NATOは本来、加盟国が外部から攻撃を受けた場合に共同で防衛することを目的とした軍事同盟です。しかし近年、同盟国同士が深刻に対立する事例が注目され、「もしNATO加盟国同士が戦争したらどうなるのか?」という、制度設計上きわめて想定外の問いが現実味を帯びています。
結論から言えば、NATO条約は加盟国同士の戦争を直接処理する仕組みを持っていません。そのため実際に起きた場合は、条文だけで裁ける問題ではなく、政治・外交・同盟運用すべてを巻き込む“同盟危機”に発展します。
NATO条約の基本精神は、加盟国が国際紛争を平和的に解決し、武力の行使や威嚇を慎むことにあります。つまり制度設計の段階で、加盟国同士が戦争する事態そのものが前提外です。
その結果、加盟国同士が武力衝突した場合に
といったものは用意されていません。
NATOで最も有名な規定が第5条(集団防衛)ですが、これは外部からの武力攻撃を想定した条文です。
もし加盟国Aが加盟国Bを攻撃した場合、Bは「武力攻撃を受けた」と主張できます。しかしAも同じNATO加盟国である以上、同盟が一体となってAに軍事行動を取ることは、同盟そのものを破壊しかねません。
また第5条は「各国が必要と考える措置を取る」としており、対応は軍事行動に限定されません。したがって、加盟国同士の戦争では第5条は政治的な圧力として重くのしかかるものの、自動的に戦争を裁くスイッチにはならないのが実情です。
NATOには「安全保障上の懸念がある場合に協議を要請できる」第4条があります。加盟国同士の緊張が高まれば、まずこの協議枠組みが集中的に使われます。
ここでは
などが優先されます。
NATO条約には明確な「除名」条項はありませんが、現実には
といった形で、同盟運用から外される圧力が非常に強く働きます。
NATO加盟国同士が全面戦争に至った例はありませんが、1970年代の東地中海では、加盟国同士が深刻な軍事的緊張に陥った事例がありました。
このときもNATOは軍事介入で解決するのではなく、政治的仲介と同盟内調整によって「破局を回避する」対応を取りました。ここから分かるのは、NATOは同盟内の戦争を“止めるための政治装置”として機能してきたという点です。
いずれの場合も共通するのは、第5条で一気に解決する構図にはならないという点です。
NATO加盟国同士が争えば、当事国同士が得をする可能性は低く、
という結果になりやすいのが現実です。
NATO加盟国同士が戦争する事態は、制度上ほぼ想定されていない「同盟の設計外リスク」です。
その場合、集団防衛条項が自動的に発動するのではなく、
といった手段で同盟崩壊を避ける方向に動く可能性が高いと言えます。
つまりNATOは、加盟国同士の戦争に対して「戦わせる同盟」ではなく、壊れないために必死で止めに入る同盟なのです。