アフォーダンスの例
身の回りに潜む「使いやすさ」アフォーダンス
「アフォーダンス」という言葉、みなさんは耳にしたことがあるでしょうか?
普段の生活の中で私たちは「無意識に」モノを使いこなしていますが、それを可能にしている重要な概念がこの「アフォーダンス」です。
本記事では、アフォーダンスとはそもそも何かを簡単におさらいした上で、アフォーダンスの身の回りの具体例をできる限りたくさん紹介していきます。デザインや製品開発に関わる方だけでなく、日々の暮らしを快適にしたい方にも役立つ内容です。
アフォーダンスとは何か?
アフォーダンス(affordance)という言葉は、アメリカの心理学者ジェームズ・J・ギブソンが提唱した概念です。
簡単にいうと、
「環境やモノが、人にどんな行為を可能にしているか」
を指す言葉です。
たとえば、ドアノブを見ると「回して開けるもの」と自然に感じたり、椅子を見ると「座れる」と無意識に理解できたりするのは、その形状や質感が「使い方」を示しているからです。
つまり、モノそのものが「こう使ってください」と語りかけているようなもの。それがアフォーダンスです。
アフォーダンスをうまく活用したデザインは、説明書がなくても人が直感的に使えるため、プロダクトデザインや建築、UI/UXデザインなど幅広い分野で重視されています。
アフォーダンスの具体例【日常生活編】

では、身近なアフォーダンスの例をどんどん見ていきましょう!
ドアの取っ手・ノブ
- レバーハンドル
→ 横向きの棒状の形状は「押す」「引く」または「回す」という動作を誘発する。
- プッシュプレート
→ 押す部分が広く平らな金属板になっていて、引くことを考えさせない。
- 引き手のくぼみ
→ 指をかける形状で「引く」動作を示す。
スイッチ類
- 押しボタン式スイッチ
→ 凹んだ部分が「押す」動作を誘発する。
- スライド式スイッチ
→ 細長い溝やレール状の形が「横に動かす」ことを示す。
- タッチパネルのボタン
→ 立体感や影のあるデザインで「触るべき場所」を示唆する。
家具や生活用品
- 椅子
→ 座面と背もたれの存在が「座れる」ことを示す。
- 取っ手のあるマグカップ
→ 取っ手の形状が「握る」動作を促す。
- フライパンの柄
→ 長い棒状の形状が「掴んで振る」ことを示唆する。
- ハサミ
→ 丸い輪の部分が「指を入れる」動作を促す。
- ゴミ箱のペダル
→ 出っ張った部分を踏めば開くとわかる。
食器・調理道具
- スプーンとフォーク
→ 曲面は「すくう」、突起は「刺す」など用途を形状が表現。
- お玉(レードル)
→ 丸いくぼみが「汁をすくう」動作を示唆する。
- ピーラー
→ 持ち手と刃の位置関係で「皮をむく」動きを示す。
筆記用具
- シャーペンやボールペン
→ 細長い形状は「持つ」「書く」ことを誘う。
- キャップ付きペン
→ キャップの膨らみが「外せる」ことを示す。
- 消しゴム
→ 角や平らな面が「こする」動作を想起させる。
電化製品
- テレビのリモコン
→ 凸ボタンの存在が「押せる」ことを示す。
- 炊飯器の蓋のボタン
→ 飛び出した部分が「押せば開く」ことを示唆。
- 掃除機の持ち手
→ 太めのグリップが「握って動かす」動作を促す。
アフォーダンスの具体例【街中編】

街を歩いていても、アフォーダンスの例は無数にあります。
公共施設
- エレベーターのボタン
→ 凸型で光ることで「押すべき場所」を示す。
- 手すり
→ 丸く握りやすい形で「掴まる」動作を誘発。
- 公園のベンチ
→ 座面と背もたれが「座る」ことを示す。
- 車いすスロープ
→ 緩やかな傾斜が「車輪で進める」ことを示す。
- 歩行者用信号機のボタン
→ 赤や黄色で目立ち、「押す」行為を促す。
駅や道路
- 階段の黄色いライン
→ 端を視覚的に示し「踏み外さない」よう促す。
- 横断歩道の白線
→ 「歩行者が渡る場所」を視覚的に示す。
- 道路標識
→ 形や色で「止まれ」「進むな」など行動を制限。
- 改札機の矢印
→ どちらから入るかを誘導する。
- 券売機のタッチパネル
→ 画面上の立体的なボタンが「触れる」行為を誘う。
バス・電車
- 降車ボタン
→ 光ったり飛び出して「押す」行動を示す。
- つり革
→ 輪の形が「掴む」ことを促す。
- ドアの開閉ランプ
→ 点滅で「動く」「触るな」を知らせる。
アフォーダンスの具体例【デジタル編】

今や私たちの生活に欠かせないデジタル機器の中にも、アフォーダンスはあふれています。
スマホ・タブレット
- リンク文字の青色+下線
→ 「クリックできる」と認識されやすい。
- ボタンの影や浮き出たデザイン
→ 「押せる」ことを示す。
- スワイプで消える通知
→ 横方向の動きを誘うグラフィック。
- ピンチイン・アウト操作
→ 縮小・拡大を指の動きで示す。
ウェブサイト
- ハンバーガーメニュー
→ 三本線のアイコンが「押すとメニューが開く」と理解される。
- スクロールを促す矢印
→ 下向き矢印で「下へ進む」ことを示す。
- カードUI
→ 枠で囲まれた要素が「クリックできる」ことを示唆。
ソフトウェア
- ドラッグ可能なウィンドウの縁
→ カーソルが変わることで「掴める」ことを知らせる。
- 再生ボタンの▶マーク
→ 「再生する」行動を直感的に示す。
- 閉じるボタンの×マーク
→ 「閉じる」動作を示す。
アフォーダンスの具体例【子ども向け編】
子ども向け製品には特にアフォーダンスが重要です。説明がなくても使い方を理解できるようにするため、デザインには多くの工夫が凝らされています。
玩具
- 積み木
→ 平面や凹凸が「積む」「並べる」行動を促す。
- 輪投げの棒とリング
→ 棒の形が「引っかける」動作を示唆。
- 型はめパズル
→ 形状の一致が「入れる」行動を誘導。
子ども用家具
- 子ども用椅子の低い座面
→ 「座りやすい」高さを示す。
- 取っ手の大きな引き出し
→ 小さい手でも「引く」動作をしやすい。
子ども向け文房具
- 太めのクレヨン
→ 小さな手でも「握れる」形状。
- キャップに突起があるペン
→ 「引っ張って外す」動きを示す。
アフォーダンスを活かすとどうなる?
ここまで多くの例を見てきましたが、アフォーダンスの理解がいかに私たちの日常に役立つかは明白です。
- 説明不要の使いやすさ
→ 海外でも、言葉がわからなくても操作できる。
- 事故防止
→ ドアや階段など、誤操作を防ぐ。
- ストレス軽減
→ 自然に動作できると心地よい体験になる。
- 子どもや高齢者への配慮
→ 視覚・触覚で理解しやすくする。
現代のデザインでは、ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上が重要視されています。その根底にあるのがアフォーダンスという概念です。
まとめ|アフォーダンスは「モノの声を聞く」こと
アフォーダンスは「形や質感が人に語りかけるもの」です。
「これは押せそう」「ここを引けば開く」という無言のメッセージが私たちを正しい行動へ導いています。
私たちが快適に暮らせる背景には、こうした見えない「使いやすさ」の工夫があるのです。
身の回りのあらゆるモノを観察してみると、「なるほど、これはこう使えと言ってるんだな」と気づくはず。ぜひ一度、日常をそんな目で眺めてみてください。それこそがデザインを深く理解する第一歩です。
📝 アフォーダンス・トリビア集
- 元々は心理学用語だった
- アフォーダンスという言葉は、1970年代に心理学者ジェームズ・J・ギブソンが「環境が動物(人間を含む)に提供する行動の可能性」という意味で提唱しました。
- つまり、当初はデザイン用語ではなく、生態心理学の理論から生まれた言葉です。
- ドナルド・ノーマンがUI/UXに広めた
- デザイン分野で有名になったのは認知科学者ドナルド・ノーマンの著書『誰のためのデザイン?』(原題:The Design of Everyday Things)から。
- 彼は「実際に使えること(実アフォーダンス)」と「使えるように見えること(知覚アフォーダンス)」を区別して説明しました。
- 説明書いらずのデザインの秘密
- 優れたアフォーダンスを持つ製品は、説明書がなくても使い方がわかります。
- IKEAの家具やiPhoneのUIは、この考え方を強く取り入れています。
- 「押すな」と書かれているドアは設計ミス?
- ドアに「押す」「引く」といった表示が必要な場合、それはアフォーダンス設計が不足しているサイン。
- 形状や取っ手の位置だけで操作方法がわかるのが理想です。
- バリアフリーと相性が良い
- デジタルの世界でも物理的形状が参考にされる
- 再生ボタンの▶やゴミ箱アイコン🗑は、物理世界のオブジェクトのアフォーダンスをデジタルに移植した例です。
- こうした記号は「スキューモーフィズム」と呼ばれるデザイン手法の一部です。
- アフォーダンスの欠如は事故の原因になる
- 工業デザインや安全設計の現場では、誤操作や事故を防ぐためにアフォーダンスが重要視されます。
- 例:非常停止ボタンが小さく目立たない場合、緊急時に発見できず重大な事故につながることも。
- 「押すなよ!」は逆効果
- コメディでよくある「押すなよ!」と言ったら押してしまう…という場面も、アフォーダンス的に説明できます。
- 目の前に「押せそうな」大きな赤いボタンがあれば、脳が自然と「押す」行動を考えてしまうのです。
- アフォーダンスは文化によって変わる
- 右開き・左開きのドアや、右ハンドル・左ハンドル車など、文化圏によって「自然に見える」形状は異なります。
- そのため、グローバル製品では地域別に設計を変えることがあります。
- ゲームコントローラーはアフォーダンスの塊
- 十字キーやアナログスティック、トリガーボタンなど、形状と位置だけで「押す」「倒す」「引く」などの動きを自然に誘発します。
- 任天堂のコントローラー設計は、特に直感性を重視している例として有名です。
- 「触ってほしくないもの」は逆アフォーダンスで防ぐ
- 工業機械や危険区域では、つい触りたくなる形状を避け、あえて平坦にしたり覆ったりして行動を抑制します。
- これを「負のアフォーダンス」や「アンチ・アフォーダンス」と呼ぶことがあります。
- 自然界にもアフォーダンスがある
- 木の枝は「つかむ」「登る」を誘発し、川は「水を汲む」や「渡る」という行動を可能にします。
- ギブソンの原理では、人工物だけでなく自然環境もアフォーダンスを持つとされます。
- 未来のインターフェースは「空中アフォーダンス」?
- VRやARでは、実物がなくても空中に浮かぶスイッチやレバーを見せることで操作を誘導できます。
- 触覚フィードバックと組み合わせることで、物理的実体がなくてもアフォーダンスを成立させられます。
- 視覚障害者にも届くアフォーダンス
- 形状だけでなく、音や振動もアフォーダンスの一部になります。
- 例:エレベーターのボタンが押されると音が鳴り、盲導鈴が鳴る駅のホームなど。
- 「握る」形状は人類の本能的好み
- 人間の手の進化は「物を握る」動作と深く関係しており、棒状のものや取っ手は文化や時代を超えてアフォーダンスとして通用します。