「アファーマティブ・アクション」という言葉を聞いたことはあっても、具体的に何を意味するのか分かりにくいと感じる人は多いかもしれません。
簡単に言うと、アファーマティブ・アクションとは、過去の差別や社会的な不平等によって不利な立場に置かれてきた人たちに対して、教育・雇用・政治参加などの場面で積極的に機会を広げる取り組みのことです。
日本語では「積極的差別是正措置」「積極的改善措置」「ポジティブ・アクション」などと呼ばれることがあります。
この記事では、アファーマティブ・アクションの意味、目的、具体例、メリット、批判される理由、日本での例についてわかりやすく解説します。

アファーマティブ・アクションとは、社会の中にある不平等を放置せず、不利な立場に置かれてきた人々に対して、一定の範囲で特別な機会を設ける取り組みです。
たとえば、次のような人々が対象になることがあります。
ポイントは、「能力がない人を無条件で優遇する制度」ではないということです。もともと同じスタートラインに立てなかった人に対して、学ぶ機会、働く機会、昇進する機会、社会に参加する機会を広げるための制度と考えると理解しやすくなります。
法律で差別が禁止されても、それだけで現実の格差がすぐに消えるわけではありません。
たとえば、ある会社で「男女差別は禁止」と決めたとしても、過去に女性が管理職に登用されにくかった職場では、管理職候補となる女性社員が少ないままかもしれません。また、理工系分野で長く男性が多かった場合、女子学生が「自分には向いていない」と感じて進学をためらうこともあります。
つまり、表面上は平等に見えても、過去の慣習、教育環境、採用慣行、家庭環境、社会的な偏見などによって、実際には不利な立場に置かれる人がいます。
アファーマティブ・アクションは、こうした「見えにくい不平等」を改善するための方法です。
ここからは、具体例を見ながら理解していきましょう。

大学入試では、成績だけでなく、出身地域、家庭環境、社会的背景、困難を乗り越えた経験などを考慮する場合があります。
たとえば、都市部の進学校に通った学生と、進学情報や塾が少ない地域で学んだ学生では、同じ学力試験を受けても準備環境が大きく違うことがあります。
そのため、大学が次のような取り組みを行うことがあります。
これは、単に「特定の学生を優遇する」というよりも、大学に入る前の段階で生じている格差を考慮し、学ぶ機会を広げる取り組みです。

日本でよく見られる例が、企業における女性活躍推進です。
たとえば、ある会社で社員の半数近くが女性なのに、部長や課長などの管理職はほとんど男性ばかりだとします。この場合、会社は「性別に関係なく昇進できます」と言うだけでは不十分な場合があります。
なぜなら、女性社員が管理職を目指しにくい職場文化があったり、育児との両立が難しかったり、重要な仕事を任される機会が少なかったりする可能性があるからです。
そこで、企業は次のような取り組みを行います。
このような取り組みは、単に数字だけを合わせるためではなく、女性が実際に能力を発揮しやすい環境を作ることが目的です。

アファーマティブ・アクションは、採用の最終判断だけでなく、応募前の段階でも行われます。
たとえば、ある会社のエンジニア職に女性や地方出身者がほとんど応募していないとします。この場合、会社は「応募がないから仕方ない」と考えるのではなく、情報が届いていない可能性を考えます。
そこで、次のような対策を取ることがあります。
この例では、誰かを無条件で採用するのではなく、まず応募の入口を広げています。これも重要なアファーマティブ・アクションの一つです。

障害のある人の雇用も、アファーマティブ・アクションと関係の深い分野です。
たとえば、車いすを使う人が働けるように職場の段差をなくす、聴覚障害のある人のために字幕やチャットツールを整える、精神障害のある人が働きやすいように勤務時間を調整する、といった取り組みがあります。
これらは「特別扱い」と見られることもありますが、実際には働くための条件を整えるものです。階段しかない職場では、車いすの人は能力以前に職場へ入ることができません。そこで段差をなくすことは、スタートラインを近づけるための支援です。

政治の世界でも、アファーマティブ・アクションが議論されることがあります。
たとえば、議員の多くが男性で、女性議員が極端に少ない場合、政党が女性候補者を増やすための目標を立てることがあります。
具体的には、次のような取り組みが考えられます。
政治は社会のルールを決める場です。そのため、特定の性別や世代だけに偏っていると、多様な生活実感が政策に反映されにくくなるという問題があります。

奨学金も分かりやすい例です。
たとえば、経済的に困難な家庭の学生、ひとり親家庭の学生、理工系を目指す女子学生、地方から進学する学生、障害のある学生などに向けて、特別な奨学金を設けることがあります。
これは「お金がない人を優遇する」というよりも、学力や意欲があっても経済的理由で進学を断念する人を減らすための制度です。
教育の機会が広がれば、将来的に職業選択の幅も広がります。その意味で、奨学金制度は社会全体の人材育成にもつながります。
アファーマティブ・アクションは、しばしば「逆差別ではないか」と批判されます。確かに、制度の設計を誤ると、不公平感を生む可能性があります。
ただし、本来のアファーマティブ・アクションは、無条件で特定の人を優先する制度ではありません。重要なのは、次のような点です。
つまり、アファーマティブ・アクションは「誰でもよいから特定の属性の人を選ぶ」という制度ではなく、不平等を生み出している構造を改善するための仕組みです。
アファーマティブ・アクションには、いくつかのメリットがあります。
最も大きなメリットは、教育や雇用の機会における格差を改善できることです。
同じ試験、同じ採用基準、同じ昇進制度であっても、そこにたどり着くまでの環境が大きく違えば、結果に差が出ます。アファーマティブ・アクションは、その差を少しでも縮める役割を果たします。
組織の中に多様な人がいると、考え方や経験の幅が広がります。
たとえば、男性だけで商品開発を行うよりも、女性、子育て中の人、高齢者、障害のある人、外国にルーツを持つ人など、さまざまな立場の人が関わった方が、多くの利用者に合った商品やサービスを作りやすくなります。
少数派の人が管理職、研究者、政治家、専門職として活躍すると、次の世代にとってのロールモデルになります。
たとえば、女性の理工系研究者が増えれば、女子学生が「自分も理系に進んでよいのだ」と感じやすくなります。障害のある社員が活躍していれば、同じような状況にある人が働くイメージを持ちやすくなります。
一方で、アファーマティブ・アクションには批判もあります。
最もよくある批判は、「ある人を優遇することは、別の人を不利にするのではないか」というものです。
たとえば、大学入試や採用で特定の属性を考慮すると、同じように努力してきた別の応募者が不公平だと感じることがあります。この問題は、制度設計において非常に重要です。
アファーマティブ・アクションで選ばれた人が、「実力ではなく制度のおかげで選ばれた」と見られてしまうこともあります。
これは本人にとっても大きな負担です。そのため、制度を導入する側は、対象者の能力や実績を正しく評価し、単なる数合わせにならないように注意する必要があります。
社会的に不利な立場といっても、その内容はさまざまです。性別、人種、障害、経済状況、地域、家庭環境など、どの要素をどの程度考慮するのかは簡単ではありません。
そのため、アファーマティブ・アクションは「目的」「対象」「方法」「期間」を明確にして行う必要があります。

日本では、アメリカのように「アファーマティブ・アクション」という言葉が日常的に使われる場面は多くありません。その代わり、「ポジティブ・アクション」や「女性活躍推進」という表現がよく使われます。
代表的な分野は、企業における女性の採用・育成・登用です。
たとえば、次のような取り組みがあります。
また、大学では理工系分野で女子学生を増やすための説明会、奨学金、推薦制度などが導入されることもあります。これも、男女の進路選択にある偏りを改善する取り組みといえます。
アファーマティブ・アクションを理解するうえで大切なのは、「平等」と「公平」の違いです。
平等とは、すべての人に同じものを与えることです。一方、公平とは、それぞれの状況に応じて必要な支援を行い、できるだけ同じスタートラインに近づけることです。
たとえば、全員に同じ高さの踏み台を渡しても、背の低い人は高い壁の向こうを見ることができないかもしれません。その場合、背の低い人には高い踏み台を用意する必要があります。これは「特別扱い」ではなく、同じ景色を見るための条件を整えることです。
アファーマティブ・アクションもこれに近い考え方です。
アファーマティブ・アクションとは、過去の差別や社会構造によって不利な立場に置かれてきた人々に対して、教育・雇用・政治参加などの機会を広げる取り組みです。
具体例としては、大学入試での多様な学生の受け入れ、企業での女性管理職育成、障害のある人の雇用支援、奨学金制度、政治分野での女性候補者支援などがあります。
一方で、制度の設計を誤ると、逆差別や数合わせという批判を招くこともあります。そのため、目的を明確にし、必要な範囲で行い、効果を検証しながら運用することが重要です。
アファーマティブ・アクションは、単なる優遇制度ではありません。社会にある見えにくい不平等を見つめ直し、より多くの人が能力を発揮できる社会を作るための考え方です。