私たちは日常生活の中で多くの「色」に囲まれて生活しています。信号機の赤・黄・青、地図の色分け、商品のパッケージ、案内標識、学校の教科書や職場のプレゼン資料まで――色は視覚情報の中でも非常に重要な役割を果たしています。
しかし、すべての人が同じように「色」を見分けられるわけではありません。視覚の特性には個人差があり、日本国内だけでも300万人以上が色覚多様性(いわゆる色弱や色覚異常)を持つと言われています。
このような背景から生まれたのが「カラー ユニバーサル デザイン(Color Universal Design, 略してCUD)」という考え方です。本記事では、このCUDの概要から、実際の活用事例、色の選び方の工夫まで、丁寧に解説していきます。
カラー ユニバーサル デザインとは、「色覚の多様性に配慮し、誰にとっても見やすく、正確に情報が伝わる色の使い方・デザイン」を指します。英語では “Color Universal Design” と表記され、CUDと略されることもあります。
ユニバーサルデザインとは、本来「すべての人にとって使いやすいように設計されたデザイン」を意味します。バリアフリーとの違いは、「後から配慮する」のではなく、最初からすべての人にとって使いやすい設計を目指すことです。
カラー ユニバーサル デザインは、このユニバーサルデザインの考え方を「色の使い方」に適用したものです。
人の色覚にはいくつかのタイプがあります。多くの人は「正常色覚」ですが、先天的に色の区別がしづらい「色覚異常」を持つ人も一定数存在します。
たとえば、以下のような色覚タイプがあります:
日本人男性の約5%、女性の約0.2%がP型またはD型の色覚特性を持っています。
たとえば、プレゼン資料のグラフで「赤」と「緑」で2つの項目を区別しても、P型・D型の人には両方が同じような色に見えることがあります。すると、そのグラフの情報が正しく伝わらないという問題が発生します。
そのため、「色覚に関係なく情報を正しく伝えるデザイン」が必要なのです。
まずは、次の比較画像をご覧ください。
この図は、「一般的な色覚を持つ人」(左側)と「色覚の多様性がある人(例:P型色覚)」(右側)が、同じ色をどのように認識しているかを比較したものです。
✅ 赤・緑・青などの色を明確に見分けることができる
✅ 色の濃淡やコントラストによって、図や数字もはっきり読み取れる(例:石原式色覚検査など)
✅ 果物などの自然な色彩(リンゴの赤、バナナの黄色など)も鮮やかに見える
⚠️ 赤と緑、黄色と緑など、特定の色の区別がつきにくくなる(同じような色に見える)
⚠️ 数字や図形が背景と同化しやすく、情報を読み取るのに苦労する場合がある
⚠️ リンゴが茶色っぽく見えたり、バナナが白っぽく見えたりと、果物の色の印象が異なることがある
同じものを見ていても、色の見え方にはこのような違いがあります。
だからこそ、誰にとっても見やすい色使い=カラー・ユニバーサル・デザインがとても重要なのです。
カラー ユニバーサル デザインを実践する上での基本原則は、以下のように整理されています。
鉄道会社や行政では、色だけでなく記号や文字も併用した駅案内板や路線図を導入しています。
🚆 たとえば:
教育の現場でも、CUDが徐々に広がっています。
📚 たとえば:
食品のアレルゲン表示や注意ラベルに、色+記号や文字の併用が増えています。
🥫 たとえば:
企業の資料やプレゼンでは、「赤と緑」で表現されたグラフがよく見られます。しかしCUDの観点では避けるべき配色です。
📝 対応方法:
🅰️ いいえ、色覚異常は病気ではなく「特性」です。生活に困ることが少ないため気づかれにくいこともあります。CUDはそのような人々を含め、誰にでも情報が伝わるようにするための工夫です。
🅰️ はい、できます。色覚シミュレーションや色覚バリアフリー対応のパレットを使えば、誰でもCUDに配慮したデザインが可能です。
🅰️ 一部のデザイン修正や再印刷が必要な場合もありますが、初めからCUDを意識した設計をすれば、むしろミスや誤解を防ぎ、社会的信頼性を高めることにつながります。
カラー ユニバーサル デザインは、「色覚多様性」のある人だけのためではありません。
以下のような場面でも役立ちます:
カラー ユニバーサル デザイン(CUD)は、すべての人に「見やすく」「伝わりやすい」色の使い方を目指すデザイン手法です。視覚に障害のある人、年齢や環境によって見えにくさを感じる人にも配慮することで、より多くの人が正しく情報を受け取ることができます。
💡 CUDは「優しさ」や「思いやり」ではなく、社会全体の効率性・公平性を高める「デザイン戦略」なのです。
色の世界にバリアを作らない。それが、カラーユニバーサルデザインの目指す社会です。