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石打ちの刑・イラン 

イラン・石打ちの刑

石打ちの刑・イラン

制度として何が書かれ、現実にはどう扱われてきたのか

「イランでは今も石打ちの刑が行われているのか」という疑問は、日本語のニュース記事やSNS、あるいは海外人権問題を扱うドキュメンタリーなどで断片的な情報に触れたとき、多くの人が自然に抱くものです。特に「石打ち」という言葉が持つ強烈な響きは、現代社会の感覚からすると非常にショッキングであり、強い感情的反応を引き起こしやすい特徴があります。

結論から言えば、イランの刑法体系には石打ちの刑(ラジム/rajm)を想定した規定が残ってきた経緯がある一方で、実際の運用状況は極めて不透明で、現在も頻繁に公然と行われていると断定できる状況ではありません。この「制度として残る条文」と「現実の執行状況」のズレこそが、この問題を理解しにくくしている最大の要因です。

重要なのは、「法律に書かれていること」と「現実にどのように執行されているか」は必ずしも一致しないという点です。本記事では、イランにおける石打ちの刑について、制度的な背景、実務上の扱い、国際社会からの評価を整理しながら、日本語圏で生じやすい誤解についても丁寧に解説していきます。


1. 石打ちの刑とは何か

石打ちの刑は、一般にイスラム法の文脈で**「ラジム(rajm)」と呼ばれます。これは、一定の条件を満たした場合に科されるとされてきた刑罰で、主に姦通(結婚している者が婚外で性行為を行うこと)**と結び付けて語られることが多いものです。

イスラム法を基礎とする刑法体系では、刑罰は性質ごとにいくつかの類型に分けて理解されます。代表的な区分は次のとおりです。

  • ハッド刑:神の権利に属するとされ、刑罰内容が宗教法上あらかじめ定められている固定刑
  • キサース:報復刑。殺人や傷害事件などで被害者側の意思が量刑に影響する
  • ディヤ:金銭による賠償(血の代価)
  • タアズィール:裁量刑。裁判官が社会状況などを考慮して刑を定める

石打ちの刑は主にハッド刑の文脈で語られますが、この「固定刑」という性質が、個別事情を十分に考慮しにくいという点で、現代的な刑事司法や人権概念と深刻な緊張関係を生んでいます。

補足:実際には「どのように執行されると想定されてきたのか

伝統的な解説では、石打ちの刑は次のような流れで「想定」されてきました。

  • 有罪が確定した人物が、一定の深さまで地面に埋められる(性別によって深さが異なると説明されることが多い)
  • 周囲の人々、あるいは執行に関わる者が、致命傷になりにくい大きさの石を投げるとされる
  • 逃げられない状態で刑が続き、最終的に死亡に至る

この方法が特徴的なのは、一撃で終わる刑罰ではなく、集団的な行為として進行する点にあります。そのため国際社会では、身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛や公開性、共同責任の構造そのものが強く問題視されてきました。

重要なのは、こうした「執行方法の想定」が存在すること自体が、たとえ実際に執行件数が少ない、あるいは別の方法に置き換えられている場合であっても、深刻な人権侵害の懸念を生むという点です。


2. イランの法律上の位置づけ

イランでは1979年のイスラム革命以降、イスラム法を基礎とした刑法体系が整備されてきました。その過程で、姦通を含む性犯罪に関する規定が明文化され、石打ちの刑を想定する条文も盛り込まれてきました。

2010年代に行われた刑法改正の過程では、国際社会からの強い批判を受け、**「石打ちの刑が削除された」「事実上凍結された」**と報じられた時期もあります。しかし最終的な法文を見ると、石打ちを想定する考え方が完全に排除されたとは言い切れない内容が残ったと評価されることが多いのが実情です。

さらに実務上は、「石打ちの刑をそのまま執行できない、または適切でないと判断された場合、別の方法で死刑を執行できる」と解釈され得る余地がある点も問題視されてきました。これは、形式上は石打ちが行われなくても、結果として死刑が維持され得ることを意味し、国際人権団体から強い懸念が示されてきました。


3. どのような犯罪に関係するのか

石打ちの刑が議論される中心は、**姦通(zina)**です。理論上は非常に厳格な証明要件が必要とされ、軽々に適用されるべきものではないと説明されることもあります。

しかし実際には、

  • 取り調べ段階での自白の強要
  • 弁護人への十分なアクセスが確保されないこと
  • 家族や地域社会からの圧力

といった要因が重なることで、公正な裁判が行われているのか疑問が残るケースが指摘されてきました。特に女性や社会的に弱い立場に置かれた人々が不利になりやすい構造については、国際人権団体が長年にわたり問題視しています。


4. 「今も石打ちは行われているのか」という問い

この問いに対して明確な「はい」や「いいえ」を示すことは困難です。その理由として、次の点が挙げられます。

  • イランでは死刑執行や裁判記録の公開が限定的である
  • 国際的に批判の強い刑罰ほど、公式情報が意図的に出にくくなる傾向がある
  • 石打ちではなく、絞首刑など別の方法に切り替えられている可能性がある

こうした事情から、「今も頻繁に石打ちが行われている」と断定することも、「完全に過去の制度であり、もはや存在しない」と言い切ることも、どちらも正確とは言えません。重要なのは、制度として残り得ること自体が深刻な人権問題を孕んでいるという点です。


5. 国際社会が強く批判する理由

石打ちの刑が国際社会から強く非難される理由は、単に刑罰が過酷だからという点にとどまりません。主な論点は以下のとおりです。

  • 極めて残虐で非人道的な刑罰と評価されている
  • 拷問や残虐刑を禁じる国際人権規範と根本的に相容れない
  • 性犯罪の処罰において女性差別を助長する構造が存在する
  • 公正な裁判を受ける権利が十分に保障されない恐れがある

このため、国連機関やアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの国際人権団体は、イランに対し石打ちの刑を含む死刑制度全般の見直しや廃止を繰り返し求めてきました。


6. 日本語圏で起こりやすい誤解

誤解① 石打ちは日常的に公然と行われている

石打ちの刑は映像や証言と結び付けて語られることが多く、非常に強い印象を与えます。しかし実際の執行頻度や具体的な方法は外部から把握しにくく、断片的な情報だけで全体像を判断するのは危険です。

誤解② 運用されていないなら問題ない

条文が残っているだけでも、当事者にとっては「いつ適用されるか分からない恐怖」となり得ます。制度として存在すること自体が、捜査や裁判の過程で圧力として機能する可能性があります。

誤解③ イスラム教=石打ち

イスラム圏は一枚岩ではなく、法制度や刑罰のあり方は国によって大きく異なります。石打ちの刑を採用していないイスラム国家も多数存在し、宗教そのものと特定の国家制度を混同するのは適切ではありません。


7. まとめ

  • イランには石打ちの刑を想定した規定が残ってきた歴史的経緯がある
  • 実際の運用状況は不透明で、外部から単純に断定することはできない
  • 石打ちの刑は残虐性と人権侵害の観点から国際的に強い批判を受けている
  • 条文の有無だけでなく、運用実態と情報公開の透明性を見ることが重要である

石打ちの刑は、単なる過去の残酷な刑罰の話ではありません。それは、現代の人権意識、宗教と国家の関係、刑事司法のあり方が交錯する象徴的な問題です。感情的なイメージだけで判断するのではなく、制度と現実を切り分けて理解する姿勢が求められます。

 

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