ニュースやドラマで「心肺停止」と聞くと、多くの人が「もう亡くなった」という意味だと受け取ってしまいがちです。しかし医療の現場では、**心肺停止(=心臓と呼吸が止まっている状態)**と、**死亡(=医学的・法律的に“死が確定した状態”)**は区別されています。ここを正しく知っておくと、救命の仕組みや“死亡判定”の考え方がかなりクリアになります。
つまり、心肺停止=即死亡ではないというのが大原則です。
心肺停止は一般に、
という状態を指します。医療や救急では「心停止(Cardiac Arrest, CA)」という言い方もよく使われ、**“呼吸が完全に止まっていないケースがあるため、心停止のほうが正確”**とも言われます。
心肺停止は極めて重い状態ですが、
こうした流れが噛み合えば、心拍が再開し社会復帰する人もいます。だからこそ救急医療では、心肺停止は「死の確定」ではなく、**“救命可能性を含んだ緊急状態”**として扱われます。
死亡は、心臓や脳など生命に必須な臓器が永久に回復しない形で停止した状態です。ここで重要なのは「不可逆性」です。
人が亡くなったと正式に扱われるのは、医師が死亡確認をし、死亡診断書(死体検案書)を作成した時点です。救急搬送中や蘇生中は、たとえ心肺停止が続いていても法律的な死亡確定ではありません。
理由は大きく3つあります。
心肺停止後すぐなら脳へのダメージがまだ軽く、 数分以内に血流と酸素を戻せれば戻る可能性があるためです。逆に時間が経つほど脳障害が進み、回復は難しくなります。
例えば
などは、早期対応で心拍再開の可能性が比較的高いとされます。
心肺停止は“今止まっている”という現象ですが、死亡は“もう戻らない”という判定です。 “戻るかもしれない状態”を死亡と断定できないというわけです。
救急の現場で「CPA(Cardio-Pulmonary Arrest)」という省略語を使うことがあります。意味は心肺停止と同じで、**“蘇生対象の緊急状態”**という意味合いが強い言葉です。
一方、救急隊が搬送の前に、
など「誰が見ても死亡が明らか」という状態の場合、医師がその場にいなくても**“社会死”として扱われること**があります。社会死は、心肺停止の“さらに先”、不可逆性がほぼ確実な段階だと考えると分かりやすいです。
死亡の話で避けて通れないのが脳死です。
日本では臓器移植など特定の条件の下で、脳死は法律上「人の死」とされます。 つまり、死亡は“心肺が止まったかどうか”だけで決まるわけではなく、“回復不能な全機能停止かどうか”で決まるということです。
→ まだ蘇生の対象であり、回復の可能性が残っている段階です。
→ 早く胸骨圧迫とAEDが始まれば、病院前でも助かる人はいるのが現実です。
→ その可能性は高くなりますが、
など特殊条件では、長時間後に回復する例も報告されています。
心肺停止かどうかを一般人が厳密に判断する必要はありません。 「普段どおりの呼吸がない」「反応がない」なら心停止として行動するという考え方が基本です。
この初動が、心肺停止を“死亡確定”に至らせない最大の鍵になります。
「心肺停止」と「死亡」の違いを正しく理解することは、命の仕組みを知るだけでなく、いざという時に人を救う行動の背中を押す知識にもなります。