good riddance:「いなくなって清々した」だけじゃないニュアンスと、イーロン・マスクの石破首相ポスト騒動
この英語表現は学校英語ではあまり出てこないうえに、日本語にするときに「ざまあみろ」なのか「いなくなってせいせいした」なのか、あるいはもっと淡い「やれやれ」なのかで迷いやすい表現です。しかも今回の件は、移民政策をめぐる海外右派アカウントの文脈にマスクが乗っかった形で、石破本人の公式アカウントに向けて言ったわけではありません。なので、「英語の元の温度感」をきちんと拾ってた上で「Good riddance」の意味を理解する必要があります。
1. good riddance のコアな意味
good riddance は、もともと “riddance” = 「厄介払い」「やっかいなものが片づいたこと」 という意味の名詞を使った表現です。そこに good が付くので、
→ 「それがいなくなって(なくなって)よかった」「厄介なのが片づいてせいせいした」
というのがいちばん基本good riddanceの訳になります。これはかなり感情のこもった別れ方で、単なる “Good.” よりも「やっと終わった」「やっといなくなってくれた」といった安堵+軽い軽蔑が混ざります。
ですから、丁寧な場面や公式なスピーチでは普通は使いません。くだけた会話・SNS・皮肉・毒のあるツッコミで出る英語だと考えてください。
2. どれくらい失礼なのか? 強さの目安
日本語にするときに迷うのは「どのくらいキツいか」です。だいたい次のあたりだと考えるとわかりやすいです。
- 「いなくなってくれて助かった」
- 「やっと消えたか」
- 「行ってくれてよかったわ」
- (文脈によっては)「せいせいした」「もう来なくていい」
同じ「いなくなってよかった」でも、英語にはうっすらと「その存在は迷惑だった」という評価が常に付いています。だから、上司・首相・国のリーダーなど本来は敬意を払うべき相手に使うと、ほぼ確実に“ディスり”になります。
3. 今回のXで何が起きていたか(時系列と文脈)
今回のマスクの反応は、こうまとめると分かりやすいです。
- 2025年9月7日(日本時間8日未明)ごろ、石破首相が辞任を表明したことを海外メディアや政治系アカウントが英語でポスト。背景には、7月の参院選での与党敗北・党内の不満・そして「大きすぎる移民受け入れ策」への反発がありました。
- その一つのポストが「大量移民を打ち出したあとで辞めることになった」というトーンで、やや右派寄りに書かれていました。マスクはこれまでも日本の人口減少や移民政策にときどき口を出しており、その流れでこのポストがタイムラインに上がってきたと考えるのが自然です。
- マスクの公式アカウントがそのスレッドに対して、「Good riddance」とだけ返信。これがスクリーンショットで拡散され、「マスクが石破に『せいせいした』と言ったらしい」と日本語圏でも回った、という構図です。実際には、石破本人の公式アカウントに直接言ったというより、「石破が辞めた」という第三者のポストに乗っかった一言です。
つまり、「マスクが日本に公式にメッセージを発した」わけではなく、「気に入らなかった政治的動きが終わったので、SNSで軽口を叩いた」というレベルのものです。ここを切り離してスクショだけ見ると「首相に向かって“Good riddance”と言うなんて」となりますが、実際の温度感はそこまで“外交問題級”ではありません。
4. なぜマスクはこの言い回しを選んだのか
マスクは2025年の夏ごろから、日本の移民・人口政策に対して繰り返しコメントしており、「こういう政策を押し進めるのは日本を壊すことだ」といった強い言い方もしています。
その流れで「その政策を推していた首相が辞めた」→「なら good riddance」と、“政策ごと片づいたならそれでよし”というリアクションを取った、と解釈できます。
つまり、彼が嫌がっていたのは「石破という個人そのもの」というよりも、「日本を急に移民で埋めようとするような動き」であり、その象徴として石破が見えていた、という構図です。実際その後の国際報道でも、石破辞任の理由として「選挙での敗北」と「移民をめぐる国内の不満」が並んで説明されています。
5. 日本語にどう訳すといちばん近いか
今回のケースに合わせて日本語にするなら、次のどれかが現実的です。
- 「いなくなってくれてよかった」(もっとも直球)
- 「これで少しはマシになる」(背後に“その人がいると悪化する”という評価があるとき)
- 「やっと終わったか」(政治的ゴタゴタが長引いた場合)
- 「せいせいした」(SNSのノリに寄せたいとき)
逆に、「ざまあみろ」や「消え失せろ」にしてしまうと、日本語では怒りや憎しみが強すぎて、英語の元の温度より1段上がってしまいます。今回のマスクの一言は「不快だった対象が退場したことへの満足」であって、「徹底的におとしめる」ほどの熱量までは見えません。
6. 類似表現との違い
英語には似たような“見送りの悪態”がいくつかあります。比較しておくと、今回のニュアンスがつかみやすくなります。
- Good! … 単純な賛同・歓迎。トゲなし。
- About time. … 「やっとか」「もっと早く辞めるべきだった」。皮肉はあるがまだ中立寄り。
- Good riddance. … 「いてほしくなかったものが去ってくれて助かった」。対象を明確にネガティブ評価。
- Don’t come back. … 「二度と来るな」。good riddance よりも敵意が前面に出る。
この並びで見ると、good riddance は「悪くはないけど礼儀正しくもない」中途半端な位置にいることが分かります。だからこそSNSで拡散しやすいのです。
7. 例文で見る good riddance
最後に、今回のケース以外の使い方も載せておきます。
- He finally quit the group? Good riddance.
「あいつやっとグループ辞めたの? いなくなってよかったわ。」 - That old policy is gone – good riddance.
「あの古い方針がなくなったって? なくなって正解だよ。」 - Good riddance to bad rubbish.
「ガラクタがなくなって清々した」→やや古めで、もっとバカにした言い方。
今回のマスクの「Good riddance」は、この一つ目と二つ目の中間くらいの感覚で読むと、日本語としてちょうどいいはずです。









