二重敬語の例
二重敬語の落とし穴:気づかぬうちに敬語が間違っているかもしれません
イントロダクション:丁寧に話しているはずなのに違和感が…
ビジネスやフォーマルな場で、敬語を使う機会は多いですよね。ところが、「きちんと敬語を使っているつもりなのに、どこか不自然に聞こえる…」と感じた経験はありませんか?
その原因のひとつとして考えられるのが、「二重敬語」です。敬意を表すつもりが、実は文法的に誤った使い方をしていて、相手にかえって違和感を与えてしまっている可能性があります。
この記事では、二重敬語とは何か、なぜ避けるべきなのか、よくある間違いと正しい言い換え表現を徹底的にご紹介します。今よりもっと自然でスマートな敬語を身につけたい方は、ぜひ最後までお読みください。
二重敬語とは?――丁寧さの“かぶせすぎ”に注意

「二重敬語」とは、同じ種類の敬語表現(尊敬語+尊敬語、または謙譲語+謙譲語)を重ねて使ってしまう言い回しを指します。たとえば、「おっしゃる」という尊敬語に、さらに「〜られる」という助動詞をつけて「おっしゃられる」と言ってしまうなどが典型例です。
こうした表現は、敬意が過剰すぎて逆に不自然な印象を与えるため、一般的には文法上の誤用と見なされます。敬語は簡潔で的確なほど、よりスマートで洗練された印象を与えるという日本語の美意識にもとづいているのです。
なお、例外的に慣用的に使われているものも存在します。その点については、記事後半で詳しくご紹介します。
実例で学ぶ:ありがちな二重敬語とその正しい言い換え
1. 尊敬語の“かぶせすぎ”パターン
敬う気持ちが強すぎて、尊敬語にさらに尊敬語を重ねてしまうケースはとても多いです。
❌誤用:「社長がおっしゃられました」
✅正解:「社長がおっしゃいました」
→「おっしゃる」は尊敬語。「〜られる」を加える必要はありません。
❌「先生がご覧になられました」
✅「先生がご覧になりました」
→「ご覧になる」で既に尊敬が成立しています。
❌「お客様がお帰りになられました」
✅「お客様がお帰りになりました」
→「お帰りになる」も尊敬語。助動詞の追加は過剰です。
❌「部長がお話しになられました」
✅「部長がお話しになりました」
❌「課長がお読みになられました」
✅「課長がお読みになりました」
❌「部長が拝見されました」
✅「部長がご覧になりました」
→「拝見する」は謙譲語。相手に使うのは誤り。
❌「課長がおられます」
✅「課長がいらっしゃいます」
→「おる」は本来謙譲語。近年では許容されることもありますが、「いらっしゃる」の方が自然。
❌「先生がご出席なされました」
✅「先生がご出席になりました」
❌「お客様がお見えになられました」
✅「お客様がお見えになりました」
❌「社長がご高覧になられました」
✅「社長がご高覧になりました」
❌「部長がお帰りあそばされました」
✅「部長がお帰りになりました」または「部長がお帰りです」
→「あそばす」は古風で現代では不自然な印象を与えます。
2. 謙譲語の“へりくだりすぎ”パターン
今度は自分の動作を必要以上にへりくだってしまうケースです。
❌「私がお伺いさせていただきます」
✅「私が伺います」または「お伺いします」
→「伺う」と「〜させていただく」の両方が謙譲語で、二重敬語に。
❌「資料を拝見させていただきます」
✅「資料を拝見します」
→「拝見する」だけで十分に丁寧です。
❌「皆様にご説明申し上げます」
✅「ご説明します」または「申し上げます」
❌「お客様にご案内差し上げます」
✅「ご案内申し上げます」または「ご案内します」
❌「この件についてご進言申し上げます」
✅「ご進言します」または「進言いたします」
補足:丁寧語との組み合わせもバランスが大切
「社長様がお帰りになられました」のように、「〜様」などの丁寧語と敬語を重ねると、意味としては間違いではなくても、くどく聞こえる場合があります。
✅適切な表現例:「社長様がお帰りになります」または「社長がお帰りになります」
一見二重敬語に見えるけど許容されている表現もある
日本語の敬語には、例外的に慣用的な使われ方が定着しているケースもあります。
- お召し上がりになる:「召し上がる」に「お〜になる」が加わった形。一般的に使用可。
- お見えになる:もはや標準的な尊敬語として確立。
- おっしゃられる:本来は二重敬語だが、話し言葉では容認されることがある。
- 〜させていただきます:「許可を得て行動する」「恩恵を受ける」という文脈では、意味として正当。
📌例:
- 「ご説明させていただきます」は、相手への配慮や感謝が込められているため、丁寧な印象を与える。
- ただし、「拝見させていただきます」などはやや過剰に響く場合もあるので、状況に応じて使い分けを。
なぜ私たちは二重敬語を使ってしまうのか?
このような誤用は、以下のような心理的・環境的要因から生まれがちです。
- 丁寧にしようという気持ちが強すぎる
→過剰に敬語を使いすぎてしまう
- 敬語の仕組みを正しく理解していない
→尊敬語と謙譲語の区別が曖昧
- 周囲の影響や耳慣れ
→周囲が誤用していても気づかず使ってしまう
- 不安からの“保険的表現”
→「念のためもっと丁寧に」と思い、つい敬語を重ねてしまう
まとめ:正しい敬語を使うことは、信頼を築く第一歩
丁寧に話そうとする姿勢は素晴らしいことですが、二重敬語を使ってしまうと、かえって相手にぎこちない印象を与えてしまいます。自然で適切な敬語を身につけることで、ビジネスでも日常でもより良いコミュニケーションが可能になります。
本記事で紹介した例を参考に、ご自身の表現をぜひ見直してみてください。「伝わる敬意」は、「過剰な敬意」ではなく「的確な敬意」によって生まれるのです。
📌 二重敬語トリビア集
- 二重敬語の歴史は古い
現在では「誤用」とされる二重敬語ですが、江戸時代の武家言葉や宮中言葉では、あえて敬語を重ねることで相手への特別な敬意を強調する用法もありました。現代の基準では不自然でも、当時は「格式の高さ」を表す手段だったのです。
- 皇室関連の言葉はあえて二重敬語に近い形になることも
たとえば天皇陛下への呼びかけや記録文では、尊敬語や丁寧語を重ねた特別な表現が用いられることがあります。これは誤用ではなく「特別敬語」の一種とされます。
- 二重敬語は英語など他言語にはほぼ存在しない
英語にも敬語的な表現はありますが、日本語のように動詞そのものを変化させて二重に丁寧さを重ねる文化は珍しく、日本語特有の現象といえます。
- NHKアナウンサー研修では二重敬語は減点対象
NHKの新人アナウンサー研修や放送基準では、二重敬語は基本的に誤りとして扱われ、ニュース原稿やインタビューでは避けるよう指導されます。
- 「おっしゃられる」は完全な誤用ではないとする辞書もある
『広辞苑』など一部の辞書では、「おっしゃられる」は口語として使われることがある旨が記載されており、完全否定していないケースもあります。ただし公式文書では避けられる傾向です。
- 方言では二重敬語が日常的に使われることも
関西弁や九州方言など、一部の地域では二重敬語的な言い回しが会話のリズムとして定着していることがあります。文法的には間違いでも、地域文化としては自然な言い方です。
- 昔の電話応対マニュアルが二重敬語を広めた説
昭和〜平成初期の電話応対研修や接客マニュアルには、現在では二重敬語とされる言い方が載っていたことがあり、これが広く一般に定着してしまったと言われています。