最近、Xなどインターネット上で「マイナンバーと預金口座を紐付けした国民だけが、新たな10万円の給付金の対象になるらしい」という情報が急速に広まり、大きな注目を集めています。X(旧Twitter)などのSNSでは、「本当なら急いで登録しなきゃ!」「情報が漏れるんじゃないか?」といった声まで飛び交っています。しかし、この情報の真偽について、皆さんはきちんと確認できましたか?
この情報は現状、政府が発表している公式な方針とは異なります。
今回は、この情報のどこが誤っているのか、なぜこのような誤解が生まれてしまったのかを、過去の経緯や現在の制度を詳細にひも解きながら、徹底的にファクトチェックしていきます。
まず最も重要な点として、「マイナンバーと預金口座を紐付けした国民のみを対象に10万円を給付する」という、政府からの正式な発表や計画は、現時点(2025年5月31日時点)で一切ありません。
もし、このような大規模な国民への給付が検討されるのであれば、内閣府、厚生労働省、デジタル庁といった関係省庁から、必ず公式な声明や発表が行われ、主要なテレビ、新聞、インターネットメディアでも大々的に報じられるはずです。SNS上の断片的な情報だけで判断するのは非常に危険です。
また、このような選別をすれば国民からの反発は必至です。
では、なぜ公式な発表がないにもかかわらず、このような情報が独り歩きしてしまったのでしょうか。それには、いくつかの背景が複雑に絡み合っています。
記憶に新しい方も多いと思いますが、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大時に、全国民に一律10万円が支給された「特別定額給付金」がありました。当時、多くの国民が給付を待ち望む中、申請書を郵送したり、自治体の窓口に直接出向いたりする必要があり、申請から給付までにかなりの時間と手間がかかりました。
この時の事務処理の煩雑さや給付の遅れが大きな問題となり、政府内部からも「もし国民一人ひとりのマイナンバーに預金口座情報が紐付いていれば、もっと迅速かつスムーズに給付できたはずだ」という声が上がりました。この**「給付の迅速化」という議論が、今回の誤解の大きな発端の一つ**となっています。決して、「紐付けた人だけが対象」という話ではありませんでした。
前述の特別定額給付金の教訓を活かし、政府は現在、**「公金受取口座登録制度」**の普及に力を入れています。これは、国民が任意の金融機関の口座情報を、ご自身のマイナンバーとともに国に登録しておくことで、年金や児童手当、災害時の給付金といった公的給付を、迅速かつ確実に受け取れるようにする制度です。
公金受取口座登録制度を広く国民に周知し、登録を促進するために、政府は「マイナポイント」事業を実施しました。これは、マイナンバーカードの新規取得や健康保険証としての利用登録、そしてこの公金受取口座の登録を行うことで、ポイントが付与されるというものです。
この「マイナポイント」事業によって、「マイナンバーカード」や「口座登録」と「お得」というイメージが強く結びつきました。その結果、「お得=給付金」という連想から、「口座登録すると給付金がもらえる」という、根拠のない期待や憶測が生まれやすくなったと考えられます。あたかもインセンティブがあるかのように捉えられ、それが今回の「10万円給付」の噂に繋がった可能性があります。
では、この「公金受取口座登録」自体は、私たち国民にとってどのような意味を持つのでしょうか。メリットと懸念点を整理してみましょう。
今回の「マイナンバーと預金口座紐付けで10万円給付」という情報は、現時点では根拠のないデマや憶測が一人歩きしているものと断定できます。
私たちは、インターネット上の情報に接する際、その情報の**「発信元」と「根拠」**を必ず確認する習慣をつけましょう。政府が国民への大規模な給付や制度変更を行う際は、必ず政府の公式ウェブサイト、報道発表資料、または信頼できる大手メディアを通じて、透明性のある形で発表されます。
「もしかしたら本当かも…」と不安に駆られたり、焦って行動したりする前に、まずはデジタル庁や内閣府などの政府機関の公式発表を直接確認することが、最も重要です。
公金受取口座登録は、給付金のスムーズな受け取りというメリットがある一方で、個人情報の取り扱いに関する懸念も残されています。ご自身の判断で、メリット・デメリットをよく考慮し、納得した上で登録を検討することが大切です。冷静な情報収集と行動を心がけ、誤った情報に惑わされないようにしましょう。