「中国はなぜ台湾にこだわるのか?」、「なぜ中国は台湾を欲しがるのか」という問いは、単に“島がほしい”という話ではありません。歴史・国家の正統性(正しさの物語)・国内政治・安全保障・経済(とくに海上交通)・外交ルールが、一本の縄のように絡み合っているためです。しかも、当事者(中国/台湾)だけでなく、米国や日本を含む周辺国の安全保障やサプライチェーンにも直結します。
本記事では、感情論に寄らず、**中国側が「なぜ最重要課題として扱うのか」**を中心に、台湾側・国際社会の見方も併せて整理します。
中国(中国政府=中華人民共和国)が台湾問題を「核心的利益」「絶対に譲れない一線」と位置づける背景は、概ね次の8要素に整理できます。
以降、順番に噛み砕いて説明します。

この議論は、前提を混同すると一気にややこしくなります。最小限、次の3点を押さえると理解が進みます。
台湾(台湾島および周辺島嶼の多く)は、現在、台湾の政府(中華民国=ROCの統治機構)によって統治されています。行政・司法・選挙・軍などが独自に機能し、実質的に「別の政治体制」として運営されています。
中国政府は、台湾を「中国の一部」と位置づけ、最終的な統一を国家目標として掲げています。中国の法制度や公式文書でも、台湾は主権の範囲に含まれるという立場が明記されています。
混同されがちですが、
この“言葉は似ているが中身が違う”構造が、台湾問題を複雑にしています。
台湾問題の根っこには、中国内戦の延長という側面があります。
このとき、PRC側の物語では「国家の統一が未完のまま残った」という理解になりやすいのです。
また1971年に国連で中国代表権がPRCへ移ったこと、1979年に米国が国交をPRCへ切り替えたことなどが重なり、国際政治の中で「中国=PRC」という枠組みが強まりました。結果として、中国政府は台湾を「最終的に統一されるべき領域」と位置づけ続けています。
台湾問題は、中国国内で政治的に非常に“使われやすい”テーマでもあります。
中国政府の公式文書では、台湾問題の解決が「国家の偉大な復興」と連動して語られることがあります。つまり台湾は、単なる対外政策ではなく、国家アイデンティティに結びついた内政課題でもあるのです。
地図を見れば一目瞭然ですが、台湾は中国沿岸のすぐ目の前にあり、しかも日本列島〜沖縄〜台湾〜フィリピンへ続く「島の連なり」の要所にあります。安全保障の世界では、これを第一列島線として語ることがあります。
中国側の軍事的視点では、台湾がどの勢力圏にあるかで次の点が大きく変わります。
台湾が「味方の島」か「相手の島」かで、沿岸防衛の設計そのものが変わるため、中国政府にとって台湾は“地理的に重要すぎる”存在になります。
台湾海峡は、東アジアの物流にとって重要な海上交通路です。日本や韓国、台湾、中国沿岸を結ぶ航路が集中し、エネルギーや部材、完成品の輸送にも影響します。
ここでポイントは、「中国が台湾を欲しがる=すぐ経済目的で奪いにいく」という単純図式ではなく、
という“安全保障と経済の接続”です。
台湾海峡の安定は、台湾と中国だけでなく、周辺国の企業活動や生活にも影響します。
台湾が世界の半導体サプライチェーンで非常に重要なのは事実です。とくに最先端ロジック半導体の製造では、台湾企業が大きな存在感を持ちます。
ただし、ここは誤解が生まれやすい箇所でもあります。
半導体は確かに重要ですが、台湾問題はそれ以前から続く「主権・正統性・安全保障」の問題であり、半導体は重要な追加要因と考えるほうが整合的です。
一方で、半導体が絡むことで、台湾海峡の緊張が世界経済に与えるインパクトは増幅しました。いわゆる“シリコンの盾(Silicon Shield)”という議論(台湾が半導体供給の要であることが国際社会の関与を強め、抑止につながるという見方)もありますが、これは「盾になる側面」も「リスクになる側面」も併存します。
台湾問題は、国際政治の“制度”と深く結びついています。
1971年の国連総会決議(いわゆる2758号決議)は、国連における「中国の代表」をPRCに移す内容でした。
ただし、この決議をめぐっては、
があり、解釈をめぐる対立が続いています。
多くの国はPRCと国交を持つ一方、台湾とは経済・文化・人的交流を維持しています。この“曖昧さ”が、現実の安定(衝突回避)に寄与してきた面もありますが、同時に、緊張が高まると解釈の差が表面化します。
台湾は、中国政府にとって「領土主権の一体性」を象徴する案件になっています。
という懸念が中国側にはあります。
もちろん台湾と他地域は歴史的・法的・政治的背景が異なりますが、“分離を認める前例”を作りたくないという政治心理が働きやすい点は押さえておく必要があります。
国家が掲げてきた目標(統一)が達成できるかどうかは、国内外に対する「国家の能力」の見せ方に直結します。
そのため台湾は、単なる一地域の問題というより、“大国としての自画像”の一部になりやすいのです。

台湾社会では、民主化以降、台湾独自の政治アイデンティティが強まりました。
この「現状維持を望むが、圧力も強まる」という構図が、台湾海峡の難しさです。

将来を断定することはできませんが、議論の整理としては次のパターンが語られます。
重要なのは、「台湾を欲しがる理由」を理解すると、どのシナリオでどの要素が強く作用するか(国内政治が主因になる時期/安全保障が主因になる局面など)を読み解きやすくなる点です。
日本にとって台湾海峡の安定は、
の観点から重要です。
ただし、SNS上では「断定」「煽り」「根拠不明の陰謀論」も混ざりやすい領域です。ニュースや公的資料、一次情報(政府発表、法文書、国際機関の原資料)を基準にし、複数ソースで照合する姿勢が欠かせません。
国際法上の「国家」としての承認は、各国の外交判断に左右されます。台湾は実効支配・統治機構・選挙など国家に近い要素を持つ一方、多くの国はPRCを承認しているため、台湾は国際機関への参加が制約されやすい、という現実があります。
1971年の国連総会決議は「中国代表権」をPRCに移したものですが、その解釈をめぐっては対立が続いています。決議が台湾の主権を直接規定したかどうかは、政治的に争点になっています。
海の法制度(領海・接続水域・EEZなど)と、各国の主張が絡むため、簡単には言い切れません。実務上は多国籍の船舶が航行し、航行の自由が重要論点になっています。
半導体は重要要因ですが、台湾問題はそれ以前から続く主権・正統性・安全保障の問題であり、半導体は“重要な追加要素”と捉えるほうが理解しやすいです。
中国が台湾にこだわる理由は、経済や産業だけでは説明できません。
これらが重なり、台湾は中国にとって「国家の根幹に触れるテーマ」になっています。だからこそ、議論は感情的になりやすく、同時に、冷静な前提整理と情報の照合が必要になります。