社会集団の例
0. はじめに――「社会集団」を身近にする
社会集団とは、①共通の目的や関心があり、②相互作用(会話・協働・情報交換など)があり、③成員意識(「私たちは同じ仲間だ」という気持ち)をもつ人びとのまとまりです。駅のホームでたまたま並んでいる人たちはこの条件を満たさないので「群衆」ですが、同じクラスや部活動、地域の防災会などは社会集団に当たります。
覚え方:共通目的/相互作用/成員意識の3点セットがそろうと社会集団!
この記事では、公民で扱う用語をやさしく整理し、学校・地域・オンラインの三つの場面でたっぷりの具体例を示します。
1. 社会集団の基本的な分類
現実の集団はグラデーションで、境界が完全に分かれるわけではありません。主要な見方を地図のように押さえましょう。
1-1 一次集団と二次集団
- 一次集団:家族・親友のように、直接的・感情的な結びつきが強い集団。長期的で、互いの人格全体に関わります。
- 二次集団:学校・企業・政党・NPOなど、目的や役割で結びつく機能的な集団。規則や手続が整っています。
1-2 公式集団と非公式集団
- 公式集団:学級・生徒会・委員会・会社の部署など、規則・役職・文書が整った集団。
- 非公式集団:仲良しグループ・放課後の遊び仲間・SNSの趣味コミュなど、自発的で柔らかなつながり。
1-3 共同体(ゲマインシャフト)と結合体(ゲゼルシャフト)
- 共同体:地縁・血縁、伝統や慣習など自然発生的な結びつきが強い集団(家族・地域・氏子など)。
- 結合体:共通目的の達成のためにつくられる集団(学校・企業・NPO・スポーツリーグ等)。
1-4 開放性(加入条件の強さ)
- 誰でも入れる開放的集団と、試験・推薦・会費・年齢などの条件付き集団があります。オンラインは参加・退出が容易という特徴があります。
2. 集団理解のキーワード
- 規範(ルール):時間・服装・安全・言葉づかい・SNSでのマナー等。
- 役割(ロール):委員長・書記・会計・キャプテン・マネジャー・広報など。
- 地位(ステータス):先輩・後輩、役職の有無、経験年数など。
- リーダーシップ:目標を示し人の力を引き出す働き。指示型だけでなく傾聴型・調整型・記録型も有効。
- コミュニケーション:対面・掲示・連絡帳・チャット・掲示板。情報の流れの設計が生産性を左右します。
3. 学校で出会う社会集団の例

3-1 家族・保護者会(一次+公式)
- 家族は一次集団の代表。挨拶・時間管理・公共心などの社会化の基盤です。PTAは学校と家庭をつなぐ公式集団で、広報・行事・安全見守り等を担当します。
3-2 学級・学年・生徒会(公式+二次)
- 時間割・当番・議事録・委員会などの仕組みが整う公式集団。生徒会は代表民主制を学ぶ場で、合意形成や議事運営の実践ができます。
3-3 部活動・クラブ(目的達成型)
- 練習計画、役割分担、大会・発表会などの節目で連帯感が高まります。顧問・大会規則・安全管理などの規範が活動を支えます。
3-4 行事の実行委員会(期間限定のプロジェクト)
- 文化祭・体育祭・合唱祭は期間限定の公式集団。目標・期日・役割を明確化し、計画→実行→振り返りのサイクルを回します。
3-5 学習塾・オンライン講座のクラス(二次)
- 出欠・課題・連絡のルールがあり、目的(学力向上)が明確。オンラインでは自律ルールと記録共有(議事録・ノート)が重要です。
4. 地域社会で出会う社会集団の例

4-1 町内会・自治会(共同体+公式)
- 清掃・防災訓練・お祭り運営など。高齢者の見守りや災害時の助け合いに力を発揮し、ソーシャル・キャピタル(信頼・つながり)を育みます。
4-2 自主防災組織・消防団・少年消防クラブ(安全のための組織)
- 訓練・備蓄・避難所運営計画・連絡網などを日ごろから整備。非常時にこそ機能します。
4-3 ボランティア団体・NPO・生協(二次+開放)
- 子ども食堂・リサイクル・環境保全・福祉・見守り等、社会課題の解決を目的に活動。加入は任意で比較的開放的です。
4-4 地域スポーツクラブ・文化サークル(多世代交流)
- サッカー・バスケ・卓球・合唱・吹奏楽・写真・演劇・茶道など。健康・交流・表現を共有目的として運営されます。
4-5 宗教団体・寺社講・地域の氏子(中立的理解)
- 年中行事や地域文化の継承に関わる集団。礼拝・清掃・祭礼などの活動を通じて共同体意識が育ちます。
5. デジタル空間で出会う社会集団の例

5-1 SNSグループ・ハッシュタグ共同体(非公式+開放)
- 趣味・推し活・勉強・受験情報など、関心ベースで緩やかに集まる集団。モデレーション(管理方針)やガイドラインの有無が雰囲気を左右します。
5-2 eスポーツ部・オンラインゲームのギルド(二次)
- 役割(タンク・サポート等)や作戦共有、レビュー文化など、二次集団的特徴が色濃い。時間管理・安全配慮が必要です。
5-3 オンライン学習コミュニティ・勉強会(二次)
- 課題提出・相互評価・メンター制など規範が形成されやすい。全国・海外の人と協働できます。
5-4 オープンソース/クリエイター共同体(規範が明文化)
- ライセンス・レビュー手続・行動規範(Code of Conduct)等、明文化された規範が活動を支えます。貢献履歴が地位になることも。
6. 所属集団と準拠集団(reference group)

- 所属集団:実際に自分がメンバーである集団(例:自分のクラス・部活・家族)。
- 準拠集団:行動や判断の基準として参照する集団。所属していなくても、憧れの学校・チーム・職業人の規範や価値観が自分のふるまいに影響します。
例:進学先の先輩の学習法を取り入れる/尊敬する選手の練習習慣をまねる 等。
7. 内集団と外集団、多様性の尊重
- 内集団:自分が所属している集団。心理的な結束・忠誠心を感じやすい。
- 外集団:自分が所属していない集団。対立や偏見の対象になりやすい。
民主社会では、内集団のまとまりを保ちつつ、外集団への敬意、少数者の権利、ルールに基づく公正を大切にします。意見の違いは前提であり、対話と根拠に基づく議論で乗り越えます。
8. 集団がもたらすプラス面
- 社会化:挨拶・時間管理・協働・公共心など、社会で生きる力の学びの場。
- 自己効力感・連帯感:目標に向かい協力し成果を出す経験は、自信と信頼を育みます。
- ソーシャル・キャピタル:人と人との信頼とネットワーク。困りごとの相談、就活・進学の情報、防災時の相互扶助などにつながります。
9. 集団で起こりやすい課題と向き合い方
- 同調圧力:少数意見が言いづらい → 司会は発言機会の公平を意識し、匿名アンケートや少人数討議を活用。
- いじめ・排除:結束が強すぎると他者を締め出す → 学校の相談窓口・信頼できる大人に早期相談。ルールと記録で対応。
- フリーライダー問題:一部の人に作業が偏る → 役割の見える化・ローテーション・評価の明確化。
- エコーチェンバー:同じ意見ばかりが流通 → 異なる情報源に触れる習慣をつける。
- 社会的ジレンマ:個人の利益と全体利益が衝突 → ルールづくり・インセンティブ設計・合意形成の工夫。
10. 合意形成の基本スキル(授業や委員会で使える)
- 話し合い(熟議):事実・根拠・価値を区別して整理。相手の主張を要約し返す(アクティブリスニング)。
- 多数決と少数意見の尊重:決定は多数決でも、少数意見の工夫(条件付き提案・試行期間・見直し時期の設定)で納得度を高める。
- ファシリテーション:議題の明確化、タイムキープ、役割分担、記録。オンラインならテンプレ化・議事録の共有が効果的。
11. 具体事例で学ぶ(ケーススタディ)
ケースA:文化祭クラス企画(模擬店)
- 目的:来場者に楽しんでもらい、クラスの収益を上げる。
- 規範:衛生・安全・金銭管理・シフト表。学校のルールと保健所の指導に従う。
- 役割:店長/会計/仕入れ/広報/装飾/当日運営。
- 合意形成:候補企画の長所短所を整理→採点→多数決。ただし少数案も改良案として活かす。
- 学び:計画→実行→振り返り。原価と安全のバランス、コミュ力・責任感の育成。
ケースB:地域清掃ボランティア
- 目的:街の景観改善・ポイ捨て抑止・地域の人との交流。
- 規範:軍手・分別・危険物の扱い・写真撮影許可。
- 役割:リーダー/安全管理/回収班/記録・広報。
- 学び:公共性とは何か、世代間交流、持続のための仕組み化(月1回の定例化など)。
ケースC:オンライン勉強会(定期開催)
- 目的:定期的に学習内容を共有し、互いに教え合う。
- 規範:開始時間厳守・発言順・資料共有方法・録画有無。
- 役割:司会/タイムキーパー/書記/発表者。
- 学び:情報共有の設計・デジタルリテラシー・記録(議事録)が集団の記憶になること。
12. ミニワーク:自分の所属集団を棚おろし
- 書き出す:家族・学級・部活・SNS・地域など自分が関わる集団をすべて列挙。
- 分類する:一次/二次、公式/非公式、共同体/結合体に分けてみる。
- 観察する:各集団の規範・役割・情報の流れをメモ。
- 提案する:一つ選び、改善点を考える(当番表の見える化、連絡テンプレ、週1の振り返り等)。
13. よくある質問(Q&A)
Q1. クラスLINEやグループチャットは社会集団?
A. はい。共通目的(連絡・情報共有)があり、相互作用と仲間意識があれば社会集団です。無秩序になりやすいので、連絡テンプレや返信の締切などのルールが有効です。
Q2. 一人で活動するクリエイターは集団に属していない?
A. 作品を公開するプラットフォームのコミュニティ、協業プロジェクト、ファンとの交流など、実は複数の集団と関わっています。ネットワークの一員と考えられます。
Q3. 集団になじめないときは?
A. 学校の先生・スクールカウンセラー・保護者に相談を。集団は一つではありません。多様な選択肢(別のサークル、オンラインの学び場、図書委員など)を試すのも大切です。
Q4. リーダーに向いていない気がします。
A. リーダー像は一つではありません。声が大きい人だけでなく、傾聴型・調整型・記録型のリーダーも必要です。自分の強みで貢献しましょう
用語解説:
タンク・サポート(ゲームの役割)
- タンク :前に立って攻撃を引き受け、仲間を守る役。
- 例:体育の守備で体を張ってゴール前を守るイメージ。
- サポート :回復・強化・妨害などで仲間を助ける役。
- 例:声かけ・パス出し・状況整理でチームを支える人。
メンター制(学びの相棒制度)
- 経験者(メンター)が初心者(メンティー)にやり方や考え方のコツを教える仕組み。答えを代わりにやるのではなく、自分でできる力を育てる。
オープンソース(みんなで作るソフト)
- ソフトの設計図(ソースコード)を公開し、ルール(ライセンス)に従えばだれでも使う・直す・配ることができる仕組み。
- 例:LinuxやFirefoxなど。共同作業で改良が進む。
フリーライダー(ただ乗り)
- みんなの利益だけ受けて、分担や費用を出さない人・行動。
- 例:班の仕事を任せきりにして成果だけもらう。
- 対策:役割の見える化、当番のローテーション、振り返りで公平に。
エコーチェンバー(こだま部屋)
- 同じ意見だけが集まって反響し、強まる状態。違う考えが見えにくくなる。
- 例:SNSで自分と似た意見の投稿しか見ない。
- 対策:別の情報源も見る/事実確認する。
デジタルリテラシー(ネットを使いこなす力)
- ネットや端末を安全・正しく使い、情報を見分け、発信できる力。
- 例:①出所を確認 ②ウソ・誇張に注意 ③著作権・引用を守る ④個人情報・パスワードを守る ⑤相手を傷つけない書き方(マナー)。
14. まとめ――多様な集団と民主社会
私たちは家庭・学校・職場・地域・オンラインなど複数の社会集団に生涯関わります。集団は居場所と学びを与える一方、摩擦や課題も生みます。だからこそ、集団の性質を理解し目的に合った関わり方を選び、対話とルールで物事を進める力をつけることが重要です。この力は、将来の職場や地域社会、さらには国家・国際社会における民主的な協働の土台になります。