ネット上でときどき見かけるのが、「中国産のうなぎは人糞(人の排せつ物)を混ぜた餌で育てている」という刺激的な話です。結論から言うと、“輸出用のうなぎ養殖で、人糞を餌として恒常的に混ぜて与えている”と断定できる公的・一次資料は確認しにくいのが実情です。
一方で、「人の排せつ物(night soil/夜土)を農業や魚の池の“肥料”として利用してきた歴史」は各国にあり、そこが誤解・誇張されて「うなぎの餌=人糞」という形で拡散しやすい背景はあります。この記事では、噂の構造をほどき、何が事実で、どこからが飛躍なのかを整理します。
今回の噂には、実は違うレベルの話が混ざりがちです。
SNSで拡散する言い方はA(餌)を断定していることが多いのですが、歴史的・技術的に説明がつくのはB(肥料)やC(汚染)の方で、Aは根拠が薄い――というのが、ここまでの情報整理として言えることです。
うなぎは雑食寄りではあるものの、養殖では成長効率やサイズの均一化が重要なため、一般に魚粉など動物性タンパクを中心とした高栄養の配合飼料が使われます。近年はコストや環境負荷の観点から、大豆など植物性タンパクへの置き換え研究も進んでいます。
ここでポイントは、うなぎ養殖は「とにかく安いものを入れれば育つ」よりも、水質管理・病気管理・飼料設計が利益を左右する産業だという点です。病原体リスクを高めかねない原料(とくに未処理の排せつ物)を“餌に混ぜて”常用するのは、経営上も衛生上も合理性が低いと考えられます。
「ふん尿を池の肥料として用いる」という考え方自体は、世界各地の統合農業(家畜・作物・養魚を組み合わせる)の文脈で語られてきました。目的は、池に栄養塩を入れてプランクトンや底生生物を増やし、それを魚が食べて育つ状態を作ることです。
この文脈で「night soil(人の排せつ物)」に触れる資料もあり、「肥料としての利用」は説明可能です。ただし、これはBの話であり、Aの「餌に混ぜる」とは違います。
噂が生まれやすいのはここです。「池に入れる(肥料)」→「魚が食べる」→「餌として与えている」と、言葉が短絡すると一気に刺激的な断定に変化してしまいます。

A man’s hand touching on 3d rendered China map
食品としての不安が集まりやすいのは、過去に残留薬剤などが話題になった経緯があるためです。代表例としては、抗菌用途などで使われてきた色素系薬剤(例:マラカイトグリーン/その代謝物)が検出された事例が知られ、輸入側で検査・規制が強化されてきました。
重要なのは、こうした問題があると「だから何でもありの飼育をしているに違いない」と話が膨らみがちですが、実際には検査・規制・監視強化が積み重なり、“引っかかれば止まる”仕組みも同時に強化されてきた、という点です。
結果として、事実関係よりも気分が勝って、真偽が置き去りにされやすいタイプの噂だと言えます。
不安をゼロにするのは難しいですが、現実的には「何をリスクとして避けたいか」を分けて考えるのが有効です。
「中国産うなぎは人糞で育てる」という話は、強い言葉のわりに、裏付けが伝聞中心で、断定できる根拠が乏しいケースが多いです。一方で、世界には「ふん尿を肥料として使う養殖・農業の歴史」があり、それが“餌に混ぜる”という表現に変形して拡散しやすい構造があります。
不安がある場合は、噂の真偽を追うよりも、過去に現実に問題となったのが何か(残留薬剤など)、そして輸入・流通でどう管理されているかに目を向けた方が、実用的な判断に近づきます。
※本記事は一般向けの情報整理であり、特定商品の安全性を保証するものではありません。最終判断は、表示・公的情報・販売元の説明等も合わせて行ってください。