メジャーリーグ・連覇記録
メジャーリーグのワールドシリーズ連続優勝記録と歴史
2025年11月ドジャースがワールドシリーズ連覇を成し遂げました。 メジャーリーグでの連覇記録はどれくらいなのでしょうか?
MLBでの「連覇」は、ワールドシリーズ(WS)を連続で制したケースを指します。ポストシーズンのラウンドが増え、投手運用が細分化された現代では達成が難しく、例そのものが希少です。
本稿は、これまでのワールドシリーズ連覇の記録(最長→三連覇→二連覇)に時代背景・制度変更・“なぜ難しいのか”の統計的メモを足し、各王朝の中身まで掘り下げた増補版です。
 用語とスコープ(最初に整理)
- 対象:1903年以降に開催されたワールドシリーズ(※1904年は未開催、1994年はストで中止)。
 
- “連覇”の定義:連続年にWS優勝(Back-to-back以上)。単年優勝を挟む王朝(例:2010・2012・2014のSFジャイアンツ)は連覇に含めない。
 
- 注意点:1903年および1919–1921年は**9戦制(best-of-nine)**の年がある/1969年にLCS導入、1995年にDS導入、2012年二つ目のワイルドカード、2022年以降の新フォーマットなど、制度が変わるほど難易度が上がる。
 
1. 最長記録:ニューヨーク・ヤンキースの5連覇(1949–1953)
MLB連覇の最長記録はヤンキースの5年連続世界一。ジョー・ディマジオ最晩年からミッキー・マントル台頭期への橋渡し世代で、ケーシー・ステンゲル監督が短期決戦の勝ち方を“制度化”しました。捕手ヨギ・ベラの配球、内外野の守備と走塁、そしてシリーズ中の柔軟な先発起用が、1年ではなく5年続けて機能したことが特異です。※当時はポストシーズンがWSのみで、現在より“王者の維持”が構造的に有利でした。
2. 4連覇:ヤンキースの1936–1939
ルー・ゲーリッグ末期から若きジョー・ディマジオが主役へ。4年連続で世界一。長打の破壊力に、当時としては質量ともに厚い投手陣が噛み合いました。
3. 3連覇(スリーピート)
- オークランド・アスレチックス(1972–1974):キャットフィッシュ・ハンター、ローリー・フィンガース、ヴィダ・ブルーら。守備・走塁を含む“1点を取り切る”設計で3連覇。
 
- ニューヨーク・ヤンキース(1998–2000):ジーター、ポサダ、ペティット、バーニー、ティノ、そしてマリアノ・リベラ。プレーオフ多層化の時代における最後の王朝型3連覇。
 
4. 2連覇(バック・トゥ・バック)主要例
- シカゴ・カブス(1907–1908)
 
- フィラデルフィア・アスレチックス(1910–1911)
 
- ボストン・レッドソックス(1915–1916)
 
- ニューヨーク・ジャイアンツ(1921–1922)
 
- ニューヨーク・ヤンキース(1927–1928)
 
- フィラデルフィア・アスレチックス(1929–1930)
 
- ニューヨーク・ヤンキース(1961–1962)
 
- シンシナティ・レッズ(1975–1976)(“ビッグレッドマシン”)
 
- ニューヨーク・ヤンキース(1977–1978)
 
- トロント・ブルージェイズ(1992–1993)(カナダ球団として初の連覇)
 
- ロサンゼルス・ドジャース(2024–2025)(現行制度下の希少例)
 
※上記は「WSを連続で制した年」のみを列挙。
5. 連覇が難しくなった理由(現代の視点)
- ポストシーズンの長期化:DS→LCS→WSの3ラウンドを毎年踏破する必要。番狂わせが増え、“最強=最終的に勝つ”とは限らない。
 
- 投手運用の細分化:先発のイニング短縮、1点差のゲーム運用、マッチアップ継投。シリーズ支配の“再現性”が低下。
 
- 戦力均衡化:FA、ドラフト、インターナショナル規制が整備され、一強体制の継続が難しい。
 
- ヘルス&ロード管理:162試合+PSの負荷を2年連続で耐えること自体が難題。翌年は対策も厚くなる。
 
6. 時代ごとの“連覇の重さ”を比較する
- WS一発勝負の時代(〜1968):理論上は連覇が出やすい。ヤンキースの5連覇もこの構造の産物。
 
- LCS導入(1969〜):ラウンド増。1970年代のA’s三連覇、レッズ二連覇は投手・守備・走塁の完成度で押し切った希少例。
 
- ワイルドカード導入(1995〜):PSの“運要素”上昇。1998–2000ヤンキースは例外的王朝。
 
- 現行フォーマット(2022〜):WCシリーズを含む。2024–25ドジャースの連覇は構造的難度が高い時代での偉業。
 
7. 近年の意味づけ(再掲+補足)
- 1998–2000ヤンキース:控えを含む層の厚さと、リベラという“終わらせ方の正解”。
 
- 1992–93ブルージェイズ:カナダ球団初の連覇。国境を越えた王朝の象徴。
 
- 2024–25ドジャース:PS多層化時代の超高難度2連覇。10月仕様の投手・守備・走塁運用が鍵。
 
8. 近年の連覇の“中身”を覗く
8-1. 1972–74 A’s(3連覇)
- 勝ち方:低得点ゲームを制御。クローザー像を確立したローリー・フィンガースの存在が巨大。
 
- 文化:オーナー色が強く摩擦も多いが、フィールド上の設計は短期決戦特化。
 
8-2. 1975–76 レッズ(二連覇)
- “ビッグレッドマシン”:ベンチ、モーガン、ローズの攻守走。短期決戦での走塁圧が相手守備を崩す。
 
8-3. 1998–2000 ヤンキース(三連覇)
- 戦力設計:主力の成熟+ベテラン補強+マイナーの即戦力化。**“怪我に強い層”**で1年の事故を吸収。
 
- 戦術:**“先に1点、最後はリベラ”**の再現性。
 
8-4. 2024–25 ドジャース(二連覇)
- 運用:先発の短縮/ブルペンの“勝ちパターン”複線化/守備走塁の交換タイミングを高速化。
 
- 象徴的試合:2025年WS第2戦の山本完投、同年第7戦の連投勝利。スローガン“WE RULE OCTOBER”で王朝の物語を視覚化。
 
9. 連覇未遂の王朝(“惜しくも連覇を逃した例”)
- 1950年代ブルックリン・ドジャース:頻繁にWSへ届くも、連覇は未達。
 
- 1970–71 オリオールズ:投手王国でも短期決戦での“1点差”に泣く。
 
- 2010–14 ジャイアンツ:隔年王者(3度優勝)だが連続はならず。短期決戦力は史上屈指。
 
10. 名監督と連覇
- ケーシー・ステンゲル(Yankees):最長5連覇の采配。
 
- ジョー・トーリ(Yankees):3連覇を含む王朝の設計者。
 
- キト・ガストン(Blue Jays):カナダ球団初の連覇を実現。
 
- デーブ・ロバーツ(Dodgers):現行フォーマットでの二連覇に到達(2024–25)。
 
11. データでみる「連覇の難しさ」
11-1. 簡易モデル(50%仮定)
- 旧制度(WSのみ):1年優勝50% → 連覇25%。
 
- 現行(DS→LCS→WS 各50%):1年優勝12.5% → 連覇1.56%。 → 制度が変わるだけで桁落ち。
 
11-2. 強者補正を入れた雑推定
強いチームのシリーズ勝率を**60%**と仮定:
- 旧制度:0.6 → 連覇0.36。
 
- 現行:0.6^3 ≈ 0.216 → 連覇0.216^2 ≈ 4.7%。 → 最強級でも5%未満。再現性の低さが見える。
 
12. よくある誤解Q&A(拡張)
Q1. 2010年代ジャイアンツは“三連覇”?
A. 2010・2012・2014の3度優勝だが連続ではないので“連覇”ではない。
Q2. 1994年の“もしも”でヤンキースは4連覇級?
A. 94年WSは中止。仮定の話は記録に含めない。
Q3. NPBの連覇と比較できる?
A. 類似はするが、MLBはラウンド数が多く、旅程・日程・対戦相手の多様性も異なるため、単純比較はできない。
Q4. 2020年(短縮シーズン)の扱いは?
A. 正規のWSだが、翌年以降に連覇した場合のみ“連覇”としてカウント。2020→2021の連覇達成例はなし。
13. 付録A:ワールドシリーズ連覇「完全リスト」
対象:1903年以降のワールドシリーズで連続優勝(バック・トゥ・バック以上)したチーム。
| 連覇年 | 
球団 | 
監督(主) | 
主な投手 | 
主な野手 | 
| 1907–1908 | 
シカゴ・カブス | 
フランク・チャンス | 
モーデカイ・ブラウン | 
フランク・チャンス、ジョー・ティンカー | 
| 1910–1911 | 
フィラデルフィア・アスレチックス | 
コニー・マック | 
チーフ・ベンダー、エディ・プランク | 
フランク・“ホームラン”・ベイカー | 
| 1915–1916 | 
ボストン・レッドソックス | 
ビル・キャリガン | 
ベーブ・ルース(投手期) | 
トリス・スピーカー(※15在籍)、ハリー・フーパー | 
| 1921–1922 | 
ニューヨーク・ジャイアンツ | 
ジョン・マグロー | 
ロス・ヤングス、ヒューブ・ベントン | 
フランキー・フリッシュ | 
| 1927–1928 | 
ニューヨーク・ヤンキース | 
ミラー・ハギンズ | 
(投手陣:ホイトほか) | 
ルース&ゲーリッグの“殺人打線” | 
| 1929–1930 | 
フィラデルフィア・アスレチックス | 
コニー・マック | 
レフティ・グローブ | 
ジミー・フォックス、アル・シモンズ | 
| 1936–1939 | 
ニューヨーク・ヤンキース | 
ジョー・マッカーシー | 
レッド・ラッフィング、レフティ・ゴメス | 
ジョー・ディマジオ、ビル・ディッキー | 
| 1949–1953 | 
ニューヨーク・ヤンキース | 
ケーシー・ステンゲル | 
アリー・レイノルズ、ヴィック・ラッシュ | 
ヨギ・ベラ、フィル・リズート、ミッキー・マントル(台頭) | 
| 1961–1962 | 
ニューヨーク・ヤンキース | 
ラルフ・ホーク | 
ホワイティ・フォード | 
ロジャー・マリス、ミッキー・マントル | 
| 1972–1974 | 
オークランド・アスレチックス | 
ディック・ウィリアムズ→アルヴィン・ダークリン | 
キャットフィッシュ・ハンター、ローリー・フィンガース、ヴィダ・ブルー | 
レジー・ジャクソン、ジョー・ルディ | 
| 1975–1976 | 
シンシナティ・レッズ | 
スパーキー・アンダーソン | 
ドン・グレット、ラウル・メイ | 
ピート・ローズ、ジョー・モーガン、ジョニー・ベンチ | 
| 1977–1978 | 
ニューヨーク・ヤンキース | 
ビリー・マーチン→ボブ・レモン | 
ロン・ギドリー | 
レジー・ジャクソン、サーマン・マンソン | 
| 1992–1993 | 
トロント・ブルージェイズ | 
キト・ガストン | 
ジャック・モリス、ジミー・キー | 
ロベルト・アロマー、ジョー・カーター | 
| 1998–2000 | 
ニューヨーク・ヤンキース | 
ジョー・トーリ | 
アンディ・ペティット、オーランド・ヘルナンデス | 
ジーター、ポサダ、バーニー、ティノ(ほか) | 
| 2024–2025 | 
ロサンゼルス・ドジャース | 
デーブ・ロバーツ | 
山本由伸、今永昇太、(先発陣+ブルペン総動員) | 
大谷翔平、ムーキー・ベッツ、フリーマン | 
注:1949–53の“5連覇”はMLB最長。1994年はストでWS中止。
14. 付録B:各連覇の「中身」をもう少し詳しく(拡張)
1949–53 ヤンキース(5連覇)
- 型:先発長め→終盤継投。**“守れる打線”**でビッグイニングを待たない。
 
- 資産:捕手ベラの打配球、遊撃リズートの守備範囲、代走・代打の使い分け。
 
1972–74 A’s(三連覇)
- 守りの王朝:ショートの守備、外野の位置取り、投手の牽制。1点差管理が徹底。
 
1998–2000 ヤンキース(三連覇)
- 疲労管理:主力の休養日と9月のスロットル調整。10月は**“勝ちパターン固定”**。
 
2024–25 ドジャース(二連覇)
- 10月仕様:複線化した勝ちパターン(複数のクローズ手段)と、守備走塁の即時スイッチ。
 
16. まとめ
- 最長はヤンキースの5連覇(1949–53)。WS一発勝負時代の結晶。
 
- 4連覇もヤンキース(1936–39)。
 
- 3連覇は**A’s(72–74)とヤンキース(98–00)**の2例。
 
- 21世紀の連覇は極端に難度が高く、2024–25ドジャースは制度上の逆風を乗り越えた歴史的到達。
 
まとめの一文: “連覇は王朝の証拠、三連覇は時代の名前になる。”
ラウンド増・分業化・均衡化の時代における連覇は、数字以上に重い物語である。