アメリカ(米国)と台湾(中華民国)は、現在も正式な外交関係=国交を結んでいません。 1979年に米国が中華人民共和国(中国)を唯一の中国政府として承認したため、台湾との国交は断交されました。以後、米台関係は「公式ではないが非常に密接な関係」として維持されています。
ここを誤解すると、ニュースやSNSの議論が分かりにくくなります。以降、**「国交がないのに、なぜこんなに深い関係なの?」**を順に解説します。
冷戦期、米国は反共政策の一環として台湾と同盟関係を結び、1954年には米華相互防衛条約を締結して台湾を守る姿勢を示しました。
1970年代、ソ連を主な脅威と見た米国は中国大陸との関係改善を進めます。これが1972年の上海コミュニケ、そして1979年の米中国交樹立につながりました。
その結果、米国は北京のPRCを「中国の唯一の合法政府」と認め、台北のROC(台湾)との国交を終了しました。
断交によって普通なら関係が弱くなりそうですが、米国は同時に**台湾関係法(Taiwan Relations Act, 1979)**を制定しました。これは米国内法で、
といった柱を定めています。
つまり、**「国交は切ったが、台湾の安全と交流は守る」**という、かなり特殊な構造が作られたわけです。
ここが最大のポイントです。
米国は、
という立場をとります。
一方の中国は、
とする、より強い主張です。米国の政策と同じ言葉でも中身が違うため、衝突の原因になります。
米国は台湾に大使館を置けない代わりに、**米国在台協会(AIT)**が大使館に近い役割を担っています。 ビザ発給、政府高官の往来、軍事協力の調整など、実務はほぼ通常の外交と同等です。
米国はTRAに基づき、台湾に防衛装備を売却し、軍の訓練支援も行ってきました。これが台湾海峡のバランスを支える仕組みです。
台湾は半導体の重要拠点であり、米国の経済安全保障・先端技術政策とも直結しています。2025年も関税協議など経済面の結びつきが強化されています。
2025年2月、米国務省が公式サイトのファクトシートから 「米国は台湾独立を支持しない」という文言を削除し、台湾の国際機関参加支援などを明確化しました。
これに台湾は歓迎、中国は強く反発しました。
ただし、多くの専門家は米国の「一つの中国」政策そのものが変わったわけではないと評価しています。
レーガン政権期に台湾に与えた「六つの保証」を、2025年に議会が法制化しようとする動きが進んでいます。 これは台湾への関与の安定性を上げる狙いがあり、国交ではないものの、安全保障の“確約感”を強める方向です。
さらに直近では、米上院が**台湾保証実施法案(Taiwan Assurance Implementation Act)**を可決。 米政府内に残る「台湾との交流制限(自己規制)」を定期的に見直し、解除していくことを求める内容で、交流の幅が広がる可能性があります。
これも「国交樹立」そのものではありませんが、“非公式関係をより公式に近い形へ”整備する流れと理解できます。
米国が台湾と正式に国交を結べば、
このコストが非常に大きいため、米国は今も国交“未満”の強い関係でバランスを取っています。
米国は、
という二重の抑止を狙って、あえて曖昧さを残した政策を選んできました。 国交樹立はこの曖昧さを消し、危機を一気に高めかねません。
台湾世論では「独立」か「統一」かより、まずは現状維持を望む層が長く多数派とされてきました。 米台国交は“独立へ誘導する動き”とみられるため、台湾自身も慎重にならざるを得ません。
結論から言えば、短期的に米台が正式な国交を結ぶ可能性は高くありません。 ただし、以下のような流れは強まっています。
逆に、米台国交の動きが現実味を帯びるのは、
など、“構造が変わるような局面”です。
いま米国が取っているのは、**「国交はないが、支援と連携は史上最強レベルにする」**という路線であり、2025年の法案可決などはその象徴と言えるでしょう。