戦争映画やニュースでよく耳にする「バンカーバスター」。これは地下の軍事施設や核関連施設を破壊するために使用される特殊爆弾で、**“地中貫通爆弾”**とも呼ばれます。
その威力はすさまじく、通常の爆弾では届かない深さまで貫通し、地下に隠された戦略目標を破壊できるとされています。
近年では、中東や東アジアの緊張に伴ってその注目度が再び高まっており、「最終兵器」としての役割が再評価されている状況です。また、兵器としての物理的効果だけでなく、政治的な交渉カードとしても扱われるようになってきています。
では、そんな“最後の切り札”とも言われるバンカーバスター。**実際にはどれほどのコストがかかる兵器なのでしょうか?**この記事では、バンカーバスターの種類ごとの価格から、なぜ高額なのか、そしてその戦略的な意味まで深掘りしていきます。
以下は、アメリカが運用している代表的なバンカーバスターとその価格相場です。
名称 | 通称 | 重量 | 価格(1発あたり) | 特徴 |
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GBU-28 | アーサン(Earth Penetrator) | 約2.2トン | 約14万ドル(約2,200万円) | 湾岸戦争時に初使用。高い貫通力と命中精度 |
GBU-37 | GPS誘導型 | 約2.2トン | 約20万ドル(約3,200万円) | 精密誘導機能を持つ改良型 |
GBU-57A/B MOP | MOP(Massive Ordnance Penetrator) | 約13.6トン | 約300万ドル(約4億7,000万円) | 最大60メートルの鉄筋コンクリートを貫通可能な超重量爆弾 |
※価格は米国政府の調達資料や国防予算からの推定値。量産効果や装備・整備込みの契約で変動します。
この表から分かるように、重量と精度が増すほど価格も跳ね上がる傾向にあります。特にMOPは「世界で最も重い精密誘導爆弾」とされ、製造・維持コストも群を抜いています。
その一方で、コストの高さは投入のハードルにもなっており、兵器としての使用頻度は限られたものになります。しかし、それでもあえて配備を維持しているのは、戦略的効果が価格を上回ると各国が判断しているからにほかなりません。
バンカーバスターが高価な理由は次のとおりです。
例えば、MOPを搭載できるのはB-2ステルス爆撃機のみであり、これは保有数が限られた極秘性の高い航空機です。特定の兵器のために専用の航空機や出撃態勢が必要となる点も、全体コストを押し上げる原因です。
また、誘導精度を高めるための技術開発、シミュレーション、地中衝突時の爆発実験なども高額な予算を必要とします。1発の開発・運用に国家予算規模のコストがかかることも珍しくありません。
さらに、整備や保管にも特別な設備が必要で、運用期間を通じた“ライフサイクルコスト”も非常に大きくなります。つまりバンカーバスターとは、単なる爆弾ではなく、**国家全体のインフラと技術力を背景に維持・活用される「超大型兵器プロジェクト」**なのです。
実戦投入の例は非常に少なく、抑止力としての意味合いが強い兵器です。ただし以下のようなシナリオで“出番”が予想されます。
これらのターゲットは通常兵器では到達できない構造をしているため、唯一対応可能な手段としてバンカーバスターが必要とされるのです。
**「使われないことが最大の成功」**とされる兵器でもあり、存在そのものが相手への圧力となるのが特徴です。核抑止力と同じく、「存在そのものが交渉のカードになる」兵器といえるでしょう。
バンカーバスターは「1発あたり数千万円〜数億円」と非常に高価ですが、それでも戦略的価値は桁違いです。
つまり、費用対効果で考えたとき、“高いけど使う価値がある”兵器といえるでしょう。
また、バンカーバスターは他の兵器とは違い「防御ではなく、積極的な先制攻撃を可能にする兵器」としての側面もあり、国家戦略において非常に強力な意味を持ちます。
湾岸戦争中(1991年)、米軍が急遽作った初のバンカーバスター「GBU-28」は、戦車砲の砲身を再利用して爆弾の筒にした“急造兵器”。工場ではなく兵器開発者の手作業で完成したという説もあります。
最新型のGBU-57 MOP(マッシブ・オーデナンス・ペネトレーター)は1発約300万ドル(約4億7,000万円)。これは高級車100台以上分の価格に相当します。
MOPのような超重量級のバンカーバスターは、B-2ステルス爆撃機しか搭載・運用できません。そのため、出撃には莫大な事前準備と秘密主義が求められます。
MOPは最大鉄筋コンクリート60メートル、岩盤30メートルを貫通する能力を持ちます。これは10階建てビルを真下からぶち抜くほどの破壊力。
バンカーバスターは**目標に衝突した瞬間ではなく、“中に入りきってから爆発”**するよう設計されています。貫通後の爆発で最大限のダメージを与えるためです。
ハリウッド映画『トランスフォーマー:リベンジ』では、実際にバンカーバスターが登場し、巨大敵ロボットに向けて投下されました。「現実の兵器」がフィクションの中でも強力な象徴として使われています。
敵国は「バンカーバスターを受けても耐えられるように」と地下施設をより深く、より分散して建設する傾向があります。つまり、兵器の存在自体が建築戦略に影響を与えています。
最新の誘導型バンカーバスターは、地中の抵抗や硬度の変化をセンサーで感知し、“いつ爆発するのが最も効果的か”を自動判断する高度な制御システムを搭載。
バンカーバスターのような「貫通爆弾」は、一部の中立国や平和憲法を持つ国では配備・研究が禁止されています。たとえば日本の自衛隊は、法的にも装備が難しい状況にあります。
一部の軍事専門家は、MOPのようなバンカーバスターを“非核の戦略兵器”と位置づけています。つまり「核を使わずに、核シェルターすら破壊できる兵器」という抑止力なのです。
バンカーバスターの値段は種類によって大きく異なり、数千万円のものから4〜5億円を超えるものまで存在します。ただしその価格以上に、政治的・戦略的影響力が極めて大きい兵器です。
その姿は表にはあまり出てこないかもしれませんが、国際政治の裏舞台では、常にその存在が意識されている。それがバンカーバスターという“地下に効く外交カード”なのです。
2020年代後半の中東や北東アジア情勢において、バンカーバスターの存在はますます重要視されることが予想されます。“いつか使われるかもしれないが、使わずに済むのが理想”という矛盾を抱えた兵器――その価格の背後には、世界の安全保障構造の緊張が透けて見えるのです。