2025年シーズン、トロント・ブルージェイズはアメリカンリーグ東地区で快進撃を見せ、ついにワールドシリーズ進出を果たしました。大谷翔平を擁する強豪ロサンゼルス・ドジャースとの頂上決戦に臨む姿に、多くのファンが胸を熱くしています。しかし、なぜブルージェイズはここまで強くなったのでしょうか?
英語圏のメディアでも「What makes the Blue Jays so good?(なぜブルージェイズは強いのか)」というテーマで特集が組まれています。ここでは、アメリカやカナダの報道をもとに、ブルージェイズの強さを支える5つの柱を詳しく見ていきましょう。
ブルージェイズが近年で最も評価されているのは、攻撃の安定感とコンタクト能力です。2025年のチームは、メジャー全体でもトップクラスの「ゾーン内スイング率」と「ゾーン内コンタクト率」を誇り、ストライクゾーンの見極めが極めて精密です。
英語メディア Sportsnet は、彼らの打撃戦略を「Calculated aggression(計算された積極性)」と表現しています。単なるフリースインガーではなく、ボールを見極めて狙い撃つスタイルが確立しているのです。特にウラジミール・ゲレーロJr.やボー・ビシェットといった中軸打者は、シーズンを通して一貫して出塁率と長打率を維持し、チームの得点力を底上げしています。
さらに、若手選手の成長も大きな要素です。デービス・シュナイダーやスペンサー・ホーレッツのような次世代の打者が、控えではなく勝負どころで起用できるレベルにまで成長。これにより、ブルージェイズ打線は「穴がない」と評されるまでに進化しました。
攻撃に加え、守備力の向上もブルージェイズの躍進を支える重要な要素です。守備指標(Defensive Runs Saved=DRS)では、チーム全体でメジャー上位に位置しています。2025年シーズンは複数の選手が+5以上の守備得点を記録し、まさに“鉄壁”の布陣を形成しています。
特筆すべきは、チーム全体の守備の柔軟性(ユーティリティ性)です。内外野を自在に守れるホイット・メリフィールド、さらには二塁・遊撃を両方こなすサンティアゴ・エスピナルなど、どの選手も複数ポジションを守る能力を持っています。これにより、監督ジョン・シュナイダーは試合状況や対戦相手に応じて最適な守備配置を組めるようになっています。
守備の堅さはピッチャー陣にも良い影響を与えています。安定した守備があることで、投手がリスクを恐れずにストライクゾーンを攻めることができ、結果としてチーム防御率(ERA)の改善につながっているのです。
ブルージェイズの強さを語るうえで欠かせないのが、データサイエンスの導入です。近年のMLBでは、アナリティクス(分析)を基に選手の配置・起用・スイング軌道までを最適化する手法が主流となっていますが、ブルージェイズはその先駆的存在といわれています。
フロントオフィスと現場の連携も密接です。チームのデータ部門は選手のスイング速度、打球角度、スピンレート、走塁スピードなどのデータをAIで解析し、どの状況で最もパフォーマンスを発揮できるかを科学的にサポートしています。
また、栄養・休養・トレーニングも数値化されており、疲労度に応じた休養日を導入することで選手の故障リスクを減らしています。前回の記事で紹介した日本人管理栄養士・讃井友香さんの存在も、この“科学的サポート体制”の一部として欠かせません。
ブルージェイズの経営陣は、**「共有意識(Shared Consciousness)」**を大切にするリーダーシップ哲学を持っています。これは、チーム全員が自分の役割だけでなくチーム全体の目標を理解し、意識的に動くという考え方です。
この文化は、CEOやGM(ゼネラルマネージャー)からコーチ、選手にまで浸透しています。従来のトップダウン型の指示ではなく、スタッフ全員が意見を出し合い、現場と経営が一体化したチーム運営を実現しています。選手は「自分がチームの歯車の一部ではなく、チームそのものを構成する一員だ」と感じることができる環境が整っているのです。
この文化があるからこそ、失敗しても選手はすぐに立ち直り、若手も萎縮せずに挑戦できます。これが「ブルージェイズはメンタルが強い」といわれる理由の一つです。
ブルージェイズは、単にスター選手に頼るチームではありません。2025年シーズンは、全員が役割を持ち、チーム全体で勝つことを徹底しました。控え選手や中継ぎ投手にも明確な役割を設定し、誰が出てもチーム力が落ちない体制を作り上げています。
補強面でも、フロントの戦略は的確です。ベテラン投手を補強して若手の負担を軽減し、同時にクラブハウスのムードメーカーとして機能させるなど、数字に表れない価値を重視した補強が成功しています。
特に2025年は、キャンプ前からチーム内の競争を促すため、ポジションごとに複数の候補を確保。開幕時点での“最強メンバー”だけでなく、シーズン途中の故障や疲労にも対応できる柔軟なチーム構成を維持しています。
ブルージェイズの強さを支えるもう一つの要素は、精神的な柔軟性と粘り強さです。2024年シーズンは一時的な低迷期がありましたが、翌年にすぐ立て直した背景には、選手と首脳陣の“反省と進化”があります。
英語版 Sportsnet の分析によれば、「ブルージェイズはチームの弱点を冷静に分析し、オフシーズンに的確な改善策を講じた」ことが成功の要因とされています。データだけでなく、チームの“気持ち”や“信頼関係”も再構築した結果、今のブルージェイズが生まれたのです。
もちろん、ブルージェイズに課題がないわけではありません。シーズン後半の故障リスク、若手投手陣の経験不足、そして激戦のア・リーグ東地区での競争の激しさは今後も続くでしょう。しかし、彼らは常に“変化を恐れない姿勢”を持ち、課題を進化の糧としてきました。
チーム関係者は「We are built to last(私たちは長く勝ち続けるために作られている)」と語ります。その言葉どおり、ブルージェイズの組織構造と文化は短期的な強さではなく、持続的な成功モデルを目指しています。
トロント・ブルージェイズの強さは、単に才能や資金に基づくものではありません。それは、次の5つの柱に支えられた“組織としての完成度”によって成り立っています。
これらすべてが連動し、ブルージェイズは今や「勝てるチーム」から「勝ち続けるチーム」へと進化を遂げています。ワールドシリーズでの戦いは、その成果を世界に示す絶好の舞台となるでしょう。