電気は、私たちの暮らしに欠かせないエネルギーだ。照明、スマホの充電、家電製品、公共交通機関…あらゆるところで電気が使われている。そして、その電気を作り出す発電方法の中でも、火力発電は長年にわたって重要な役割を果たしてきた。
「火力発電って環境に悪いんじゃないの?」
「でも安定して電気を作れるんでしょ?」
そんな疑問を持つ人も多いのではないだろうか。本記事では、火力発電の仕組みからメリット、そしてデメリットまで、できるだけ分かりやすく紹介する。未来のエネルギーのあり方を考えるヒントになるかもしれない。
火力発電とは、石炭、石油、天然ガスなどの燃料を燃やして発生する熱エネルギーで水を沸騰させ、その蒸気の力でタービンを回し、発電機で電気を作る仕組みのことをいう。
流れを簡単に整理するとこうだ。
つまり、燃料に含まれるエネルギーを段階的に変換しながら、最終的に電気という形で取り出すわけだ。
火力発電で使われる燃料には以下のような種類がある。
近年、特に注目されているのが天然ガスだ。環境負荷が相対的に低いことから、多くの国が導入を進めている。
火力発電にもいくつかの方式がある。代表的なものを紹介しよう。
火力発電所はこうした技術の進化によって、以前よりも高効率化が進んでいる。
火力発電には以下のようなメリットがある。
火力発電の大きな魅力は、発電量の調整がしやすく、天候に左右されにくいという点だ。太陽光や風力は自然条件に影響を受けやすいが、火力は需要に応じて燃料を燃やす量を変えられるため、計画的に電気を作れる。
燃料費は変動するが、設備がすでに整っていることや、運転方法が確立しているため、他の発電方法と比べてコストが抑えられる場合が多い。特に石炭を使う場合は燃料価格が安価で、発電単価を低くできることがある。
火力発電所は大きな発電能力を持てることも特徴だ。都市部や産業地帯など、電力需要が集中する地域を支える基盤として非常に重要な役割を果たしている。
火力発電は長い歴史があり、技術的なノウハウが蓄積されている。トラブルが起きた際の対応方法も確立されており、信頼性が高い。
一方で、火力発電にはデメリットもある。
火力発電最大の課題は、二酸化炭素(CO₂)の排出だ。
石炭を例に挙げると、同じ量の電気を作る場合、CO₂排出量は天然ガスの約2倍にもなる。温暖化対策が世界的な課題となる中、火力発電の未来は環境対策なしには語れない。
火力発電は燃料を輸入に頼ることが多い。そのため、国際情勢や為替レートによって燃料費が大きく変動するリスクを抱えている。エネルギー安全保障の観点からも課題だ。
石炭や石油を燃やす際、**硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)**などの大気汚染物質が発生する。これらは酸性雨の原因となり、環境や人体への影響が懸念されている。
石炭、石油、天然ガスといった化石燃料は有限の資源だ。使い続ければいずれ枯渇する可能性があり、長期的な持続性が問題視されている。
火力発電はCO₂や大気汚染物質を排出するため、環境への負荷が大きい。しかし近年では、環境への影響を減らすためにさまざまな技術が導入されている。
石炭や石油を燃焼すると硫黄酸化物(SOx)が発生する。これを除去するために導入されているのが排煙脱硫装置だ。石灰石などの薬剤を使って排ガス中のSOxを化学反応で除去する仕組みになっている。
燃焼時に発生する窒素酸化物(NOx)は、光化学スモッグや酸性雨の原因になる。脱硝装置は、アンモニアなどの薬剤を使ってNOxを分解し、窒素や水に変える技術だ。
発電効率を上げれば、同じ電力量を作るために燃料を燃やす量を減らせる。コンバインドサイクル発電などの導入がその代表例だ。最新の火力発電所では発電効率60%以上を実現するケースもある。
将来的な技術として注目されているのが**CCS(Carbon Capture and Storage)**だ。燃焼後の排ガスからCO₂を分離回収し、地中深くに封じ込める技術である。ただし現状ではコストが高く、実用化はまだ道半ばだ。
火力発電は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーと対比されることが多い。しかし、どちらか一方を選べばいいという単純な話ではない。
こうしたときに火力発電がバックアップ電源として稼働する。火力は燃料の投入量を調整することで、短時間で出力を上げ下げできるためだ。
つまり、火力発電は再生可能エネルギーを支える「縁の下の力持ち」のような存在でもある。
地球温暖化防止のため、世界は「脱炭素社会」を目指している。脱炭素とは、CO₂など温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることだ。火力発電はどうしてもCO₂を出すため、将来的には縮小が求められている。
しかし以下の理由で、すぐにゼロにはできない現状もある。
このため、各国は段階的に火力の比率を減らしつつ、再生可能エネルギーの比率を高める方針を取っている。また、火力発電自体もCO₂排出を減らす技術の導入が進められている。
日本は島国であり、エネルギー資源の多くを輸入に頼っている。過去には原子力発電の比率を高めて火力依存を減らす方針だったが、2011年の東日本大震災以降、原発が相次いで停止し、火力発電の比率が急増した。
2020年度の電源構成では以下のような状況だった。
政府は2030年に向けて、火力の比率を50%程度に下げ、再生可能エネルギーの比率を36〜38%程度に引き上げる目標を掲げている。
ただし実現には多くの課題がある。
このため、日本でも当面は火力発電が基幹電源であり続けると見られている。
火力発電はこれから先、どのような道をたどるのだろうか。未来の姿をいくつかの視点から考えてみたい。
現在主流の石炭や石油から、天然ガスや水素など、CO₂排出が少ない燃料へ移行が進んでいる。特に水素は燃焼しても水しか排出しないため、注目度が高い。
しかし、水素は製造コストが高く、インフラ整備も必要だ。普及にはまだ時間がかかりそうだ。
CCS技術が進めば、火力発電で出るCO₂を地下に封じ込められる。これにより「CO₂を出さない火力発電」という未来像も描けるが、現状ではコストが非常に高い。
火力発電は将来的には減っていく可能性が高い。ただし、再生可能エネルギーを安定させるための調整役として残るという見方も強い。完全にゼロになるのはまだ先の話だ。
火力発電の未来は、単に電力会社だけの問題ではない。電気を使う一人ひとりの行動も関係してくる。
例えば…
こうした積み重ねが、火力発電によるCO₂排出を減らす助けになる。
火力発電は便利で、安定した電気を供給してくれる重要な存在だ。しかし、地球温暖化という大きな課題を抱えていることも忘れてはならない。
火力をなくせばすぐに問題解決するわけではない。再生可能エネルギーとのバランスをとりつつ、いかに環境への負担を減らしていくかが、これからのエネルギー政策の大きなテーマだ。
そして、その未来を決めるのは今を生きる私たち自身だ。火力発電のメリットとデメリットをきちんと理解し、電気を大切に使う意識を持つことが、より良い地球環境への第一歩になるだろう。