地震などの災害が発生すると、自宅の倒壊や余震への不安、避難所の混雑などを理由に、車の中で夜を過ごす人が増えます。
車中泊に伴う健康問題としてよく知られているのが「エコノミークラス症候群」です。一方、被災者の健康問題を伝える報道では、肺炎について注意を呼びかけることもあります。
そのため、
と疑問に思う人も多いでしょう。
結論からいうと、車の中で寝たこと自体が、直接肺炎を起こすわけではありません。
しかし、車中泊が続くと、寒さや乾燥、水分不足、睡眠不足、口腔ケアの不足、体力低下などが重なります。その結果、呼吸器感染症や誤嚥性肺炎を発症しやすい状態になる可能性があります。
特に高齢者、乳幼児、持病のある人、普段から飲み込みに問題がある人は注意が必要です。
まず確認しておきたいのは、車中泊による代表的な健康リスクは、肺炎ではなく肺血栓塞栓症だということです。
肺血栓塞栓症は、一般に「エコノミークラス症候群」と呼ばれています。
車の狭い座席で長時間同じ姿勢を続けると、脚の静脈の血流が悪くなり、血の塊である血栓ができることがあります。
その血栓が血流に乗って肺まで移動し、肺の血管を塞ぐのが肺血栓塞栓症です。厚生労働省は、車などの狭い座席で長時間脚を動かさず、水分も十分に取らない状態では、血栓ができやすくなると注意を呼びかけています。
名称に「肺」が入っていますが、肺炎とは全く異なる病気です。

| 項目 | 肺炎 | 肺血栓塞栓症 |
|---|---|---|
| 主な原因 | 細菌やウイルスなどの感染、誤嚥 | 脚などにできた血栓が肺の血管を塞ぐ |
| 一般的な呼び方 | 肺炎、誤嚥性肺炎など | エコノミークラス症候群 |
| 主な症状 | 発熱、咳、たん、息苦しさ、倦怠感 | 突然の息苦しさ、胸痛、冷や汗、動悸 |
| 発症の仕方 | 数日かけて悪化することが多い | 突然発症することがある |
| 脚の症状 | 通常は目立たない | 片脚の腫れ、痛み、赤みが出ることがある |
ただし、どちらも息苦しさや胸部の不快感を起こす可能性があり、症状だけで完全に見分けることは困難です。
突然の強い胸痛、安静にしていても続く呼吸困難、冷や汗、意識が遠のく感じなどがある場合は、肺血栓塞栓症の可能性もあるため、ためらわず救急車を呼ぶ必要があります。
車中泊が直接肺炎を引き起こすわけではありませんが、避難生活特有の複数の条件が重なることで、肺炎を起こしやすくなることがあります。
夜間の車内は、日中よりも急激に温度が下がることがあります。
特に秋から春にかけては、車内で十分な暖房や寝具を確保できず、長時間寒さにさらされることがあります。
寒い場所にいただけで細菌性肺炎になるわけではありません。しかし、寒さや乾燥は喉や気道の不調を起こしやすくし、すでに感染している人の咳や呼吸器症状を悪化させる可能性があります。
日本呼吸器学会も、災害時の呼吸器疾患対策として、寒冷や乾燥に注意するとともに、ほこり、煙、たばこの煙、有害ガスなどを避けるよう呼びかけています。
車内は狭く、窓を閉めたまま複数人で長時間過ごすと、空気がこもりやすくなります。
家族の中に風邪、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などにかかっている人がいる場合、咳やくしゃみで出た飛沫を近い距離で吸い込みやすくなります。
呼吸器感染症が悪化すると、ウイルス性肺炎を起こしたり、後から細菌性肺炎を併発したりすることがあります。
避難所など、多くの人が近い距離で生活する環境でも、呼吸器感染症が広がりやすくなります。
ただし、寒い夜に無理に窓を大きく開け続ける必要はありません。体を冷やさないよう注意しながら、定期的に短時間の換気を行うことが大切です。
車中泊では、トイレに行く回数を減らそうとして、水分を控えてしまう人が少なくありません。
水分不足になると、口や喉が乾き、たんが粘り気を増して外に出しにくくなることがあります。
高齢者では、食べ物や唾液を飲み込む働きが低下し、誤嚥の危険が高まることにも注意が必要です。
さらに、水分不足は血液を固まりやすくし、エコノミークラス症候群のリスクも高めます。肺炎と肺血栓塞栓症の両方を防ぐためにも、少量ずつこまめに水分を取ることが重要です。
災害時には断水したり、歯ブラシや入れ歯の洗浄用品が手元になかったりするため、口の中を清潔に保つことが難しくなります。
口の中で細菌が増えた状態で、唾液や食べ物が誤って気管に入ると、細菌が肺まで運ばれて誤嚥性肺炎を起こすことがあります。
厚生労働省は、避難生活では水不足、食生活の偏り、水分不足、ストレスなどが重なり、特に高齢者では体力低下と口腔衛生の悪化によって、誤嚥性肺炎などの呼吸器感染症が起こりやすくなると説明しています。
車内では、体を傾けたまま食事をしたり、座席を大きく倒した状態で飲食したりすることがあります。
高齢者や飲み込む力が低下している人では、食べ物や飲み物が誤って気管に入りやすくなるため、できるだけ上半身を起こし、慌てず少量ずつ食べることが大切です。
食べ物は小さくし、十分にかんでから飲み込みます。口いっぱいに食べ物を入れるのは避けましょう。
日本呼吸器学会は、避難生活で誤嚥性肺炎を防ぐため、食べ物を小さくして飲み込みやすくすること、適切に水分を取ること、口腔ケアを行うことを推奨しています。
余震への不安、騒音、明るさ、狭い座席などにより、車内では十分な睡眠を取れないことがあります。
食料が限られ、パンや菓子類などに食事が偏ることもあります。
睡眠不足、強いストレス、栄養状態の悪化が重なると、体調を崩しやすくなります。感染症にかかった際に回復が遅れ、肺炎へ進行する可能性にも注意が必要です。
ぜんそく、COPD、間質性肺炎、心不全、糖尿病などの持病がある人は、避難によって治療が中断すると症状が悪化する可能性があります。
吸入薬、内服薬、在宅酸素療法の機器などを使用している人は、薬や電源が不足する前に、避難所の保健師、医療救護班、自治体の担当者へ相談することが重要です。
誤嚥性肺炎とは、食べ物、飲み物、唾液、胃の内容物などが誤って気管や肺に入り、口や喉にいる細菌によって炎症が起こる肺炎です。
健康な人でも一時的にむせることはありますが、通常は咳の力によって異物を外に出します。
高齢者や体力の低下した人では、飲み込む機能や咳をする力が弱くなっているため、本人が気づかないまま少量の唾液などを誤嚥することがあります。
避難生活では、口腔ケアの不足、脱水、疲労、不自然な食事姿勢などが重なるため、誤嚥性肺炎への注意が必要です。

肺炎では、次のような症状が現れることがあります。
ただし、高齢者では、高熱や激しい咳といった典型的な症状が現れないことがあります。
「なんとなく元気がない」「食べなくなった」「ぼんやりしている」「会話がかみ合わない」「急に動かなくなった」といった変化が、肺炎のサインである場合があります。
次のような症状がある場合は、避難所の医療スタッフ、保健師、医療機関などへ早めに相談してください。
突然の激しい胸痛、冷や汗、意識を失いそうな感覚、急激な呼吸困難がある場合は、肺血栓塞栓症などの緊急疾患も考えられます。すぐに119番へ通報してください。
一度に大量に飲む必要はありません。起きている間は、少量の水やお茶などをこまめに取ります。
心臓病や腎臓病などで水分制限を受けている人は、自己判断で量を増やさず、医療スタッフに相談してください。
車内に複数人でいる場合は、定期的にドアや窓を開けて空気を入れ替えます。
ただし、雨や寒さが厳しいときは無理をせず、短時間の換気を繰り返してください。
毛布、寝袋、上着、帽子、靴下、使い捨てカイロなどを利用し、体温を保ちます。
汗をかいた服を着たままにすると体が冷えやすいため、可能であれば乾いた服に着替えます。
歯ブラシと水が使える場合は、できるだけ歯を磨きます。
水が十分にない場合は、少量の水やお茶で口をすすぐ方法があります。濡らした清潔な布や口腔ケア用シートで、歯、歯ぐき、舌、入れ歯などの汚れを拭き取ることも役立ちます。
座席を倒したまま食べず、できるだけ体を起こして食事をします。
高齢者には、食べ物を小さくし、飲み込んだことを確認しながら少量ずつ食べてもらいます。
咳やくしゃみがある人は、可能な範囲でマスクを着用します。
せっけんと水が使えない場合は、手指消毒剤を使用します。家族内に発熱や咳のある人がいる場合は、車内で顔を近づけたまま長時間過ごすことをできるだけ避けます。
安全な場所で車外に出られる場合は、数時間おきに歩いたり、軽い体操をしたりします。
外に出られない場合でも、足首を回す、かかとを上下させる、ふくらはぎを動かすなどの運動を行います。
これは肺炎予防だけでなく、エコノミークラス症候群の予防にも重要です。
車内や車の周囲での喫煙は、本人だけでなく、同乗者の気道にも負担をかけます。
特に、ぜんそくやCOPDなどの呼吸器疾患がある人、乳幼児、高齢者がいる場合は、たばこの煙を避ける必要があります。
暑さや寒さを避けるため、エンジンとエアコンをかけたまま眠りたくなることがあります。
しかし、周囲の状況によっては、排気ガスが車内へ入り、一酸化炭素中毒を起こす危険があります。
一酸化炭素は無色・無臭で、本人が気づかないまま頭痛、吐き気、めまい、意識障害などを起こすことがあります。
特に、車庫などの換気の悪い場所、土砂や雪などで排気口が塞がれている場所、他の車の排気ガスが流れ込む位置では危険が高まります。
車内で、練炭、炭、ガスコンロ、燃料式ストーブなどを使用してはいけません。
車中泊をしている人は、避難所の建物内にいないため、自治体や医療スタッフから存在を把握されにくいことがあります。
その結果、食料や水、医薬品、健康診断、感染症情報などの支援が届かない可能性があります。
車中泊を続ける場合でも、最寄りの避難所や自治体の受付で、氏名、人数、駐車場所、持病、必要な薬などを伝えておくことが重要です。
寒さだけで細菌やウイルスによる肺炎になるわけではありません。
ただし、寒さや乾燥によって呼吸器症状が悪化したり、睡眠不足や疲労などが重なったりすると、感染症にかかった際に体調を崩しやすくなる可能性があります。
車中泊で特に注意が必要なのは、エコノミークラス症候群と呼ばれる肺血栓塞栓症です。
一方、長期の避難生活では、呼吸器感染症や誤嚥性肺炎、一酸化炭素中毒、脱水、低体温症などにも注意が必要です。
肺炎では発熱、咳、たんなどが多く、肺血栓塞栓症では突然の息苦しさや胸痛が多いという傾向があります。
しかし、症状が重なることもあり、一般の人が確実に見分けることはできません。息苦しさや胸痛がある場合は、自己判断せず医療機関へ相談してください。
高齢者の肺炎では、高熱や強い咳が現れないことがあります。
食欲低下、元気がない、反応が鈍い、ぼんやりしているなど、普段と違う様子がないか確認することが重要です。
少量の水やお茶で口をすすぐ、清潔な布や口腔ケア用シートで歯や舌を拭くといった方法があります。
入れ歯を使用している場合は、可能な範囲で外して汚れを落とします。
車の中で寝ること自体が、直接肺炎を引き起こすわけではありません。
しかし、車中泊では、寒さ、乾燥、水分不足、睡眠不足、口腔ケアの不足、栄養状態の悪化などが重なり、呼吸器感染症や誤嚥性肺炎を発症しやすい状態になることがあります。
特に、高齢者、乳幼児、飲み込む力が弱い人、呼吸器や心臓の持病がある人は注意が必要です。
また、車中泊で直接的に問題になりやすいのは、肺炎ではなく、脚にできた血栓が肺の血管を塞ぐエコノミークラス症候群です。
こまめな水分補給、定期的な運動、換気、保温、口腔ケアを心がけ、咳、発熱、息苦しさ、胸痛、意識状態の変化などがあれば、早めに医療スタッフへ相談してください。
突然の強い胸痛、急激な呼吸困難、冷や汗、意識を失いそうな症状がある場合は、ためらわず119番へ通報することが大切です。