日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を巡り、米政府がある特別な株式の付与を検討しているという報道が注目を集めています。それが**「黄金株(ゴールデンシェア)」**と呼ばれるものです。
この記事では、「黄金株」とは何か、どのような目的で使われるのか、そして今回のUSスチール買収騒動でどのような意味を持つのかを解説します。
**黄金株(英語:golden share)とは、特定の株主(多くは政府)が、企業の重要な経営判断に対して特別な拒否権(veto権)**を持つことを可能にする株式です。
通常の株式とは異なり、
といった特徴があります。
この黄金株は、株主としての議決権以上の政治的な力や交渉力を付与する性質を持っているため、特に戦略的産業分野で重視されます。
黄金株は、特に以下のような場面で登場します。
国家が通信・電力・鉄道などのインフラ企業を民間に売却する際に、国益を守る手段として黄金株を導入するケースがあります。たとえば、英国政府がBT(ブリティッシュ・テレコム)に対して黄金株を保持していたことが有名です。
安全保障や雇用、技術流出が懸念される場合、外国企業の影響力を制限するために黄金株が使われます。これは国家の主権や安定性を守る目的があり、近年では防衛産業や半導体産業などで注目されています。
2024年、日本製鉄がUSスチールを買収する計画を発表しました。しかし、米国内では「米国の象徴的企業を外国資本に完全に売るのか?」という政治的・経済的反発が起きています。
そこで米政府が検討しているのが、「黄金株の付与」です。
また、米政府はトランプ氏が発言したように「米国がUSスチールをコントロールする」との方針を示しており、黄金株はその考えを制度として具現化する手段といえます。
一方で、日本製鉄側としては経営の自由度を確保したい意向があるため、双方の利害の綱引きの中でこの黄金株の扱いが大きな焦点になっています。
黄金株は国家の利益を守るための道具である一方で、企業にとっては以下のような懸念もあります。
今回のケースでも、日本製鉄は「完全子会社化」を希望していますが、黄金株が導入されると、経営上の重大決定において米政府の“拒否権”が発動されるリスクが出てきます。
さらに、企業評価にも影響が出ることがあります。投資家からは「国家が経営に干渉できる企業」と見られることで、株価や資金調達力にマイナスの影響を及ぼす懸念もあるのです。
「黄金株」という呼称は、**通常の株式よりも強力で価値が高い(=黄金のような特権的価値)**ことに由来しています。英語でも “golden share” と呼ばれ、ヨーロッパ各国でも似た制度が使われています。
たとえば、フランス政府がエールフランスに対して黄金株を持っていた事例、ポルトガル政府が電話会社PTに対して行使した事例などがあり、欧州連合(EU)との規制の衝突問題としても度々議論になります。
現在、地政学的リスクが高まる中で、各国政府は「戦略的企業」に対する規制を強めつつあります。そのなかで黄金株は、**グローバルM&A時代の“国家の防衛線”**として、ますます注目を集める存在になっています。
米中対立、半導体争奪戦、資源ナショナリズム――。こうした現代の国際情勢のなかで、黄金株は国家の主導権を維持するための象徴的存在といえるでしょう。
今回のUSスチール買収を巡る騒動で、黄金株は国家主権と企業の国際展開のバランスをどう取るかという難題を象徴しています。
政府としては雇用や安全保障を守りたい。一方で企業としては自由な経営を行いたい。その緊張関係の中で、黄金株は国家が経済にどう関与すべきかという問いを突きつけています。
今後、他国間の大型M&A(企業買収)でも、同様に黄金株の議論が出てくる可能性があり、グローバル経済における「見えない政治的制約」として注目が高まっていくでしょう。