最近SNSで大きな話題となっているのが、大阪府泉大津市の南出賢一市長が披露したという「合成燃料製造装置」の実演です。市長のポストによると、なんと
「水と空気から光の力で、45分間で約20リットルの軽油ができた」
というのです。そしてその軽油を使って発電機を動かし、冷風機を稼働させたり、トヨタのランドクルーザーを走らせたりしたという報告がありました。
これが本当なら、まさにエネルギー革命!CO₂削減の切り札にもなりうる夢の技術です。しかし一方で、SNS上では「物理的に不可能では?」「詐欺じゃないのか?」といった疑問の声が多く上がっています。
果たして、本当にそんなことが可能なのか?今回は、この「水と空気から軽油を作る」話を科学的に徹底検証してみます。
まず「水と空気から燃料を作る」と聞くと、まるで魔法のように感じるかもしれません。しかし、理論的には不可能ではありません。
例えば次のような化学プロセスがあります:
つまり理論的には、
水 → H₂
空気 → CO₂
H₂ + CO₂ → 軽油(炭化水素)
というルートで燃料を作ることは可能です。
ではなぜ、SNSでは「無理だ」と騒がれているのでしょうか?その理由を詳しくみていきます。
市長の説明を鵜呑みにすると、以下のような計算が成り立ちます。
軽油(平均分子式:C₁₂H₂₆)は炭素を多く含みます。軽油の密度はおよそ0.83 kg/Lなので、20Lは16.6 kg。
炭素比率は約84%程度なので、炭素の重さは:
16.6 kg × 0.84 ≈ 13.9 kg
ざっくり 14kg の炭素が必要という計算になります。
大気中のCO₂濃度は約400ppm(0.04%)です。CO₂中の炭素の割合は約27%なので、14kg の炭素を集めるには:
CO₂量 ≈ 14kg ÷ 0.27 ≈ 51.9 kg
この51.9 kgのCO₂を大気中から集めるためには:
必要空気量 = CO₂量 ÷ 大気中CO₂濃度
≈ 51.9 kg ÷ (0.0004 × 1.977 kg/m³)
≈ 65,000 m³
これは 約65,000立方メートルの空気 です。
具体的にどれくらいかというと、マンションの3LDKの部屋が大体 200 m³ とすると:
65,000 ÷ 200 ≈ 325 部屋分
つまり 3LDKのマンション約325室分 の空気を45分で吸い込む必要があります。これはものすごい風量です。
SNSでは「台風並みの風が吹くはず」と指摘されていますが、それも当然です。
軽油の発熱量は約42.7 MJ/kg。20Lで換算するとエネルギー量はおよそ:
16.6 kg × 42.7 MJ/kg ≈ 708 MJ
電力換算すると約 197 kWh。
しかもこれは完成した軽油の持つエネルギーであり、合成にはそれ以上の電力が必要です。
例えば合成効率を40%とすると:
必要エネルギー ≈ 708 MJ ÷ 0.4 ≈ 1770 MJ
≈ 491 kWh
仮にこれを太陽光でまかなおうとすると、太陽光パネルがどれくらい必要か試算します。
国内の太陽光パネルは、1平米あたり最大出力で200 W程度。晴天での平均稼働時間は約4時間/日。
45分で491 kWhを発電するためには:
必要出力 ≈ 491 kWh ÷ (45/60 h) ≈ 655 kW
これを面積に直すと:
655,000 W ÷ 200 W/m² = 3,275 m²
つまり テニスコート13面分 の面積が必要です。
移動式装置にこんな面積のパネルを積むのは不可能です。
さらに多くの人が指摘しているのが、「合成した軽油が緑色をしていた」という点です。
本来、合成したばかりの炭化水素は 無色透明~薄黄色。ガソリンスタンドで売られている軽油が緑色なのは、以下の理由です:
もし合成したばかりの軽油が、販売品と同じ緑色だったなら:
という疑いが生じます。
軽油は「軽油取引税」がかかる燃料です。合成した軽油を公道で使用する場合でも、税務署や自治体への届出が必要です。
もし市販品ではなく合成燃料を給油して走行したなら、軽油取引税の問題が浮上します。実際SNSでも:
「これは脱税行為では?」
という声が多く見られます。
CO₂から燃料を作る技術は確かに存在します。いわゆる Power-to-Liquid(PtL)技術です。
しかもコストは桁違いに高く、現状では1リットル数百円〜数千円。
つまり世界最先端でも:
数十分で20Lの合成軽油を作る移動式装置など存在しない
というのが現実です。
結論は極めてシンプルです。
つまり、南出市長が述べたような:
「水と空気から光の力で、45分間で20リットルの軽油を作った」
という話は、科学的にほぼあり得ません。もし本当だとしたら、ノーベル賞ものです。
今回の件が誇張や演出でないとすれば、考えられるのは以下のようなシナリオです。
「完全に詐欺」と断定はできませんが、現状の科学技術を超えた話であることは間違いありません。
本件の真相を見極めるには:
など、客観的なデータの開示が必要です。
もし本当に成功しているなら、まさに国家レベルの技術革新。逆にそうでなければ「種燃料のトリック」疑惑を払拭できないでしょう。
今回の件は、まさに「理科の知識があればおかしいとわかる」というSNS上の声が正論です。市民としては夢を見たい気持ちもありますが、科学には魔法はありません。
個人的には、今回の実演は「演出の域を出ない可能性が高い」と考えています。今後の続報を注視したいところです。
南出市長、もし本当に世界初の技術を開発したのなら、ぜひ詳細な技術資料を公開してほしいですね!
結論
南出市長が語る「水と空気から光の力で45分で20Lの軽油製造」は、現実的には不可能。CO₂から燃料を作る技術は存在するが、それは巨大設備と多大なエネルギーを必要とし、短時間かつ小規模装置では実現不可能。合成した軽油が緑色をしていた点も大きな疑問であり、現時点では誇張や演出の可能性が極めて高い。