済時の 「価格建て」 をどうするのかについて取決める必要があります。
2.主要取引条件
前述の通り、 貿易取引においてはトラブルを防止するために、 売買当事者間で主要な取引条件について取決めておく必要があります。
しかしながら、 契約の都度細かい条項に至るまで取決めることは、
当事者にとって煩雑で手間となります。また、売主および買主間で商慣習・法律・制度が異なることによって、取引条件の解釈につき誤解が生じれば重大な紛争の原因になる恐れがあります。
そこで、貿易取引条件設定の効率性および誤解・紛争の発生防止のため、
永い年月にわたり商人間の了解ともいうべき標準的な取引条件が形成され、一括してある略号で表現されるようになりました。これが、「解釈に関する各種国際ルール」です。 従来、
いくつかの国際機関による国際統一ルールの発表が行われてきていますが、 現在広く用いられているのは、 国際商業会議所による「インコタームズ(Incoterms)」 や米国商業会議所等による
「改正米国貿易定義(Revised American Foreign Trade Definition)」 です。
これらの国際ルールは、 貨物に対する売買当事者間の危険負担移転時期、 義務と責任、 保険手配等について規定しています。
実務上代表的な取引条件であるC I F、C&I、C&F(CFR)、FOBの4条件について整理してみますと次のとおりになります。
<主要取引条件>
FOB条件(Free On Board)・・・・・・本船渡し条件
C&F条件(CFR)(Cost & Freight) ・・・・運賃込み条件
C&I条件(Cost & Insurance) ・・・・保険料込み条件
C I F条件(Cost Insurance & Freight) ・・・・運賃・保険料込み条件
(注1)インコタームス上,C&I条件の既定はなく,実際上CIF条件の1形態として取扱
うものとされている
(注2) (注3) 本船手配を売主に依頼する場合もある。
C I F、C&I、C&F、 FOBいずれの取引条件においても、
・ 輸出本船への船積は売主が行い、
・売主から買主への危険の移転時期は貨物が輸出本船の欄干を有効に通過したときとなっています。
ィンコタームズでは、価格条件と受渡条件が深く連関しています。 たとえば、 横浜からニューヨークへ商品を輸出する場合に、 F 0 B YOKOHAMA$600であれば、横浜で買主に引渡され、F
0 B価額すなわち 「本船積地価額十本船積込みまでの諸費用」 を$600とする内容で決済が行われます。また、c IF New York
$600であれば、横浜で買主に引渡され、C IF価額すなわち rF 0 B価額十海上保険料・運賃」 を$600とする内容で決済が行われることを示します。
3.決済条件
売主は約定品としての貨物の船積みを終えると、 代金の回収をはかることになりますが、 貿易取引における貨物代金の決済は多くの場合、 売主の振出す荷為替手形によって行われます。 以下、 代金決済の概要ならびに外航貨物1海上保険との関連につき説明します。
(1) 荷為替手形による決済方法
貨物の売主が買主を名宛人とし、 売主の取引銀行を受取人として振出した為替手形 (B加of Exchange)に、輸送中の貨物を担保として船荷証券(Bill
of Lading)あるいは貨物引換証、保険証券(Insurance Policy)、商業送り状(Commercial Invoice)等の船積書類(Shipping
Documents) を添えたものを荷為替手形(Documentary Bill) といいます。
貿易代金決済は、 荷為替手形によって行われるケースがほとんどであり、 売買条件がC I FまたはC&I条件の場合は、船積書類として、保険証券を添付する必要が出てきます。
この意味でも、 外航貨物海上保険証券は貿易代金決済の制度に組み込まれた重要な書類といえるものです。 この荷為替手形による決済方法には、
次のものがあります。
<荷為替手形による決済方法の種類>
荷為替手形による決済方法
……信用状取引
(1) 信用状付荷為替手形決済
……信用状なし取引
(2)D/P決済(支払渡し決済) (Documents against Payment)
(3)D/A決済(引受渡し決済) (Documents against Acceptance)
荷為替手形による決済方法は以上の通りですが、 各決済方法について簡単に解説します。
(2) 信用状取引と外航貨物海上保険
①信用状取引
信用状(Letter of Credit:L/C)とは、 買主の取引銀行が、 買主の依頼に基づき自己の信
用を提供して、 当該信用状に規定された条件に基づいて売主が振り出す代金回収のための荷為替の引受け・支払いを約する証書です。
今日では代金決済を確実なものとするためこの信用状取引が一般に利用されています。
(注)信用状には、信用状の種類、荷受人、発行依頼者、信用状金額、商品名、数量、価格、 取引条件、保険条件、信用状の有効期限、船積港、仕向港等の内容が盛込まれています。
この信用状取引においては、 買主が万が一倒産などにより代金支払が不能となった場合
に、銀行は買主に代わってその代金支払いの肩代わりをすることとなるため、銀行としても信用状の発行には慎重とならざるを得ません。 このため信用状には、
必要な船積書類の
名称とその内容などが詳細に規定されており、 また、 現実の船積書類の内容と信用状の文言とが正確に一致していることが要求されています (厳密一致の原則)。
したがって、 不一致があれば、 開設銀行は船積書類とともに組まれた当該手形の支払保証義務を負わないこととなるため、買取銀行は手形買取りを拒否することになります。
この意味からも、 保険申込みにあたっては、 信用状上の保険条項を十分に確認の上、 その正確性に万全を期す必要があります。 Letter
of Credit
②信用状統一期則
このように貿易決済において信用状の果たす役割は大きいわけですが、 この信用状の用
語解釈と取扱い規定を国際的にルール化したものとして、 国際商業会議所制定による.「荷為替信用状に関する統一規則および慣例」があります。
(ほとんどのL/Cには、「本L/ cに反対の規定が無い限り、 荷為替信用状に関する統一規目lfおよび慣例による」 と規定されており、 本規則が広く使用されております。)
この信用状統一期則は、 国際貿易上の信用授受と金融業務に関する規目lJであるため銀行
業務に深く関連しており、 保険関係書類も含めて各種の船積書類についても規定しています。
③ 信用状取引における貿易書類の流れ
信用状取引における売買契約 (C I F条件の場合) の成立時から貿易代金決済までの書
類の流れ、 および各当事者間の関係を図示すると次の通りになります。
主要取引条件と外航貨物海上保険
1. 海外輸出貿易と外航貨物海上保険
(1) 取引条件がC I F、C&I輸出契約の場合
インコタームズ、CIF、C&I、C&F(CFR),FOB等における売買当事者間の
危険負担の移転時期は貨物が輸出本船の欄干を有効に通過した時と定められていることは前述の通りです。したがって、C I F、C&I輸出契約の場合、売主は船積以降の危険を負担する買主のために、
その貨物に対して自ら保険料を負担して海上保険を手配し、 他の船積書類と共に保険証券を買主に提供する義務があります。 買主は売主から提供された保険証券をもって、
もし海外輸送中の貨物に損害が発生していれば、 保険会社にその損害のてん補を請求することができるわけです。海外引越し貨物
したがって、 買主のために売主が手配すべき(海外引越しの場合は同一)貨物1海上保険証券は、 売買契約及び信用状に
指定された内容 (付保すべき危険、 損害てん補の範囲、 保険期間、 保険金額等) に合致したものでなくてはなりません。
(2)取引条件がC&F(CFR)、FOB輸出契約の場合
C&F(CFR)、FOB輸出契約においては、危険の移転時期については前述のc I F、
C&Iと同様ですが、 価格の中に保険料を含んでおらず、 売主は買主の負担すべき危険について保険を手配する必要がありません。 売主は自己の負うべき危険に対してのみ保険手配をすれば良いことになります。
ただし売主は買主の保険手配のため、 約定貨物の本船船積み通知を買主に遅滞なく行わなくてはなりません。
2. 輸入貿易と外航貨物海上保険
(1) 取引条件がC I F、C&I輸入契約の場合
売主によって保険の手配が行われるC I F、C&I輸入契約において、輸入本船積込以降の危険を負担する輸入者として留意すべきことは、
手配された保険が自己の要望する内容を満たしてぃるかとぃう点にあります。 したがって、 可能な限り、 売買契約において明確に取り決めておき、
売主宛に開設される信用状の保険条項に、 これらの保険条件を明示しておくことが肝要です。
C I F、C&I輸入契約の場合は特に、適切な保険力バーの設定、損害発生時の迅速・ス
ムーズな処理といつた観点から、保険を買主自らがコントロールできるよう売買契約をF 0 B、 c&F (CFR)契約に変更することも検討に値します。
(2) 取引条件がC&F (CFR)、 F 0 B輸入契約の場合
C&F (CFR)、 F 0 B輸入契約では、買主は白己の危険負担開始以降の保険について自
己の費用を以つて手配する必要があります。 特にC&F輸入契約の場合は、 外国港での貨物の実際の船積日を予知することが困難であるため、
事前に保険会社との間で予定保険契約を締結しておくのが一般的です。
なお、 近年仕出地の工場搬出時に危険負担が買主に移転する形態での契約 (Ex Worksや
Ex Factory) も増えていますが、 この場合は買主が工場搬出時から保険を手配する必要があります。
貿易取引条件と保険手配者の関係につき説明しましたが、 こうした取引条件は固定的なものではありません。 海外の売主が手配する保険内容が充分でないとき、
またはより良い保険力バーを得る必要があるとき等は、 取引条件を変更することの検討が必要となります。
たとえば、c I F建で輸入している場合を考えてみます。万一、保険事故が発生した場合、直接取引のない外国保険会社の本邦におけるクレームエージェント、
または直接外国保険会社に対し保険金請求手続きを行う必要があり、 保険金支払いまで極めて時間を要する可能性があります。 また、
これらの外国保険会社は海外の売主と継続的に取引をしていると考えられますので、当該売主の保険成績如何では、保険コストが高くなり、結果的にC
I F価格が高くなるおそれもあります。一方、本邦にて付保していただくことで、詳細な保険内容につき直接打合せすることができ、 また、保険事故が発生した場合にも、迅速かつ適切な処理が可能となります。
是非一度、 保険手配の観点から売買条件をチェックされてはいかがでしょうか。
注)海外引越し貨物の場合はパッキングリストがコーマーシャルインヴォイスの代りとなります。