トマホーク(BGM/RGM/UGM‑109)は、米海軍をはじめ複数の国が運用する長射程の巡航ミサイルです。ニュースやSNSでは「1発○億円」といった断片的な数字が独り歩きしがちですが、トマホークの“価格”は用途・仕様(ブロック)、契約方式、含まれる付帯品・サービスの範囲により大きく変動します。本稿では、公開情報から読み取れる実勢レンジと、価格が上下する構造的な理由を整理し、日本の調達事例も踏まえてわかりやすく解説します。
同じ「価格」でも、次のどこまでを含むかで数字は大きく変わります。
結果として、**「本体の単価(AUR)」<「FMSパッケージの平均単価」**となるのが普通です。
トマホークは継続改良で複数ブロックが存在します。代表的な近年の参考レンジは以下のとおりです(USD、税別・インフレ影響あり)。
ブロック / 仕様 | 参考単価レンジ(AUR中心の目安) | 補足 |
---|---|---|
Block IV(”Tactical Tomahawk”) | 約180万〜220万ドル(約2.7億〜3.3億円) | 長年の主力。回収・再認証(recert)を経ながら延命・改修。 |
Block V(最新型、Va/Vb派生含む) | 約190万〜260万ドル(約2.9億〜3.9億円) | センサー・電子機器刷新。将来の対艦能力強化(Va/Vb)系統も。 |
Maritime Strike Tomahawk(MST/対艦) | 約200万ドル台〜(約3億円〜) | 対艦用能力付与。数量・構成で変動幅が大きい。 |
円換算の例:為替を1ドル=150円と仮定すると、200万ドル($2.0M)は約3億円です。※M(million)は「100万」を意味します($2.0M=200万ドル)。
公開される調達ニュースでは、ミサイル本数+付帯品+サービスの総額が示されることが多く、単純割り算するとAURより高い数字になります。近年の典型パターンは次の通りです:
以下は公表額からパッケージの規模感を把握するための参考例です(総額には本体以外が含まれるのが通例)。
これらは**「AURだけの値段」ではない**ため、SNSで見かける“トマホークは1発×億円”という単純化は誤解の元です。
日本は海自のイージス艦(こんごう型、あたご型、まや型、将来艦)での運用を見込み、初度導入に伴う教育・運用基盤の整備、ミッション計画システムの整備、弾薬保管・輸送態勢などを含む広範なパッケージを組みます。このため、報じられる総額を**単純に本数で割った数字=“1発の本体価格”**と見るのは適切ではありません。
トマホークは長寿命のサブソニック巡航ミサイルで、在庫保有期間中に再認証(recert)やアップグレードを受けます。運用国は初度取得コスト(本体+付帯)に加え、保管・点検・再認証・改修・廃棄までを見越した総保有コスト(TCO)で予算を組む必要があります。ここでも数量・時期・改修範囲によって費用は上下します。
Q1:結局、トマホークは1発いくら?
A: 近年の公開情報から見るAUR相当の目安は概ね“200万ドル前後(±数十万ドル)”です。一方で、FMSの包括パッケージで見かけの平均単価を出すと、“300万〜600万ドル/発”相当に達する事例もあります(付帯品・サービス込みのため)。
Q2:対艦型(Maritime Strike)は高い?
A: センサー・ソフト面の追加でやや高めになりがちですが、ロット規模や同時改修範囲で変動します。
Q3:SNSで「1発10億円以上」と聞いた。正しい?
A: 為替にもよりますが、本体(AUR)価格の感覚としては高すぎです。包括パッケージの総額を本数で割って“平均”を出した数字や、教育・設備・予備品まで含んだ初度導入費を混同している可能性が高いでしょう。
Q4:年々高くなっている?
A: インフレ・部材コスト・電子部品の供給、要求性能の向上などの要因でトレンドとしては上方圧力があります。ただし、大きなロット契約ではスケールメリットで抑制されることもあります。
報道の“総額÷本数”は初度導入国ほど割高に見える傾向があります。数字だけが独り歩きしやすいテーマだからこそ、仕様(ブロック)、含有範囲、契約形態、年度、為替の5点を並べて眺める習慣を持つと、価格の妥当性がグッと見えてきます。