「日本は中国国債をどれくらい持っているのか?」
米国債については、日本や中国の保有額ランキングが毎月ニュースになるのに対し、中国国債については、はっきりした数字やランキングがほとんど出てきません。そのため、SNSでは
など、真偽のあいまいな情報も飛び交っています。
結論からいうと、2025年現在、日本政府や公的機関が中国国債をどれだけ保有しているかを示す公式な統計は公表されていません。
しかし、過去の政策発表や国際機関・研究者の分析をたどることで、
といった「大まかな実態」は見えてきます。
この記事では、
という流れで、日本の中国国債保有額について丁寧に整理していきます。
ここでいう「日本の中国国債保有額」とは、
日本の政府や公的機関・民間金融機関が保有している、中国政府が人民元建てで発行する国債(CGB: Chinese Government Bonds)の残高
を指します。
一方で、よく混同されるのが、
といった話題です。
これらは資金の流れの向きがまったく異なります。
本記事で扱うのはあくまで 「日本が中国国債をどれだけ持っているか」 というテーマです。

日本と中国国債の関係で、もっともはっきり数字が出ているのが、2011〜2012年ごろに発表された、公的な中国国債購入の方針です。
2012年3月、当時の財務大臣が、
日本政府が外貨準備の一部として、中国政府が発行する人民元建て国債を最大65億元(約100億ドル)購入する
と発表しました。これはロイターや海外メディアでも「日本が中国国債を最大100億ドル購入へ」と大きく報じられ、
と位置づけられました。
当時の報道では、
が繰り返し指摘されています。
同じ時期に、中国・日本・韓国は、外貨準備を用いて互いの国債に投資することで、
を図ることで合意していました。日本による中国国債購入は、こうした 東アジア域内の金融協力の一環 として実施された側面もあります。
日本は「最大65億元(約100億ドル)」という上限枠を設定しただけで、
といった詳細は公表されていません。
ただし、上限自体が外貨準備全体の1%未満であることから、
仮に枠いっぱいまで買っていたとしても、日本の外貨準備に占める中国国債の比率はごく小さい
という点は押さえておくことができます。
財務省の統計によると、日本の外貨準備高は2025年9月末時点で 約1.34兆ドル と公表されています。これは世界でもトップクラスの規模で、
で構成されていると考えられています。
しかし、日本の外貨準備については、
の細かい内訳は公表されていません。
したがって、
「外貨準備のうち人民元建て資産が何%か」
は、外からは推測しかできないのが実情です。
IMFのCOFER統計などによれば、世界全体の外貨準備に占める人民元のシェアは、
という水準にあります。
つまり、人民元は
という位置づけです。
日本についても、
人民元建て資産(中国国債を含む)は持っている可能性が高いが、その比率は外貨準備全体から見ればごく一部
と考えるのが自然だと言えます。
日本の公的マネーの中でも、特に規模が大きいのが GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) です。運用資産は約200兆円規模に達し、世界最大級の年金ファンドとして知られています。
GPIFの英語版年次報告書では、
そのため、少なくともGPIFに関しては、
2020年代前半の時点でも、中国国債の保有はゼロ、もしくは政策ベンチマーク上はカウントしない運用方針
を取っていることがわかります。
SNSなどでは、
といった極端な言説も見られますが、少なくともGPIFについては、
慎重なスタンスが公式文書で確認できる
という点は重要です。
日本政府の外貨準備として保有している中国国債(前述の最大100億ドル枠など)と、GPIFのような年金マネーとは、
が異なるため、両者を混同しないよう注意が必要です。
日本全体としての「中国国債保有額」を正確に把握できないもう一つの理由は、
民間金融機関や機関投資家がどれくらい中国国債を保有しているかが、統計上まとめて公表されていない
ことです。
などは、
などを見ながら、中国国債や中国の政策金融債をポートフォリオに組み入れている可能性があります。
しかし、これらは通常、
といった大きなカテゴリーで公表されることが多く、
「そのうち中国国債が何割か」「人民元建てがどれくらいか」
までを外部から把握するのは容易ではありません。
さらに、国際的な債券投資では、
などの国際金融センターにある保管機関名義で債券を保有することが一般的です。
そのため、仮に
というケースがあっても、統計上は
「香港の投資家が保有している中国国債」
と見えてしまい、日本の投資家の持ち分を正確に集計することは難しくなります。
SNSや動画サイトでは、
といったショッキングなタイトルのコンテンツが散見されます。
しかし、こうした主張の多くは、
といった問題を抱えています。
特に「日本政府が中国国債を7兆円売却した」といった情報は、
などと混ざって伝わっているケースも見受けられます。
現時点で、
日本政府や日本銀行が「中国国債を●兆円売却した」と公式に発表した事実は見当たりません。
数字だけが独り歩きしている可能性が高く、慎重に見る必要があります。
日本の中国国債保有額に関する情報をチェックする際には、
といった点を意識することが重要です。
最後に、本記事のポイントを整理します。
以上を踏まえると、現時点で言えるのは、
日本の中国国債保有額は、外貨準備・公的マネー全体から見ればごく一部にとどまっているとみられるものの、正確な金額や比率を示す公式統計は存在しない
ということです。
今後、人民元の国際化が進み、各国の外貨準備に占める人民元資産の比率が高まれば、日本の中国国債保有もじわじわ増えていく可能性があります。しかし、その場合であっても、
を踏まえた慎重な議論が求められる点は変わりません。
「日本の中国国債保有額」というテーマは、単なる数字探しではなく、
といったより大きな文脈の中で捉えることが大切だと言えるでしょう。