「SDGsで日本はどこまで達成できているの?」という疑問は、とても自然です。ただしSDGsは17目標それぞれが複数のターゲット(細かな目標)で構成され、評価方法(どの指標を重視するか)によって結論が変わります。
そこで本記事では、国際的に広く参照される評価の一つであるSustainable Development Report(SDR)2025の国別ダッシュボードを軸に、日本が「達成できている」と言いやすい領域(=生活者が体感しやすい強み)を整理します。加えて、同じ目標の中でも“良い点と課題が混ざる”理由もあわせて解説します。
SDR 2025の日本のダッシュボードでは、17目標のうちSDG3(すべての人に健康と福祉を)が「SDG achieved(達成)」の判定になっています。一方で、他の目標は「課題が残る」「重大な課題」などの判定が多く、目標全体としての“完全達成”は簡単ではない、というのが現状です。
ただし、これは「日本はSDGsが全然できていない」という意味ではありません。多くの目標で一部の指標は世界トップクラスでも、目標全体では別の指標がボトルネックになり、総合判定が厳しくなることがあるからです。
SDG3の強みは、端的に言うと「予防〜治療〜公衆衛生の基盤が比較的厚い」ところにあります。代表的な指標は次の通りです。
こうした“健康寿命に直結する土台”は、日本が長年積み上げてきた医療制度、予防接種、母子保健、衛生環境、交通安全、感染症対策などの総合効果として表れやすい領域です。
ポイント:SDG3は「医療が高度」だけでなく、生活習慣病・事故・感染症・周産期医療など幅広い要素が含まれます。その中で総合的に高い水準にあることが、「達成」判定につながっています。

SDRの“目標判定”で緑(達成)になりにくくても、生活者の目線では「すでに当たり前になっている」強みがあります。ここでは特に分かりやすいものを挙げます。
ただし、目標全体の評価では、水資源の利用、輸入に伴う水ストレス(バーチャルウォーター)など“見えにくい負荷”が評価に影響することがあります。
一方でSDG7は、アクセスだけでなくエネルギーのクリーン化(再エネ比率など)も含むため、そこが課題になると目標全体の判定が厳しくなります。
ただし、SDG9も「誰もがアクセスできるか」「格差の縮小に結びつくか」「環境負荷を下げられるか」といった視点が入るため、単純に“技術が高い=達成”とは判定されません。
一方でSDG16は、司法アクセス、手続きの迅速性、透明性、報道の自由、腐敗認識なども含むため、総合判定は一枚岩になりません。
よくある誤解は、「ある分野が強いなら、そのSDG目標は達成しているはず」という見方です。けれどSDGsは、同じ目標の中でも構成要素が多いため、次のようなことが日常的に起きます。
また、各国の経済活動は国境を越えてつながっています。日本が輸入を通じて海外の環境負荷や労働課題に関与してしまう可能性もあり、こうした要素はSpillover(国外への影響)の観点で評価されます。
本記事のテーマは「達成できているところ」ですが、達成領域を増やすには“得意分野を伸ばしつつ、ボトルネックを潰す”発想が重要です。現実的な方向性の例を挙げます。
「達成できているSDGs」を正確に捉えるには、目標(17)×ターゲット(多数)×指標(さらに多数)という構造を理解し、“強いところ”と“未解決のところ”を分けて見るのが近道です。