化学変化と物理変化の違い
はじめに
身の回りの現象は、大きく「化学変化」と「物理変化」のどちらかとして捉えることができます。本記事では、「化学変化」と「物理変化」の違いをていねいに説明し、日常生活で観察できる具体例をたっぷり紹介します。さらに、見分けのコツ、まちがえやすいグレーゾーン、観察・実験のアイデア、用語ミニ事典、理解を確かめるクイズと解説まで拡充しました。読み進めながら、根拠をもって判断できる力を育てましょう。
定義の確認
最初に「化学変化」と「物理変化」の違いを定義から見ていきましょう。
物理変化とは
- 物質の種類(性質の本質)が変わらない変化です。
- 形が変わる、状態(固体・液体・気体)が変わる、混ざる・溶ける など。
- 例:氷が水になる(融解)、紙をちぎる、食塩が水に溶ける。
化学変化とは
- もとの物質とは別の新しい物質ができる変化です。原子どうしの結びつきが組み替わります。
- 例:鉄がさびる(酸化)、木やロウが燃える(燃焼)、酸とアルカリを混ぜて塩と水ができる(中和)。
まとめると、「別の物質に変わるか」が最重要ポイントです。
一目でわかる比較表
観点 |
物理変化 |
化学変化 |
物質の種類 |
変わらない |
変わる(新物質ができる) |
例 |
状態変化・溶解・混合・切断・圧延・蒸発 |
燃焼・酸化・分解・合成・中和・発酵・沈殿・電気分解 |
エネルギー |
出入りは小さいことが多い(潜熱・顕熱) |
発熱や吸熱がはっきり見られることが多い |
観察の手がかり |
形・大きさ・状態の変化、溶ける、混ざる |
色・におい・光・温度変化、気体発生、沈殿、pHの変化 |
元に戻せるか |
条件を整えれば戻しやすい(例:水→氷) |
元に戻すのは難しいことが多い(理論上可能でも実用上困難) |
代表的な装置 |
温度計、蒸発皿、ろ紙、ろうと |
試験管、ガス採集びん、pH試験紙、電源装置 |
「元に戻せるか」は完全な基準ではありません。不可逆な物理変化(ガラスが割れる)や、可逆に近い化学変化(可逆反応)もあります。中心はあくまで「新物質ができたかどうか」。
原子・分子の視点で見る違い
- 物理変化:分子の並び方や距離が変わったり、混ざり方が変わるだけで、分子そのものは同じ。
- 例:水分子 が、固体(氷)⇄液体(水)⇄気体(水蒸気)へ状態を変える。
- 化学変化:原子の結合が組み替わり、別の分子が生まれる。
- 例:炭素 と酸素 が結びついて二酸化炭素 になる。
この視点を持つと、目に見えない微視的な理由で判定できるようになります。
見分けのコツ(チェックリスト)
- 色・においが大きく変わったか(味見はせず観察のみ)
- 気体が発生したか、沈殿ができたか(泡・白い固まりなど)
- 光ったり温度が大きく変化したか(発熱・吸熱)
- pHや電気の通りやすさが変わったか(溶液)
- 化学式で表せる反応か(例:鉄+酸素→酸化鉄)
このようなサインが見られれば、化学変化の可能性が高まります。
身近な具体例
物理変化の例

- 氷が溶けて水になる(融解)、水が氷になる(凝固)
- 湯気がコップの表面で水滴になる(凝縮)
- ドライアイスが気体の二酸化炭素になる(昇華)
- 砂糖が水に溶ける(溶解)
- 食塩が水に溶ける(溶解)
- 食塩水を蒸発させて食塩の結晶を取り出す(溶媒の蒸発)
- 紙を折る・ちぎる・丸める(形状変化)
- ガラスコップが割れる、鉛筆の芯が折れる(破壊による形状変化)
- 金属をたたいて薄くのばす、針金を引きのばす(加工)
- コーヒーとミルクを混ぜる(混合)
- 油と水を振って一時的に混じったように見える(乳化:混合)
- アルコールが蒸発して香りが広がる(蒸発)
- 透明な水が凍って白っぽく見える(結晶の変化による見え方)
- 砂鉄と砂糖を混ぜる(混合)
- 砂鉄を磁石で分ける(物理的分離)
- お茶の葉と湯をこす(ろ過)
- 砂と食塩の混合物から、食塩を水に溶かして分け、蒸発で取り出す(溶解→ろ過→蒸発)
- バターを室温で柔らかくする(物理的軟化)
- チョコレートが手の温度で溶ける(融解)
- ゴムを引き伸ばしてもどる(弾性変形)
化学変化の例

- 蝋燭の芯に火をつけて燃える(燃焼)
- 木材や紙が燃える(燃焼)
- 鉄が長い時間でさびる(酸化)
- みそ・ヨーグルト・パン生地が発酵する(微生物の代謝に伴う化学変化)
- 卵を焼く・ゆでる(タンパク質の変性・不可逆)
- 砂糖を加熱してカラメル化する(分解・重合)
- 酢(酸)と重曹(炭酸水素ナトリウム)を混ぜて二酸化炭素が発生(酸と炭酸水素塩の反応)
- 酸とアルカリで中和して食塩と水ができる(中和反応)
- 銅板に加熱した濃硝酸を触れさせると赤褐色の二酸化窒素(NO₂)が出る(酸化反応)
- 銅と硫黄を加熱して硫化銅ができる(化合)
- 電気分解で水が水素と酸素に分かれる(分解)
- 写真フィルム(古典的なもの)での感光・現像(酸化還元反応の連続)
- バナナやリンゴが熟して色や香りが変わる(酸化・分解・生成の複合)
- 銀のスプーンが硫化して黒ずむ(硫化銀の生成)
- 酸化防止剤入りの切り口が変色しにくい(酸化反応の抑制)
- 石灰水に二酸化炭素を通すと白くにごる(炭酸カルシウムの沈殿)
料理・燃焼・さび・発酵・沈殿形成の多くは化学変化です。
よくまちがえやすいグレーゾーン
- 「元に戻せるか」で判断しすぎない:氷→水は容易に戻せますが、ガラスが割れるのは実質戻せません。どちらも本質は物理変化です。
- 溶ける=物理変化(学習範囲の基本):
- 砂糖や食塩が水に溶けるのは、一般には「物理変化」。
- ただし、物質が水と反応して別の粒子(イオンや新しい分子)をつくる場合は化学変化(例:塩化水素が水と反応してイオンになる)。
- 炭酸飲料の泡:ふたを開けて泡が出るのは、溶けていた二酸化炭素が出てくる現象なので基本は物理変化。ただし、重曹+クエン酸で泡が出るのは化学変化(二酸化炭素が新たに生成)。
- 色の変化=必ず化学変化ではない:光の当たり方、温度、結晶構造の変化でも色が変わることがあるため、複数の手がかりで判断する。
- においの変化:香り成分の蒸発は物理変化、生成は化学変化。調理ではしばしば両方が同時に起こる。
化学変化を式で見る(やさしい例)
- 燃焼(酸化):
- 鉄のさび(酸化鉄の生成):
- 中和:
- 水の電気分解:
式に書けるのは、「原子の組み替えで新物質ができている」サインと考えられます。
エネルギーと温度変化の見方
- 物理変化:温度変化は主に熱の出入り(融解熱・凝固熱・蒸発熱など)。
- 化学変化:反応の途中で化学エネルギーが熱や光に変わる。手で触れると温かくなったり、冷たくなることもある(※安全に注意)。
- 例:重曹+クエン酸は吸熱寄りで、容器が少し冷たく感じられることがある。
保存の考え方(質量保存)
化学変化でも原子の数は変わらないため、閉じた容器で行えば前後の質量は等しいのが基本です。気体が発生して外へ逃げると、質量が減ったように見えることがあります。観察のときは、開放系か密閉系かにも注意しましょう。
シーン別で考える見分け方
台所で
- 切る・混ぜる・溶かす → 物理変化
- 焼く・煮る・発酵させる → 化学変化(色・香り・味の生成が目立つ)
自然の中で
- 氷点下で水たまりが凍る → 物理変化
- 釘が雨ざらしで赤くさびる → 化学変化
身の回りの道具
- 消しゴムのカスが出る → 物理変化(摩耗)
- 銀のアクセサリーが黒くなる → 化学変化(硫化)
観察・実験のアイデア(安全に)

※ 火気や薬品を使うものは、必ず安全を最優先にし、換気・保護具・少量での実施を徹底してください。
- 氷—水—湯気の変化を観察(物理変化)
- 冷凍庫の氷→室温で水→加熱して湯気。温度計で温度も確かめると理解が深まります。
- 食塩水の結晶づくり(物理変化)
- 濃い食塩水を皿に入れ、ゆっくり蒸発させると塩の結晶が再びあらわれます。
- 重曹+酢で発泡(化学変化)
- 少量の重曹に酢を数滴。泡(二酸化炭素)発生と温度変化を観察します。
- 砂糖の加熱でカラメル化(化学変化)
- 耐熱容器で少量の砂糖を加熱し、色やにおいの変化を観察(やけどに注意)。
- 紙:破る vs 燃やす(物理と化学の対比)
- 破るのは物理変化。燃やすのは化学変化(屋外・耐火皿等で安全に)。
- 石灰水テスト(化学変化)
- ストローで息を石灰水に吹き込むと白くにごる(炭酸カルシウムの沈殿)。
判断の練習(クイズ)
次の各項目が主として「物理変化」か「化学変化」かを考えてみましょう。
- 霜柱ができる
- 鉄のフライパンの表面が赤茶けてくる
- ココアに砂糖を入れて混ぜる
- パンをオーブンで焼く
- ろうそくの溶ける部分
- ろうそくの燃える部分
- 洗濯物が乾く
- レモン汁に重曹を入れたら泡が出た
- 卵をゆでる
- 食塩水を電気分解して塩素と水素を取り出す(上級)
例の解答と理由
- 物理:水の状態変化。
- 化学:鉄が酸素と結びつく酸化。
- 物理:混合で新物質は生じない。
- 化学:焼成で新しい香りや色、食感が生じる(反応の複合)。
- 物理:ロウが溶けて液体になるだけ。
- 化学:炭化水素が酸化し二酸化炭素と水が生成。
- 物理:水分の蒸発。
- 化学:二酸化炭素が生成している。
- 化学:タンパク質の変性は新しい構造の形成で不可逆。
- 化学:物質が他の物質に分解(酸化還元)。
まちがえを減らすためのメモ
- 状態変化・形状変化・溶解・混合 → まずは物理変化を疑う。
- 新しい物質が生成、気体や沈殿が生じた → 化学変化の可能性が高い。
- 料理・燃焼・発酵・さびは、基本的に化学変化。
- 「元に戻せるか」は補助的な目安。中心は新物質の有無。
用語ミニ事典(要点だけ)
- 物質:一定の性質をもつもの。水、鉄、酸素など。
- 原子:物質をつくる最小単位の粒子。種類によって性質が異なる。
- 分子:原子が結びついてできた粒子。水分子など。
- イオン:電気を帯びた粒子。食塩が水に溶けるとナトリウムイオンと塩化物イオンになる。
- 溶解:物質が溶媒に広がって混ざる現象。新物質ができるとは限らない。
- 沈殿:溶液中にできる不溶性の固体。化学変化の強い手がかり。
- 酸化・還元:酸素の出入りや電子の移動を伴う反応の総称。
- 触媒:反応を進みやすくするが、自身は変化しにくい物質。
- 発熱・吸熱:反応で熱が出る/取り込む。
なぜこの区別が大切か
- 自然現象の理解:天気や地質、環境の変化を正しく理解できます。
- 生活と産業:料理・保存・洗浄・製造などで、最適な条件や安全対策が選べます。
- 科学的なものの見方:観察→仮説→検証という流れで、現象を整理できます。
- 事故防止:燃焼や酸化は危険につながることがあるため、性質の理解が安全につながります。
まとめ
- 物理変化:物質の種類は変わらず、形・状態・混ざり方などが変わる。
- 化学変化:原子の結びつきが組み替わり、新しい物質ができる。
- 観察のサイン(色・におい・温度・光・気体・沈殿・pH)に注目し、複数の根拠で判断しましょう。
身の回りの現象をこの視点で見ていくと、毎日が「発見」で満たされます。ゆっくり確かめ、納得しながら理解を深めていきましょう。