SNS上で「EBS(緊急放送システム)」や「世界緊急放送システム」といったワードが注目を集めています。またトランプ大統領がEBSアラートを出すといった情報が現在見受けられます。
またEBSアラートはドナルド・トランプ米大統領に関連する陰謀論と結びつけられ、話題となっています。本記事では、EBSアラートの実態と、それに関連する情報の真偽について詳しく解説し、誤情報が広がる背景やそのリスクについても考察します。
EBS(Emergency Broadcast System)は、1963年から1997年までアメリカ合衆国で運用されていた国家の緊急警報システムです。このシステムは冷戦時代に開発され、特に核攻撃などの大規模な非常事態に際して大統領が国民に直接情報を伝える手段として機能していました。EBSアラートはテレビやラジオを通じて強制的に放送を割り込み、全米の人々に同時に警告を発することが可能でした。
1997年には、EBSはより洗練された技術を持つEAS(Emergency Alert System)に置き換えられました。EASでは、国家レベルの緊急放送に加え、州や地方自治体レベルの警報にも対応可能であり、ハリケーンや竜巻、大規模なテロ攻撃といった災害時にも活用されています。現在はさらにIPベースのシステム(IPAWS:Integrated Public Alert and Warning System)が導入され、携帯電話への緊急通知なども可能になっています。
「世界緊急放送システム(Global Emergency Broadcast System)」という言葉は、インターネットやSNS上で見られる用語であり、政府や国際機関によって公式に運用されているシステムではありません。この言葉は、グローバルなスケールで情報を制御・開示する「特別な放送」が存在するかのような印象を与えますが、そのような実態は確認されていません。
この用語は、特にQアノンや陰謀論系のフォーラム、YouTube動画、Telegramなどで頻繁に使用されており、EBSと混同されることもありますが、現実的・技術的な裏付けは存在しません。実際には、「世界規模の真実の暴露がEBSで行われる」といった話はすべて非公式な憶測・創作の域を出ないものです。
SNS上では、「トランプ前大統領がEBSを通じてディープステートの陰謀を暴露する」「EBSアラートが起動し、世界的な戒厳令が敷かれる」といった主張がたびたび登場しています。これらの主張は2020年の大統領選挙後に特に広がり、「トランプが最後に勝利を確定させる手段としてEBSを使う」というような憶測が繰り返し流布されてきました。
こうした陰謀論は、アメリカ国内だけでなく日本語圏のSNSでも翻訳・拡散され、信じ込む人が一定数存在しています。過去には、EBSアラートが「数日以内に発動される」といった予告が何度もなされましたが、いずれも実際には何も起こらず、結果として誤情報であることが判明しています。
現時点で、ドナルド・トランプ前大統領がEBSやEASを通じて何らかの情報を発信するという計画があるという公式な発表や信頼できる証拠は一切確認されていません。また、ホワイトハウス、FEMA(連邦緊急事態管理庁)、FCC(連邦通信委員会)などの関連機関も、そのようなシナリオについて否定しています。
2020年以降、EASが全国レベルでテストされた事例はありますが、いずれも通常のシステム点検であり、政治的な目的で使用されたことはありません。こうした誤情報が広がる背景には、政治的不信やメディアへの懐疑心、そして不安定な社会情勢がありますが、それでも事実に基づいた判断が求められます。
インターネット上には、多種多様な情報が日々拡散されています。その中には、意図的に誤情報を流す者、誤解に基づいて善意で拡散している者、さらには閲覧数を稼ぐためにセンセーショナルな内容をあえて発信している者も存在します。情報の真偽を見極めるためには、以下の点を常に意識することが重要です。
「EBS」や「世界緊急放送システム」に関する情報の多くは、根拠のない陰謀論に基づいています。これらの情報を鵜呑みにしてしまうと、社会不安を煽ったり、現実の行動に影響を及ぼす危険性があります。特に、信頼できる情報源に基づかない「予告」や「警告」に過剰反応することは、社会的にも個人的にも大きなリスクとなります。
情報に接するときは、冷静な判断と批判的思考を忘れず、事実確認を徹底することが重要です。メディアリテラシーを高めることこそが、誤情報の氾濫から自分自身を守る最善の方法といえるでしょう。