「公共の福祉(こうきょうのふくし)」という言葉を、社会科の授業で聞いたことがあるかもしれません。でも、「なんとなく難しそう」「福祉って福祉施設のこと?」と思っている人も多いのではないでしょうか?
実はこの「公共の福祉」という考え方は、私たち一人ひとりの生活や自由、そして社会全体の幸せに深く関わっている大切な考え方なのです。
この記事では、「公共の福祉」の意味をわかりやすく説明した上で、私たちの身近にある高速道路の具体的な例をたくさん紹介します。日常生活やニュースで目にすることの多い事柄が、「公共の福祉」とどう関わっているのかを知ることで、社会を見る目がぐっと広がるはずです。
まず、「公共の福祉」とは何かを理解することから始めましょう。
日本国憲法では、「基本的人権」を保障すると同時に、その権利の行使が「公共の福祉に反しない限りにおいて」とされています。
つまり、「個人の自由や権利は大切だけれど、みんなが安心して暮らすためには、他の人の権利も尊重しなければならない」という考え方です。
たとえば、自分が大声で音楽をかける自由があったとしても、夜中に大音量で音楽をかけると、周りの人が眠れなくなってしまいます。そうなると、他の人の「静かに暮らす権利」を奪ってしまうことになりますよね。
このように、「みんなの自由や権利がぶつかり合わないように、バランスを取って、社会全体の幸せを守ること」が「公共の福祉」なのです。
それでは、私たちの身の回りにある「公共の福祉」の具体例を見てみましょう。
かつては、電車の中や飲食店でもたばこが吸える場所が多くありました。でも今では、喫煙が禁止されている場所が増えています。
これは、たばこを吸わない人が「受動喫煙(じゅどうきつえん)」で健康を害されないようにするためです。たとえ吸う人の自由が制限されたとしても、多くの人の健康を守るために必要なルールです。
➡️ これは「公共の福祉」の考え方に基づくものです。
お祭りなどで夜遅くまで花火をする人もいますが、多くの地域では夜10時以降は騒音を出さないようにと決まっています。
これは、周囲の人たちが静かに過ごしたり、ぐっすり眠れたりする環境を守るためです。
➡️ 自分の楽しみよりも、周りの人の平和な暮らしを優先する「公共の福祉」の例です。
コロナウイルスの流行中、マスクの着用が求められたのも、公共の福祉の一例です。
「マスクをつけたくない」という個人の自由がある一方で、「他人に感染させないように配慮する」という社会全体の安心感が優先されました。
➡️ 社会全体の安全・健康を守るために、個人の自由が制限された良い例です。
赤信号で止まるのは、車や歩行者が事故を起こさないためのルールです。「今急いでいるから信号を無視したい」と思っても、それを認めてしまうと事故が起き、他人に危険を与えることになります。
➡️ 交通ルールも、みんなが安全に生活できるように作られた「公共の福祉」に基づくものです。
いじめは、被害者の人権を侵害する行為です。いじめを防ぐ取り組みや、学校でのルールづくりは、生徒全員が安心して勉強できる環境を作るための「公共の福祉」にあたります。
➡️ 誰もが平等に学ぶ権利を守るために必要な制度です。
駅や公共施設にエレベーターやスロープがあるのを見たことがあると思います。これらは、高齢者や障害のある人も安全に利用できるように設置されています。
➡️ 社会的に弱い立場の人々の生活のしやすさも「公共の福祉」の大切な一部です。
SNSなどで他人を傷つけるような書き込みをした場合、それが削除されたり、罰せられたりすることがあります。
➡️ 表現の自由は大切ですが、それによって他人の名誉や心を傷つけてはいけません。「公共の福祉」により、一定の制限があるのです。
電車やバスの中には「優先席」があります。これは、お年寄りやけがをしている人、妊娠中の人などが安心して座れるように配慮された席です。
➡️ こうした思いやりのある仕組みも「公共の福祉」を大切にする社会の表れです。
一部の歩道では、自転車の走行が禁止されている場所があります。これは、歩行者の安全を守るためです。自転車利用者の自由が一部制限されるかわりに、歩行者が安心して通行できるようになります。
➡️ これも公共の福祉に基づくルールです。
公園でボール遊びが禁止されている場所もあります。これは、子どもたちが自由に遊びたい気持ちと、お年寄りが安心して散歩したい気持ちのバランスをとるための工夫です。
➡️ すべての人が気持ちよく使えるようにするための「公共の福祉」の調整です。
災害時に学校や体育館などが「避難所」として使われます。これは地域全体の安全を守る仕組みであり、個人の自由(施設の通常利用など)よりも多くの人の命を優先しています。
➡️ 非常時の「公共の福祉」もとても重要です。
ごみの分別やポイ捨て禁止、工場の排出ガスの制限なども、自然環境を守るためのルールです。これによって地球全体の健康が守られ、みんなが安心して暮らせる社会になります。
➡️ 地球環境を守ることも「公共の福祉」の一つといえます。
法律では、「働きすぎ」にならないように、労働時間に制限が設けられています。これは、働く人の健康や生活の質を守るためです。
➡️ 働く人たちの権利と健康を守る仕組みも「公共の福祉」に含まれます。
日本では、小・中学校に通うことが義務になっています。これは、すべての子どもが平等に教育を受けられるようにするためです。
➡️ 教育の機会を公平に与えることは、社会全体の幸福にもつながります。
高齢ドライバーによる交通事故を防ぐために、一定年齢以上になると運転技能を再確認する制度があります。本人の運転の自由を制限する場合もありますが、多くの人の命と安全を守るために必要とされています。
➡️ 命に関わる場面でも、「公共の福祉」の考え方が重視されます。
「公共の福祉」は、単に誰かの自由を制限することではありません。お互いの自由や安全を守るためのバランスをとるしくみです。社会で生きるすべての人が、お互いを思いやることで、よりよい未来をつくることができるのです。
自分の行動が「誰かの迷惑になっていないかな?」と立ち止まって考えること、それが「公共の福祉」を意識する第一歩です。
どちらも大切ですが、「みんなの自由を守るためには、一人の自由が少し制限されることもある」というバランスが必要です。社会の中で生きる以上、「自分だけ」の考えでは成り立ちません。
公共の福祉の考え方は「話し合い」によって改善されることもあります。選挙や意見表明などを通じて、自分の声を届けることも大切です。民主主義では、ルールも変えていけるのです。
まずは、他の人の立場に立って考えてみましょう。「迷惑をかけてしまったかもしれない」と気づいたら、反省し、次から改善すれば大丈夫です。学ぶ姿勢が大切です。
日本国憲法では、「公共の福祉」という言葉が3か所に登場します。第12条・第13条・第22条に出てきますが、どれも「個人の権利は大切だけど、みんなの幸せのためにバランスが必要だよ」という内容になっています。これは世界的にもよく知られた特徴なんですよ。
たとえば、差別的な言葉や暴力をあおるような表現は、「表現の自由」の範囲外とされることがあります。言いたいことを自由に言えるのは大切な権利ですが、それによって他の人を傷つけたり、不安にさせたりしてはいけません。
日本の最高裁判所(さいこうさいばんしょ)では、「この権利は公共の福祉に反していないか?」という視点で法律の判断をすることがあります。つまり、「公共の福祉」は、法律や裁判の世界でもとても大切なキーワードなのです。
夜の時間帯の騒音規制や、工事の時間制限、建物の高さ制限などはすべて「公共の福祉」の観点で決められています。都市に暮らす人たちが安心して暮らせるよう、細かいルールが作られているのです。
日本だけでなく、アメリカやヨーロッパの国々でも、「公共の利益」や「公共の秩序(ちつじょ)」という考え方があります。それぞれの国の言葉は違っても、「みんなが幸せに暮らすためのルールを作る」という考え方は共通しています。
「公共の福祉」という言葉は難しく感じるかもしれませんが、その意味はとても身近で大切なものです。
・一人ひとりの自由や権利は大切
・でも、それが他の人の権利とぶつかるときは、社会全体の幸せを優先する
・そのバランスをとるのが「公共の福祉」
学校、家、町、インターネット、すべての場所で「自分の自由」だけでなく「みんなの幸せ」について考えることができれば、もっと良い社会がつくられていくでしょう。
あなたの「ちょっとした思いやり」や「少しの我慢」が、実は「公共の福祉」を守ることにつながっているのです。