安全な水とトイレを世界中に（SDGs 6）

SDGs 目標6：安全な水とトイレを世界中に は、すべての人が安全で手頃な水、衛生、衛生的な環境（WASH）を利用できる社会をめざすゴールです。水は生命の根幹であり、健康、教育、経済、ジェンダー平等、気候変動対策など、他の目標とも密接に結びついています。本記事では、前半で企業の取り組みを中心に、後半で政策・技術・地域実践・個人ができることまで、実装の視点で解説します。

1. まずは現状整理：なぜ SDGs 6 が重要なのか

• 🌍 普遍的な課題：水資源は偏在し、人口増加・都市化・気候変動により水ストレスは各地で深刻化。洪水・干ばつ・海水面上昇は水質にも影響します。
• 🧫 健康リスク：安全でない飲用水や不適切な衛生環境は、下痢性疾患・寄生虫症などの感染症拡大につながり、子どもの栄養不良や就学機会にも影響します。
• 👩‍👧 ジェンダーの視点：遠距離の水汲みへ女性や女児の時間が取られ、教育・就労の機会を奪うことがあります。安全なトイレの不足は暴力・ハラスメントのリスクにも直結します。
• 🏭 経済・産業：水は農業・製造業・観光・エネルギーなどの基盤。水リスクはサプライチェーン全体の事業継続性（BCP）に直結します。

要点：水・衛生は「人権」かつ「経営課題」。人道的意義と同時に、企業価値・レジリエンスの観点でもSDGs6は核心テーマです。

2. 企業の取り組み（前半特集）

企業は、**自社操業（スコープ1・2）だけでなく、サプライチェーン（スコープ3）、さらには流域（バリューチェーン外のステークホルダー）**を含めた“流域ガバナンス”の発想で水課題に向き合うことが求められます。以下に実装しやすい取り組みを整理します。

2-1. 社内・工場での実装

• 💧 用水の削減・再利用：工程内の**クローズドループ（再循環）**化、冷却水の回収、CIP（定置洗浄）最適化、節水機器の導入。
• ♻️ 再生水（リサイクルウォーター）活用：膜分離（UF/RO）、逆浸透、MBR（膜分離活性汚泥法）などで排水を高度処理し再利用。
• 🧪 排水の高度処理：BOD/COD・窒素/リンの除去、活性炭・オゾン・紫外線による微量汚染物質対策、マイクロプラスチックの除去強化。
• 🔧 リーク（漏水）検知：IoTセンサー・デジタルツインで配管の漏れを早期発見、ポンプ運転の最適化でエネルギーと水を同時に削減。

2-2. サプライチェーンでの実装

• 🌾 一次産品の水フットプリント管理：農業のスマート灌漑（点滴灌漑、土壌水分センシング）、塩害・干ばつ耐性品種の導入、肥料流出を抑える精密施肥。
• 🧵 素材・加工の水使用：繊維・染色・紙パルプ・食品など水多消費セクターで、**水原単位（m³/製品）**のKPI化とサプライヤー評価。
• 🤝 サプライヤー・調達方針：水質基準と排水基準の遵守、監査（アセスメント）、改善計画（CAP）を連動。

2-3. 流域（Catchment）との協働

• 🗺️ 水リスク評価：流域単位での水量・水質・生態系・規制リスクを評価し、優先地域を特定（ハイレベルな考え方）。
• 🌳 自然に根ざした解決策（NbS）：森林再生、湿地保全、グリーンインフラ（雨水浸透、グリーンルーフ）で洪水・流出負荷を軽減。
• 🏫 地域WASH支援：学校・医療機関のトイレ整備、手洗いステーション、月経衛生（MHM）支援、衛生教育の共同実施。

2-4. ガバナンス・情報開示

• 📊 KPIと目標：取水量、再利用率、排水質、事故件数、水ストレス地域の売上比率などを定量化。**科学的根拠に基づく目標（SBT for Water の考え方）**に整合。
• 🧭 方針と責任体制：水資源方針の策定、取締役会レベルでの監督、人権方針（安全な水へのアクセスは人権）との接続。
• 💬 開示・エンゲージメント：取組・課題・目標進捗をレポーティングし、地域・行政・NGO・投資家と対話。

ヒント：短期の節水だけでなく、流域の再生と共生を見据えた中長期計画が投資家から評価されやすく、レジリエンス向上にも直結します。

3. 政策と国際枠組みの理解（実装の前提）

• 🏛️ 水・衛生の人権：安全な飲み水と衛生へのアクセスは基本的人権と位置づけられ、国家・地方自治体の責務と民間連携が求められます。
• 📜 規制・基準：飲料水水質基準、排水規制、産業別のガイドライン、公共事業基準など。国・地域により差があるためローカル準拠が重要。
• 💱 料金制度：水道料金・下水道料金・工業用水料金・取水権の設計は、水需要管理・投資回収・低所得層支援のバランスが要。
• 🌦️ 気候適応との統合：干ばつ・洪水・塩水化への適応、再生可能エネルギーと組み合わせた省エネ型浄水・下水処理、災害時のWASH確保（レジリエンス計画）。

4. 技術の最前線：実装カタログ

• 🧰 分散型浄水：家庭・学校・診療所向けの小型浄水器、重力式ろ過、セラミックフィルタ、紫外線消毒、太陽熱蒸留など。
• 🏙️ 都市インフラ：高度浄水処理（オゾン・活性炭）、下水再生（再生水の都市利用）、雨水貯留・浸透、グリーンインフラでヒートアイランド緩和。
• 🧫 水質モニタリング：IoTセンサー、ポータブル測定器、遠隔監視、AI解析で漏水検知・水質変動を早期把握。
• 🚽 衛生（Sanitation）：下水道整備、合併処理浄化槽、Fecal Sludge Management（FSM）、学校トイレの安全・衛生・プライバシー設計、MHM対応。
• 🧪 新興汚染物質：PFAS・医薬品・微量化学物質への対応技術（吸着、膜、先端酸化）と、リスクコミュニケーション。

5. 地域での実践モデル（教育・医療・防災）

• 🏫 学校WASH：安全な飲料水、清潔なトイレ、手洗い場、衛生教育。生理用品やMHMに配慮した設計で欠席の減少を実現。
• 🏥 医療施設WASH：手指衛生・感染管理に直結。無停電電源（ソーラー＋蓄電）とセットで給水・消毒機能を確保。
• 🧯 防災WASH：断水・停電時も機能する非常用浄水・仮設トイレ、マンホールトイレ、地域井戸の衛生管理、避難所での給水動線設計。

6. ファイナンスとパートナーシップ

• 💸 資金調達：グリーンボンド、サステナビリティ・リンク・ローン、インパクト投資、官民連携（PPP/PFI）。
• 🤝 連携のカギ：自治体・企業・NGO・大学・地域住民の協働。現地の文化・慣習・ジェンダー視点を取り入れ、**運用・保守（O&M）**まで見据えた設計。

7. 日本からできること（企業・自治体・市民）

7-1. 企業ができること

• 📍 事業所ごとに流域リスク評価→KPI化→投資計画。
• 🔁 工程の節水・再利用率の可視化、サプライヤーの水原単位の把握。
• 🧼 学校・地域での手洗い・衛生教育やトイレ整備の支援を、CSV（共有価値）として継続。

7-2. 自治体ができること

• 🏗️ 老朽化インフラの更新、耐震化、漏水削減プログラムの強化。
• 🧑‍🤝‍🧑 住民参加の節水キャンペーン、雨水利用、再生水の地域活用。

7-3. 個人ができること

• 🚿 節水シャワーヘッド、こまめな止水、食の選択で仮想水にも配慮。
• 🧴 洗剤・薬品の適量使用、マイクロプラ対策（合成繊維の洗濯ネット等）。
• 💡 学校・職場での衛生教育や寄付・ボランティア参加。

8. よくある質問（FAQ）

Q1. 「安全な水」とは？
水質基準を満たし、供給が安定し、家庭から合理的な距離で利用でき、価格が手頃で、継続的に維持されることが目安です。

Q2. トイレ整備の優先順位は？
**安全・清潔・プライバシー・アクセス性（障害者・子ども・高齢者）**を満たし、持続可能な汚泥管理（FSM）と組で計画すること。

Q3. 企業にとってのメリットは？
水リスクの低減、操業安定、レピュテーション向上、投資家評価の向上、コスト削減、従業員の健康とエンゲージメント向上などです。

9. まとめ：流域で考え、現場で動く

SDGs6は、人権・健康・教育・経済・気候の交点にある最重要テーマです。企業は自社→サプライチェーン→流域へと視野を広げ、自治体・市民と連携して実装を進めることで、事業価値と社会価値を同時に高めることができます。短期の節水に留まらず、自然資本を再生し、災害に強い水循環をつくる取り組みを、今日から始めましょう。