2025年6月、警視庁が仮装身分捜査という新たな捜査手法を用いて特殊詐欺事件の摘発に成功したというニュースが大きな話題となりました。
これまで警察が採用してこなかったこの手法は、犯罪の手口が高度化・巧妙化する現代社会において、より効果的な摘発を目指すための革新的なアプローチとして注目を集めています。
この記事では「仮装身分捜査とは何か?」「どのような背景で導入されたのか?」「法律や倫理面での課題は?」「今後の展望は?」といった観点から詳しく解説します。
特にSNS型闇バイト犯罪の急増という社会問題に対して、仮装身分捜査はどのような役割を果たすのか、ぜひ理解を深めてみてください。
仮装身分捜査(かそう みぶん そうさ)とは、警察官が架空の身分を使って犯罪グループに接触する特殊な捜査手法のことです。
一般的な潜入捜査と異なり、インターネット上の闇バイト募集などに対して、偽の身分証明書や情報を使って応募するのが特徴です。
例えば、SNSで「高収入バイト募集中」といった闇バイトの投稿に、警察官が仮想の人物になりすまして接触し、犯行グループの内情を把握したり、証拠を収集したりします。
2025年5月、警視庁がこの手法を用いて全国初となる特殊詐欺未遂容疑の摘発に成功しました。
ここ数年、SNSやチャットアプリ(X、LINE、Telegram など)で「高額報酬保証」「即日支払い可」などの甘言で若者を詐欺や強盗の実行犯として勧誘する闇バイトが急速に増加しています。
実行役となった若者が摘発される一方、組織の上層部や指示役は匿名性の高い通信手段を駆使して、責任追及を逃れてきました。
従来の捜査手法では、こうした匿名性を突破して組織の中枢までたどり着くのは困難でした。
2024年8月以降、闇バイト型の強盗事件が相次いで発生。社会的な衝撃も大きく、政府は早急な対策を求められました。
この流れを受けて、政府と警察庁は現行法の範囲内で実施可能な仮装身分捜査の実施要領を2025年1月に策定。
4月には一部の都道府県警で運用が開始されました。
迅速な対応が求められた背景には、市民の安全と被害防止という大きな使命がありました。
仮装身分捜査が適用される対象は、現状以下のように限定されています:
仮装身分捜査は強力な捜査手段である一方、乱用のリスクやプライバシー侵害の懸念も指摘されています。
そのため、次のような厳格な運用ルールが設けられています:
2025年5月、警視庁の捜査員がSNS上で闇バイトの募集投稿に仮装身分で応募。
犯行グループの構成員と接触し、特殊詐欺未遂の容疑で1名を摘発しました。
この摘発は全国で初めて仮装身分捜査が成果を上げたケースとして報じられました。
ただし、警察は手の内が犯罪者側に知られるのを防ぐため、事件の詳細(容疑者の役割、接触方法など)は非公表としています。
今回の事例は、仮装身分捜査の実効性と有用性を社会に示した重要な一歩と言えるでしょう。
違法ではありません。
現行法の範囲内で政府と警察庁が策定した明確なルールに基づき実施されます。
また、一般市民を騙すような形での運用は行わないとされています。あくまで犯罪グループへの限定的な接触に留まります。
現時点では以下の犯罪に限定されています:
今後の実績や社会情勢次第では、さらに他の重大犯罪(薬物犯罪や人身売買など)への適用拡大も議論される可能性があります。
通常、市民が仮装身分捜査の対象になることはありません。
犯罪グループとの接触場面に限って、慎重な運用が行われます。
また、計画段階で本部長の承認が求められるなど、恣意的な使用はできない仕組みとなっています。
仮装身分捜査は、進化する犯罪組織に対抗するための新たな有力手段として登場しました。
SNSや暗号化通信を駆使する現代の犯罪組織に対して、従来の捜査手法だけでは限界がある中、仮装身分捜査は突破口となり得る画期的なアプローチです。
しかし一方で、乱用やプライバシーへの配慮といった課題も併存しており、今後は社会的な監視と議論の中で慎重な運用が求められるでしょう。
国民の安全と捜査の適正なバランスを保つため、透明性のある運用と不断の見直しが重要になっていくはずです。