台湾・米軍基地
台湾に米軍基地はあるのか?
「台湾 米軍 基地」という言葉で検索すると、
- 今も米軍が台湾に基地を持っているのではないか
- 米軍が密かに部隊やミサイルを配備しているのではないか
といった話が数多く出てきます。
しかし、実際のところはどうなのでしょうか。本記事では、
- 現在の台湾に米軍基地が存在するのか
- 冷戦期に台湾に置かれていた米軍基地の歴史
- 現代の米台軍事協力と駐留米軍の実態
- 「事実上の米軍基地」という言い方の是非
- 日本にとっての意味
といったポイントを整理し、「台湾 米軍基地」の実像をわかりやすく解説します。
現在の台湾に「正式な米軍基地」は存在しない

まず最初に結論からお伝えすると、
現在の台湾には、日本の在日米軍基地のような「正式な米軍基地」は存在しません。
ここでいう「正式な米軍基地」とは、
- アメリカ政府がホスト国との協定に基づき
- 米軍が基地の管理権を持ち
- 大規模な戦闘部隊や航空部隊が常駐している施設
といったものを指します。
日本の横田基地、嘉手納基地、三沢基地などはこの典型例です。しかし台湾には、このような形で米軍が直接管理し、恒常的に使用している基地はありません。
一方で、
- 米軍の教官やトレーナーが台湾軍を訓練している
- 米国から供与された兵器やシステムが台湾の基地で運用されている
- 情報共有や共同訓練が行われている
といった「軍事協力」は、近年むしろ強まっています。この「協力」の実態が、「米軍基地が復活した」「事実上の基地だ」というイメージにつながっていると言えます。
冷戦期には台湾に米軍基地が多数存在した
現在は「米軍基地はない」とはいえ、冷戦期の台湾には多くの米軍基地・施設が存在していました。この歴史を押さえておくと、なぜ今も「台湾 米軍基地」という言葉が語られるのかが理解しやすくなります。
米軍協防台湾司令部(USTDC)とは
1954年の米台相互防衛条約にもとづき、アメリカは
- 「米軍協防台湾司令部(United States Taiwan Defense Command, USTDC)」
という指揮機関を台北に設置しました。これは、台湾および周辺海域の防衛を担当する米軍の統合司令部で、
の要員が台湾に駐留し、台湾軍とともに中国本土からの攻撃に備えていました。
主な米軍基地・施設
冷戦期の台湾には、次のような米軍関連の基地・施設が存在していました。
- 台北周辺
- 台北空軍基地、台北エアステーション
- 通信・情報収集のための施設
- 台中(清泉崗空軍基地)
- アメリカ空軍の戦闘機部隊や輸送機部隊が展開
- ベトナム戦争期には東アジアの重要な拠点の一つ
- 台南、嘉義、新竹などの空軍基地
- 米空軍の戦闘機や偵察機が一時的・ローテーションで展開
- 高雄・左営などの海軍施設
一時期、台湾に駐留する米軍人は2万名近くに達し、日本の在日米軍と同様に、
- 米軍家族向け住宅
- PX(米軍専用売店)
- 学校や教会
なども存在していました。
つまり「かつての台湾」には、紛れもなく本格的な米軍基地網があったと言えます。
1979年の断交と米軍基地撤退
では、なぜ今は台湾に米軍基地がないのでしょうか。その大きな転機が、1979年の米中国交正常化です。
米中国交正常化と米台相互防衛条約の終了
1979年1月、アメリカは中華人民共和国(北京政府)と国交を樹立し、台湾の中華民国政府とは外交関係を断ちました。これに伴い、
- 米台相互防衛条約は失効
- 台湾駐留の米軍部隊は段階的に撤退
- 米軍協防台湾司令部も解散
という流れが進みました。
この時点で、台湾にあった米軍基地は、
- 米軍施設としての使用を停止
- 設備の撤去や移管を行い
- 台湾側の基地・公共施設などとして再利用
されていきます。
例えば、かつての米軍司令部跡地が美術館や公園に生まれ変わっているケースもあり、「ここが昔は米軍の司令部だった」といった形で、今も歴史の痕跡だけが残っている場所もあります。
台湾関係法と「基地なき関与」
米国は台湾との正式な同盟関係を終了させた一方で、
- 台湾関係法(Taiwan Relations Act)
を制定し、台湾の防衛力維持を支援することを法律で定めました。ただし、
- 台湾を公式な同盟国とはせず
- 米軍基地を再び置くこともしていない
という、いわば「基地なき関与」という形が採られています。
この枠組みが、現在まで続いているのが大きなポイントです。
現在の米台軍事協力:基地でなく「駐留・訓練」が中心
では、現在の「台湾と米軍」の関係はどのようなものなのでしょうか。ここ数年、とくに注目されているのが、
- 米軍の教官・トレーナーの台湾常駐
- 台湾軍との共同訓練や机上演習
- 情報共有や兵器運用の協力
といった、いわゆる「基地なき駐留」です。
在台米軍人の存在
報道ベースでは、
- 特殊部隊を含む米軍の教官・トレーナー
- 防衛協力のための調整要員
などが台湾各地で台湾軍を指導していることが伝えられています。また近年は、その人数が増加傾向にあるとも報じられており、
- 数十人規模とされた時期
- 100人以上とされた時期
- さらには数百人規模に達しているという見方
など、さまざまな数字が出ています。
ポイントは、これらの要員が駐在している場所は、
などであり、「米軍基地」ではないという点です。施設の主権や管理権はあくまで台湾側にあり、米軍は「ゲスト」として活動しています。
兵器・防衛システムの運用支援
米国は、
- 戦闘機(F-16Vなど)
- 対艦・対空ミサイル
- レーダー・指揮統制システム
といった装備を台湾に供与しています。これらの高度な兵器を台湾軍が運用するためには、
- 操縦・整備の訓練
- システム統合の支援
- ソフトウェア更新や運用ノウハウの共有
が欠かせません。そのため、米軍や米国の技術者が台湾側拠点に出入りし、「一緒に使い方を磨く」という形で協力が進んでいます。
これも「米軍基地の再来」というよりは、
と理解するほうが実態に近いと言えます。
「事実上の米軍基地」なのか?よくある誤解
日本語のネット上には、
- 台湾にはすでに米軍基地が復活している
- 米軍が秘密裏にミサイルや核兵器を配備している
といった、かなり踏み込んだ言説も見られます。ただし、これらの多くは、
- 公開情報や衛星写真の解釈
- 一部メディアの論評
- SNSでの憶測
が混ざったもので、事実と推測の線引きがあいまいになっているケースが少なくありません。
整理すると、
- 台湾には今も多数の軍事基地が存在する(これは事実。ただし台湾軍の基地)
- その一部で米軍と台湾軍が共同訓練などを行っている(これも公然の事実)
- それを「事実上の米軍基地」と呼ぶ論者がいる(表現の問題であり、国際法上の「米軍基地」とは別)
という構図になっています。
たとえば、
- 台湾軍の空軍基地に米軍の教官が一定期間常駐している
- レーダーサイトに米国の技術者が出入りしている
といった事実は、「米台の連携強化」を示すサインではありますが、
- その基地の主権が米国に移った
- 在日米軍のような地位協定がある
といった意味ではありません。
したがって、
- 「台湾に米軍基地が復活した」という表現は誤解を招きやすい
- より正確には「台湾軍の基地を舞台に米台が共同訓練・運用を進めている」と表現したほうがよい
と言えるでしょう。
中国から見た「台湾 米軍基地」問題
中国(中華人民共和国)にとって、
は極めて敏感な問題です。中国政府は、台湾を自国の一部と位置づけているため、
- 米軍の台湾関与を「内政干渉」「主権侵害」と強く批判
- 米軍のプレゼンス拡大を「レッドライン(越えてはならない一線)」と見なす
傾向が強くなっています。
その一方で、米国と台湾としては、
- 台湾の防衛力を高めて抑止力を維持したい
- しかし、あからさまな「米軍基地の再設置」は中国との正面衝突を招きかねない
というジレンマを抱えています。
その結果として、
- 名称上は台湾の基地のまま
- 米軍は「訓練」「協力」「交流」という形で関与
という、あえて曖昧さを残した仕組みが選ばれていると考えられます。
この「曖昧さ」こそが、
- 一部で「もう米軍基地がある」と言われ
- 別の立場からは「正式な基地は存在しない」とされる
という、二つの認識のギャップを生んでいると言えるでしょう。
日本にとっての意味:在日米軍基地との関係
日本から見た場合、「台湾 米軍基地」問題は、
とも深く関係しています。多くの安全保障専門家は、
- 台湾有事が起きた場合、実際の米軍の主力拠点は沖縄や九州など日本国内の基地になる
と指摘しています。
具体的には、
- 沖縄の嘉手納基地(空軍)
- 普天間飛行場・キャンプ・シュワブなどの海兵隊基地
- 佐世保基地や横須賀基地といった海軍拠点
などが、
- 台湾周辺海域での作戦
- 防空・制空権の確保
- 補給・整備
の中心になると見られています。
つまり、台湾に米軍基地があるかどうかだけでなく、
- 日本にある米軍基地が台湾情勢とどう結びついているのか
という視点が日本に住む人々にとっても非常に重要です。
まとめ:「台湾 米軍基地」をどう理解するか
最後に、本記事のポイントを整理します。
- 現在の台湾には、日本のような形の「正式な米軍基地」は存在しない
- しかし、冷戦期には台北や台中などに多数の米軍基地・施設があり、大規模な駐留が行われていた
- 1979年の米中国交正常化とともに米台相互防衛条約が終了し、米軍基地は撤退した
- 現在は、台湾軍の基地を舞台に、米軍の教官・トレーナーが台湾軍を訓練し、兵器運用や情報共有などの協力を進めている
- こうした「基地なき駐留」「共同運用」が、一部では「事実上の米軍基地」と呼ばれているが、国際法上の意味や主権の所在は異なる
- 中国は米軍の台湾関与を強く警戒しており、米台側は意図的に「曖昧さ」を残しながら協力を深めている
- 日本にとっては、台湾そのものだけでなく、在日米軍基地が台湾情勢とどのように結びついているかを考えることが重要
「台湾 米軍基地」という言葉の裏には、
- 冷戦期の歴史
- 1979年以降の「基地なき関与」
- 現在進行形の米中・米台関係
といった複雑な要素が重なっています。
単に「ある・ない」だけで議論するのではなく、
- どの時代の話をしているのか
- 何をもって「基地」と呼ぶのか
という視点を持つことで、より落ち着いた理解につながるでしょう。