イスラエル・核保有の理由

June 18, 2025 時事

イスラエル・核保有の理由

イスラエルはなぜ核を保有するのか？

イスラエルは公式には核兵器保有を認めていませんが、多くの専門家や報道機関は、同国が事実上の核保有国であるとみています。では、なぜイスラエルは核兵器を持つ必要があると考えたのでしょうか？その背景には、ユダヤ人の歴史的トラウマ、安全保障上の脅威、国際政治における地位、地域情勢の緊張など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。

イスラエルはなぜ核を保有するのでしょうか？

この記事では、イスラエルが核保有に至った経緯とイスラエルが核を保有する５つの主な理由について詳しく解説します。

1. 存在の保証と抑止力

イスラエルという国家の誕生は、ホロコーストの記憶と密接に関係しています。600万人ものユダヤ人が命を落とした歴史の中で、国家としての「生存権」を確保することが最優先課題となりました。
そのため、イスラエルでは「国家存亡の危機においては核兵器を使用する可能性がある」という、いわゆる「サムソン・オプション」が戦略的に語られるようになりました。
また、1967年の六日戦争直前には、エジプトなど周辺アラブ諸国との全面戦争が避けられないと判断された際に、核兵器を準備したとの報道もあり、核兵器が究極の抑止力として機能してきたことがうかがえます。
国家の存続を脅かすあらゆる脅威に対して、「最終手段としての核」を保持することで、イスラエルは自身の安全保障の柱を築いてきたのです。

2. 戦略的な曖昧政策（核の曖昧性）

イスラエルは核保有を「肯定も否定もしない」立場を維持しており、これを「核の曖昧性（opacity）」と呼びます。この戦略は、核抑止力を維持しながらも国際的な批判を回避するために考案されたものです。
NPT（核拡散防止条約）にも加盟せず、自らの核能力を公にしないことで、周辺国に不必要な軍拡を誘発することも抑えようとしています。
この曖昧な態度により、イスラエルは「核保有国」でありながらも、他の公然たる核保有国とは異なる外交スタンスを維持し、バランスの取れた地政学的な立ち位置を守っているのです。

3. 地域の脅威、特にイランへの対抗

現代のイスラエルが最も警戒しているのが、イランによる核開発です。イランは長年にわたって核開発を進めており、イスラエルはこれを国家の存続にかかわる重大な脅威と見なしています。
もしイランが核武装を達成すれば、サウジアラビアやトルコなど、他の中東諸国も追随し、地域全体が核軍拡競争に突入する恐れがあります。
これを防ぐため、イスラエルは1981年にイラクのオシラク原子炉を空爆し、2007年にはシリアの核施設とされる施設も攻撃しています。これらの行動は、敵対国に「核開発は許さない」という強いメッセージを送るとともに、自国の核保有による抑止力を強調する意図も含まれています。

4. 戦略的自主性の追求と米国との関係

イスラエルはフランスとの密接な関係を背景に、1950〜60年代に核開発を始めました。ディモナ原子炉の建設もフランスの技術支援によって行われたと言われています。
その後、アメリカとの関係が深まる中でも、イスラエルは核保有を「独自の戦略的決断」として続け、米国が押し付けるNPT加盟には応じませんでした。
ニクソン政権以降、アメリカはイスラエルの核政策に「沈黙による黙認」を与え、表向きには干渉せず、裏では戦略的に支援するという関係を築いてきました。
このように、イスラエルは大国の支援を受けながらも、自国の戦略的決定は他国に委ねない「自主防衛」の哲学を貫いています。

5. 米国との抑止力強化の二重構造

イスラエルの核兵器は、単なる国家防衛の手段ではなく、アメリカとの戦略的連携を強化する役割も担っています。
一部の国際関係専門家の間では、「イスラエルの核抑止力があるからこそ、アメリカはより積極的にイスラエルの安全保障に関与せざるを得なくなっている」という見方があります。
また、アメリカの中東政策においても、イスラエルの核保有が「地域の安定」に一定の役割を果たしているとされ、両国の軍事的信頼関係は核を含む広範な抑止構造によって支えられています。