みなさんは「地域主義(ちいきしゅぎ)」という言葉を聞いたことがありますか?
少しむずかしく感じるかもしれませんが、これはとても大切な社会の考え方です。ある地域の文化や経済、政治などを大切にして、自分たちの地域でできることを進めていこうという考えです。
この記事では、国内外の例やメリット・デメリット、そして世界での地域的な協力の仕組みについて、できるだけわかりやすく紹介していきます。
「地域主義」とは、国の中や国と国の間で、「地域」ごとの特性や利点を活かしながら、自立し協力していこうという考え方です。
大きく分けると、以下の2つがあります:
北海道では「ラベンダー畑」や「雪まつり」など、地域独自の観光資源を活かしたまちづくりが進められています。
国をいくつかの「州」に分け、それぞれが税金の使い方や制度を決める仕組みを作る案です。これによって地方がもっと自由に自分たちの地域を運営できるようにすることが目標です。
地元の祭りや伝統工芸、方言などが大切にされることで、その地域らしさが残ります。
例:青森の「ねぶた祭り」や高知の「よさこい祭り」など
地元の特産品を全国や海外に売り出すことができ、地域で働く人やお店が元気になります。
例:秋田の「あきたこまち」、香川の「さぬきうどん」
地域の人たちが協力して町をよくしようとすることで、人と人のつながりも強くなります。
例:高齢者を支える「見守り隊」など
地方ならではの問題(人口減少、交通の不便さなど)に、地域の実情に合った解決策を考えられます。
経済力や人口の差によって、自立できる地域とできない地域が出てきてしまいます。
あまりに地域ごとにやり方がバラバラになると、国としての統一感が失われることがあります。
「うちの地域が一番」という意識が強くなりすぎると、他の地域を見下したり、差別的な考えになる恐れもあります。
同じような政策を地域ごとにバラバラに行うと、お金や労力がムダになってしまうこともあります。
世界でも、国どうしが協力して地域単位でまとまろうとする動きがあります。いくつか代表的な例を見てみましょう。
1993年に12か国でスタートした地域連合で、現在は30か国近くが加盟しています。共通通貨「ユーロ」が使われていて、国境を自由に移動できる制度もあります。
ただし、イギリスは2016年の国民投票をへて、2020年にEUから離脱しました。
1967年に発足した東南アジアの国々の連合です。現在は10か国が参加し、経済や安全保障、文化交流など、幅広い分野で協力しています。
2015年には「ASEAN経済共同体(AEC)」が発足し、経済の自由化が進められています。
日本やアメリカ、中国など、太平洋を囲む地域の国が集まる会議です。1989年から始まり、貿易の自由化などについて協議しています。
アメリカ、カナダ、メキシコの3か国が、関税(税金)をなくして貿易を自由にする協定です。2020年には新たに「USMCA」が発効し、NAFTAは終了しました。
特定の国どうしで、関税などをなくす協定です。貿易の自由化が進むことで、商品を安くやりとりできるようになります。
FTAよりも広い分野で協力を進める協定です。貿易だけでなく、投資・労働・環境など、いろいろな面での協力が含まれます。
地域の安定や平和のために、国際的な援助や協力も欠かせません。
先進国が、発展途上国にお金や技術を提供して助ける制度です。学校の建設、病院の設置、井戸掘りなどが例です。日本も多くの国に援助しています。
政府とは関係なく、民間の立場で国際的な援助活動を行う団体です。
貧困に苦しむ人々の教育や医療、環境保護など、多くの分野で活躍しています。
国どうしが協力して地域を単位にまとまる「国際的な地域主義」は、世界の平和や経済にとって大きな影響を持っています。しかし、すべてが良いことばかりではありません。ここでは、そのメリットとデメリットを見ていきましょう。
共通のルールをつくって関税(税金)を下げたりなくしたりすることで、貿易が活発になります。安く物が売買できるため、経済全体が元気になります。
例:
地域内での移動がしやすくなり、観光、労働、教育などの面でも交流が活発になります。
例:
国どうしが協力し合うことで、争いをさけ、信頼関係を築くことができます。
例:
一国では解決がむずかしい問題に、地域全体で取り組むことができます。
例:
加盟国が多くなると、それぞれの国の事情がちがうため、一律のルールが合わない場合があります。
例:
地域としての決定が優先されるため、自国だけで自由に決められないことがあります。
例:
協定によって自由な競争が進むことで、強い国や企業だけが得をして、弱い国は損をすることもあります。
地域内だけでの貿易が中心になると、地域外の国が不利になるケースも出てきます。
例:
世界の中での地域主義は、国どうしが力を合わせてより良い未来を目指す動きです。
しかしその一方で、「小さなまとまり」ばかりを重視しすぎると、世界全体でのバランスがくずれたり、対立が生まれたりすることもあります。
だからこそ、地域どうしの「協力」と「自立」、そして世界全体との「連携」のバランスをしっかりとることが大切です。
地域主義は、私たちの生活にとても関係が深い考え方です。
また、世界の国々が協力する国際的な地域主義(EUやASEANなど)も、世界の平和や安定にとって大切です。
自分の住む地域や国を誇りに思いながらも、他の人々や地域と手を取り合って、協力できる社会をつくっていくことが、これからの時代に求められています。
地域主義は、世界の政治や経済を動かす大きな力です。ここでは、教科書には載っていないかもしれない、地域主義に関する興味深いトリビアを10個ご紹介します。
現在のヨーロッパ連合(EU)の起源は、1951年に設立された「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)」に遡ります。かつて戦争の原因となった石炭と鉄鋼の生産を、フランスとドイツが共同で管理することで、二度と戦争を起こさないという目的がありました。この小さな経済的協力が、やがてEUという巨大な政治・経済連合へと発展したのです。
EUには加盟国を象徴する共通の旗と歌があります。旗は、青地に12個の金色に輝く星が円を描いており、これは統一、連帯、調和を象徴しています。また、歌はベートーヴェンの交響曲第9番「歓喜の歌」の旋律が使われており、加盟国間の平和と自由を謳っています。
NAFTA(現USMCA)とは別に、アメリカのモンタナ州とカナダのアルバータ州は、独自の貿易協定を結び、税関手続きを簡素化するなど、経済的な結びつきを強化しています。このように、国境をまたいだ地方政府が独自に協力協定を結ぶ事例は世界中に存在します。
新興国の協力体制である「BRICS」(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、2024年にエチオピア、エジプト、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、アルゼンチンの6カ国を新たに加盟国として迎え入れ、体制を拡大しました。これは、世界経済における地域主義の重要性が高まっていることを示す一例です。
日本で「道州制」の議論が始まったのは、明治維新以降ですが、江戸時代末期にも「藩」を統合し、地方の自立性を高めようとする動きがありました。このように、地方の権限を強めることで、中央政府の負担を減らし、効率的な行政を目指すという考え方は、古くから存在していました。
南米大陸には、「メルコスール(MERCOSUR)」と呼ばれる経済共同体があります。これはブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイなどを中心とした経済圏で、共通関税や貿易の自由化を進めることで、経済発展を目指しています。
EU加盟国の多くがユーロを使っていますが、スウェーデン、デンマーク、ポーランド、ハンガリーなど、独自の通貨を使い続けている国もあります。これらの国は、ユーロ導入によって自国の金融政策の自由度が失われることなどを懸念し、導入を見送っています。
アフリカ大陸には、「アフリカ連合(AU)」という大陸全体の政治・経済連合があるほか、地域ごとの経済共同体(例:南部アフリカ開発共同体(SADC))が多数存在しています。これらの組織は、貧困問題、紛争解決、経済統合など、さまざまな課題に地域全体で取り組んでいます。
グローバリゼーションが進むにつれて、多国籍企業の影響力が増し、地域の文化や伝統が失われることを懸念する声が高まりました。これに対し、自分たちの文化や経済を守るために、国や地域が協力してまとまろうとする動きが加速し、地域主義を推進する一つの要因となりました。
日本を含む環太平洋地域の11か国が参加するTPPは、地域内の関税を大幅に撤廃し、貿易や投資のルールを統一する協定です。これは、特定の地域内で経済的協力関係を深めるという点で、国際的な地域主義の典型的な例と言えます。