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レアアース・ 放射性物質

レアアース・ 放射性物質

レアアースと放射性物質の関係をわかりやすく解説 — スマホやEVは本当に危険?

近年、スマートフォンや電気自動車(EV)、風力発電など、さまざまなハイテク製品に欠かせない素材として「レアアース(希土類)」という言葉を耳にする機会が増えました。同時に、

「レアアースって放射性物質なんでしょ?」 「EVモーターや風力発電機は放射線を出しているのでは?」

といった不安の声も聞かれます。

本記事では、「レアアース」と「放射性物質」の関係を、できるだけ専門用語をかみ砕きながら解説していきます。結論から言うと、

  • レアアースそのものは、ほとんどが放射性物質ではない
  • ただし、レアアースを含む鉱石には、トリウムやウランなどの放射性元素が一緒に含まれていることがある
  • 問題になるのは主に採掘・精錬の現場であり、スマホや家電を使う生活者が受ける放射線リスクは極めて小さい

というのが基本的な整理です。


レアアースとは? — まずは基本から

17種類の金属元素の総称

「レアアース(希土類)」とは、厳密には以下のような17種類の金属元素の総称です。

  • ランタノイド15元素(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム…など)
  • それに性質の近いスカンジウムイットリウムを加えたもの

名前に「レア(稀)」とついていますが、実は地殻中の存在量はそれほど少ないわけではありません。ただし、

  • 単独で濃縮された鉱床が少ない
  • 分離・精錬が難しい

という意味で「扱いにくいレアな資源」というニュアンスがあります。

レアアースはどこに使われている?

レアアースは、現代のテクノロジーを支える“縁の下の力持ち”的な存在です。代表的な用途としては、

  • スマホやパソコンの小型・高性能マグネット(ネオジム磁石など)
  • ハイブリッド車・EVのモーター
  • 風力発電の発電機用マグネット
  • 液晶テレビやLED照明の発光材料(蛍光体)
  • カメラレンズやメガネの特殊ガラス
  • 触媒コンバーターなどの自動車排ガス浄化触媒

など、枚挙にいとまがありません。レアアースなしでは、いまの便利な生活の多くが成り立たないと言っても過言ではありません。


レアアースと放射性物質が結びついて語られる理由

それでは、なぜ「レアアース=放射性物質」「危険」というイメージが一部で広がっているのでしょうか。その背景には、レアアース鉱石の産状と、そこから生じる環境問題があります。

レアアース鉱石にはトリウムやウランが混じることが多い

レアアースは、主に以下のような鉱石として産出します。

  • モナズ石(モナザイト)
  • バストネサイト
  • ゼノタイム など

これらの鉱石には、しばしばトリウム(Th)やウラン(U)といった放射性元素が不純物として共存しています。そのため、

  • レアアース鉱石そのものが“弱い放射線”を出している
  • 採鉱・選鉱・精錬の過程で放射性廃棄物(スラッジやスラグ)が大量に発生する

といった問題が起こり得ます。

ここで注意すべきポイントは、

放射能を持つのは「トリウム・ウランなどの元素」であって、「レアアース元素そのものではない」

という点です。レアアース鉱床に放射性元素が“おまけのように”くっついてきてしまうイメージを持つと理解しやすくなります。

採掘・精錬現場での環境汚染や健康被害が問題に

一部のレアアース産地では、過去に以下のような問題が指摘されてきました。

  • 精錬の副産物として出る放射性廃液・廃泥の不適切な管理
  • 粉じんや廃棄物からの放射線被ばく・重金属汚染
  • 周辺住民の健康影響への懸念

こうした事例がメディアなどで取り上げられたため、

「レアアース=放射性物質で危険」

という短絡的なイメージが広がってしまった面があります。

実際には、きちんとした規制と管理のもとで採掘・精錬が行われればリスクは大きく下げられます。一方で、環境規制や労働安全の仕組みが不十分な地域では、問題が顕在化しやすいのも事実です。


レアアース元素そのものは放射性なのか?

では、レアアースに分類される17元素そのものは放射性物質なのでしょうか?

ほとんどのレアアースは「安定同位体」を持つ

多くのレアアース元素は、**安定な同位体(放射能を持たない原子種)**を持っており、日常的な利用において放射能を心配する必要はほとんどありません。

例えば、ネオジム磁石に使われる**ネオジム(Nd)や、蛍光体に使われるユウロピウム(Eu)**などは、安定な同位体が中心に利用されています。

例外的に「プロメチウム(Pm)」はほぼすべてが放射性

17元素の中で例外的な存在が**プロメチウム(Pm)**です。プロメチウムは安定同位体を持たず、ほぼすべての同位体が放射性です。

ただし、

  • 自然界に存在する量はごくわずか
  • 利用用途も非常に限られており、一般消費財への利用はほとんどない

という事情から、日常生活の中でプロメチウム由来の放射線を気にする必要はまずありません。

「鉱石」と「最終製品」を分けて考えることが重要

ここまでの話を整理すると、

  • レアアース鉱石にはトリウムやウランが含まれていることがあり、その部分が放射性
  • レアアース元素自体は多くが安定で、最終製品として使われる段階では放射線リスクは非常に小さい

という構図になります。

したがって、

スマホの中のレアアースが強い放射線を出している

といったイメージは、科学的には適切ではありません。問題になりうるのはむしろ、採掘・精錬段階での環境管理・労働安全のあり方です。


日常生活でレアアース由来の放射線を気にする必要はある?

ここからは、生活者の視点で「実際どの程度のリスクなのか」を見ていきます。

スマホや家電製品からの放射線は?

スマートフォンやパソコン、家電製品、ハイブリッド車・EVなどにはレアアースが多用されていますが、

  • レアアースは金属やセラミックスの形で組み込まれている
  • 量としてもわずかで、しかも他の材料に“閉じ込められて”いる

といった理由から、

製品からの放射線は、自然界に存在するバックグラウンド放射線と比べても無視できるレベル

と考えられています。

レントゲン検査や飛行機搭乗による被ばくと比べても、桁違いに小さいレベルです。

自然界にはもともと放射線がある

そもそも、

  • 宇宙線(宇宙から降り注ぐ放射線)
  • 大地や建材に含まれる天然の放射性物質
  • 体内に取り込まれているカリウム40など

によって、人間は常に一定量の自然放射線を浴びて暮らしています。

レアアースを含む製品からの放射線は、この自然放射線レベルと比べても極めて小さく、多くの場合、測定しても特別な増加は確認されません。


一方で無視できない「環境・人権」の問題

生活者レベルでの放射線リスクは小さいとはいえ、レアアースをめぐる課題がまったくないわけではありません。むしろ、

  • 採掘・精錬の現場における環境汚染
  • 労働者や周辺住民の健康影響
  • 廃棄物の長期管理のあり方

といった点は、国際的にも大きなテーマになっています。

レアアース開発と「環境コスト」

レアアース埋蔵量ランキング

レアアースの採掘・精錬の現場では、

  • 大量の薬品(酸など)を使った鉱石の処理
  • 放射性物質を含むスラッジ・廃液の発生
  • 大規模な廃棄物貯蔵施設(テーリングダム)

などが必要となります。これらを適切に管理しないと、

  • 地下水や河川の汚染
  • 土壌の汚染
  • 住民の被ばくリスクの増加

といった形で、長期にわたる環境問題につながってしまいます。

「クリーンエネルギー」と「見えない負担」

風力や太陽光、EVなどは「クリーンエネルギー」「脱炭素の切り札」として期待されていますが、その裏側で、

  • レアアースなどの重要鉱物を採掘する地域に環境・人権上の負担が集中している

という指摘もあります。

この意味で、レアアースと放射性物質の問題は、単なる「放射線の有無」という話を超え、

  • 誰がそのリスクを負っているのか
  • その負担をどう是正・軽減していくのか

という倫理的・政治的な論点も含むテーマと言えます。


各国の規制と企業の対応 — リスクはどう管理されている?

レアアースに限らず、放射性物質を伴う鉱物資源の開発には、各国でさまざまな規制や国際ガイドラインが設けられています。

放射線防護の基本的な考え方

放射線管理では、

  1. 正当化(Justification):その活動に放射線を伴うだけの社会的なメリットがあるか
  2. 最適化(Optimization):被ばく線量をできる限り低く抑える工夫がされているか(ALARAの原則)
  3. 線量限度(Dose limits):労働者や一般公衆の被ばくが定められた上限を超えないか

といった原則に基づいて、

  • 環境中の放射線レベルのモニタリング
  • 作業員の被ばく管理
  • 廃棄物の長期的な安全確保

が求められます。

レアアース開発の現場でも、本来はこれらの原則に沿った管理が行われるべきです。

企業の責任とサプライチェーンの透明化

近年は、

  • ESG投資(環境・社会・ガバナンス)
  • サプライチェーン・デューデリジェンス

といった観点から、

「自社製品に使われる鉱物資源が、環境破壊や人権侵害と結びついていないか」

を確認しようとする動きが広がっています。

レアアースは“戦略物資”として政治的な色彩も強い分野ですが、同時に、

  • 環境負荷を減らす採掘・精錬技術
  • リサイクル技術の向上

などによって、放射性物質を含む廃棄物の発生と影響を減らしていく取り組みも進められています。


日本とレアアース・放射性物質の問題

日本はレアアース資源をほとんど輸入に頼ってきましたが、その中で、

  • 環境に配慮した調達
  • リサイクルによる資源循環

を重視する流れが強まっています。

レアアースリサイクルの取り組み

日本では、

  • 使い終わった家電製品やハイブリッド車・EVのモーター
  • 使用済み磁石やハードディスク

からレアアースを回収しようとするリサイクル技術の開発が進められています。これにより、

  • 新たな鉱山開発を減らす
  • 採掘に伴う環境負荷や放射性廃棄物を減らす

ことが期待されています。

「放射能=即危険」ではなく、冷静なリスク評価を

東日本大震災以降、日本社会では「放射能」という言葉に対して非常に敏感になりました。そのこと自体は理解できますが、

  • レアアースに含まれる放射性物質の問題
  • 原子力発電所事故における放射性物質の問題

は、性質も規模感も異なります。

重要なのは、

「放射能」という言葉だけで一括りに恐れるのではなく、 どの程度の線量が、どの範囲に、どれくらいの期間影響するのか

を冷静に見ていく姿勢です。


まとめ — レアアースと放射性物質をどう理解すればいい?

最後に、本記事のポイントを整理します。

  • レアアース(希土類)は、ハイテク製品に欠かせない17種類の金属元素の総称
  • レアアース鉱石には、トリウムやウランなどの放射性元素が一緒に含まれていることが多い
  • そのため、採掘・精錬の現場では放射性廃棄物の管理や環境汚染のリスクが問題になる
  • 一方、レアアース元素そのものは多くが安定であり、スマホや家電、EVなどの最終製品を使う生活者が受ける放射線リスクはごく小さい
  • 真に重要なのは、
    • 採掘・精錬地での環境・健康影響
    • 廃棄物の長期管理
    • サプライチェーン全体の透明性 といった**「見えないところで誰が負担を負っているか」**という視点
  • 日本では、レアアースのリサイクルなどを通じて、環境負荷や放射性廃棄物を減らす取り組みも進められている

「レアアースは放射性物質だから危険」という単純なイメージではなく、

  • 科学的な知識
  • 環境・人権への配慮
  • 技術革新(リサイクル・クリーンな採掘)

といった多面的な視点から、レアアースと放射性物質の関係を捉え直すことが大切です。

スマホやEVを手にするとき、「その中で活躍しているレアアースが、どこから来て、どんなコストの上に成り立っているのか」をふと考えてみることが、より持続可能な社会への第一歩になるかもしれません。

 

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