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核兵器禁止条約を日本が批准しない理由

核兵器禁止条約を日本が批准しない理由

わかりやすく整理

「日本は唯一の戦争被爆国なのに、なぜ核兵器禁止条約(TPNW)を批准しないのか?」という疑問は、長く議論されてきました。ここでは、政府が示している説明を中心に、条約の仕組み・安全保障との関係・批判側の論点まで、できるだけ噛み砕いて整理します。


1. そもそも「核兵器禁止条約(TPNW)」とは?

核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons / TPNW)は、核兵器を「非合法化(禁止)」する初めての国際条約です。

TPNWで禁止される主な行為

TPNWは、核兵器の

  • 開発・実験・製造・保有・貯蔵
  • 使用・使用の威嚇
  • 移譲・受領
  • 支援・奨励・勧誘(いわゆる“協力”の禁止)
  • 領域内への配備・導入・展開の容認 などを広く禁止します。

※条約は核兵器国(米・露・中など)も含め「全世界で核兵器をなくす」ことを目的としますが、現実には核兵器国は参加していません。


2. 「署名」「批准」「オブザーバー参加」の違い

まず、ニュースで混同されやすい3つを整理します。

  • 署名:条約の趣旨に賛同する意思表示(ただし国内手続きが終わらないと法的拘束は弱い)
  • 批准:国内手続きを終え、国として正式に条約の当事国(締約国)になること
  • オブザーバー参加:条約の当事国ではないが、会議に参加して発言・意見表明を行う(国により参加形態はさまざま)

日本の場合、「署名も批准もしていない」だけでなく、近年は「締約国会議へのオブザーバー参加」も見送ってきました。


3. 日本政府が強調している“基本立場”

日本政府は、核軍縮の目標(核兵器のない世界)そのものは掲げつつ、方法論としては次を軸にしています。

  • NPT(核拡散防止条約)体制を“土台(基盤)”にする
  • 核兵器国と非核兵器国が同じ枠組みに入る場を重視する
  • 「理想」だけでなく「実効性・現実性(realistic / practical)」を強調する

この考え方の延長線上に、TPNWに対する日本の距離感があります。


4. 日本がTPNWを批准しない主な理由(政府説明の要点)

日本の「批准しない理由」は、単独の事情ではなく、複数の要素が絡み合っています。政府説明の核心は、次の4点に集約できます。

理由①:日本の安全保障は「米国の拡大核抑止(核の傘)」が前提になっている

日本は「非核三原則」により核を持たない方針ですが、同時に日米同盟の下で、**米国の核を含む抑止力(拡大抑止)**に安全保障を依存してきました。

政府は、核の使用をちらつかせる国家(核の恫喝)に対して、通常戦力だけでは抑止が難しい局面があるという立場を取っています。

理由②:TPNWは“核抑止という考え方”と整合しにくい(条約上の禁止と矛盾しうる)

TPNWは、核兵器の「使用」だけでなく「使用の威嚇」まで禁止します。さらに重要なのが、

  • 核兵器に関する行為を“支援・奨励・勧誘”することの禁止
  • 領域内に核の配備等を“容認”することの禁止 といった条文です。

日本が批准する場合、

  • そもそも“核の傘”の下にいる(核の威嚇を伴う抑止に依存している)
  • 同盟運用・共同作戦・政策協議などが「支援」に当たるのではないか といった点が問題になり得ます。

政府はこの点を「TPNWは核抑止と両立しない」という言い方で説明しています。

理由③:核兵器国が参加していないため「実効性が乏しい」という評価

日本政府は繰り返し、

  • 核兵器国が入らない条約では核兵器削減が進みにくい
  • 現時点で核兵器国が参加する見通しが立たない という点を、主要な理由として挙げています。

理由④:TPNWへの関与が、NPTの下での“橋渡し外交”を難しくする懸念

政府は、被爆国として日本には核軍縮での「影響力」がある一方、

  • TPNWに近づくほど、核兵器国との協議・合意形成で信頼を失いかねない
  • その結果、NPTの下で日本が進めてきた「現実的な核軍縮提案」が通りにくくなる という懸念を示します。

要するに、政府の論理は「TPNW一本足打法より、核兵器国を含むNPTの枠組みで成果を積む方が前進につながる」という考え方です。


5. 2025年の動き:日本は“オブザーバー参加”も見送った

2025年3月のTPNW第3回締約国会議について、日本政府はオブザーバー参加を見送る判断を示しました。

その説明では、

  • 核抑止は不可欠
  • TPNWは核抑止と両立しにくい
  • 参加すると日本の抑止政策について誤ったメッセージを与えうる
  • さらに、日本の核軍縮外交の説明が曖昧になり、主張の効果が弱まる といったロジックが強調されました。

6. それでも「被爆国が批准すべきだ」という批判が сильい理由(反対側の論点)

日本が批准しない理由が“安全保障”にあるとしても、批判や反対意見は根強いです。代表的な論点は次の通りです。

論点①:被爆の経験を持つ国としての道義的責任

「唯一の戦争被爆国が参加しないのは説得力を失う」「核廃絶の旗を下ろしたように見える」といった批判があります。

論点②:条約の目的は“即時の核削減”だけでなく、“核の非正当化(スティグマ化)”にもある

TPNWは核兵器国を直ちに法的に縛れないとしても、核を「許されないもの」にしていく規範(ノルム)づくりに意味がある、という考え方です。

論点③:同盟国でも“参加形態”に幅がある(オブザーバー参加の事例)

米国の同盟国の中には、署名や批准はしなくても、締約国会議にオブザーバー参加する国があります。 「日本もまずはオブザーバー参加で被爆者の声を届けるべきだ」という主張は、ここに根拠を置きます。


7. では日本はどうすればよいのか(現実的な選択肢)

TPNW批准は、日米同盟や抑止政策の再設計を含む大きな決断になります。一方で「何もしない」以外にも選択肢はあります。

  • TPNW会議へのオブザーバー参加を検討(被爆者証言や核リスク低減の提案を持ち込む)
  • 核兵器国を含む場での具体策を積み上げ(透明性、核リスク低減、核兵器不使用の規範化など)
  • 市民社会・被爆地との連携強化(被爆の実相の継承、教育、国際発信)

現実には、「核抑止が必要なほど安全保障環境が厳しい」という認識が強まるほど、批准は難しくなるというジレンマがあります。


8. まとめ:日本が批准しない理由は“核廃絶への反対”ではなく“安全保障設計”の問題

日本が核兵器禁止条約を批准しない理由を、政府の説明に沿って一言でまとめるなら、

核の傘(拡大核抑止)を前提とする日本の安全保障と、核を全面禁止するTPNWの枠組みは整合しにくい

という点です。

ただし、批判側も「被爆国としての責任」「条約が持つ規範的効果」「オブザーバー参加という中間案」などを根拠に、別の道筋を提示しています。

 

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