中国から撤退した日本企業
中国撤退の事例一覧と理由
「日本企業が中国から撤退している」という話題は、ニュースやSNSで定期的に注目されます。 ただし一口に“撤退”と言っても、市場(販売)からの撤退なのか、工場(生産)拠点の閉鎖なのか、合弁(JV)の解消なのか、店舗閉店なのかで意味合いは大きく変わります。
さらに実務上は、
- 「撤退=ゼロになる」ではなく、“一部をやめて、別の形で残す”
- 中国から完全に離れるのではなく、中国→ASEAN・インドなどへ生産を移す(China+1)
- 中国国内でも、沿岸部から内陸部へ移転するなど、地理的に組み替える
といった“再配置”が起きやすいのもポイントです。
本記事では、公開情報として確認できる範囲で、中国事業を終了・縮小した日本企業の代表例を「何から撤退したのか(どの形の撤退か)」が分かるように整理します。
「撤退」の定義:同じ言葉でも中身が違う
まず、混同されがちなポイントを整理しておきます。
- ✅ 販売撤退:中国での自社ブランド車の販売をやめる/新車販売を終了する など
- ✅ 生産撤退:中国の工場を閉鎖する/稼働停止する/生産を他国へ移管する など
- ✅ 投資撤退(資本撤退):合弁の持分を譲渡する/現地法人を清算する など
- ✅ 店舗撤退:百貨店・小売店舗を閉店し、現地法人も整理する など
- ⚠️ 縮小:撤退ではなく「生産能力削減」「一部工場の閉鎖・休止」「事業再編」
- ⚠️ 売却:撤退に近いが、資産・工場・ブランド等を第三者へ譲渡(“手放す”形)
この記事では、完全撤退だけでなく「撤退に近い大きな縮小・整理」も含めて、読者が状況を把握できるように書きます(※最終判断は企業の公式表現に従うのが安全です)。
まず押さえる:撤退ニュースで“見落としがちな4点”
撤退のニュースを読むとき、次の4点を押さえると理解が早くなります。
- どの事業か?(自動車、家電、素材、小売…)
- 何から撤退か?(販売/生産/合弁/店舗/投資)
- どこへ移すのか?(国内回帰/ASEAN/インド/中国内移転)
- 撤退後の提供は残るか?(保守・アフターサービス・部品供給)
同じ「撤退」でも、3と4が違うだけで、社会や顧客への影響は大きく変わります。
🧭 業界別に分解:撤退・縮小は「どこが動いたか」で見え方が変わる
ここからはご希望のとおり、話題になりやすい業界ごとに、
- 撤退・縮小が起きやすいポイント
- ニュースで出やすい“撤退の形”
- 本記事内の代表例(企業名)
をセットで整理します。
※この章は「撤退という言葉を正しく読むための地図」です。企業名の追加・網羅リスト化は、記事末尾の「拡張方法」に沿って増やせます。
🚗 自動車(完成車・部品)
起きやすい動き
- EV化と価格競争の激化で、従来の販売・生産体制の見直しが起きやすい
- 完全撤退よりも、**生産能力の削減(工場閉鎖・休止)**や、JVの整理として表に出る
ニュースで出やすい“撤退の形”
- 生産撤退(工場閉鎖・休止)
- 投資撤退(合弁持分の譲渡)
- 供給体制の組み替え(中国内で集約/他国へ移管)
本記事内の代表例
- 三菱自動車(現地生産の終了=合弁持分譲渡+生産撤退)
- ホンダ(一部工場の閉鎖・休止=生産縮小)
📱 家電・エレクトロニクス(スマホ・デジタル機器・精密機器)
起きやすい動き
- 製品サイクルが早く、採算が崩れると生産配置の変更が起きやすい
- “中国市場”と“中国で作る”は別で、販売は維持しつつ生産だけ移す判断も多い
ニュースで出やすい“撤退の形”
- 生産撤退(工場閉鎖・操業停止)
- 生産移管(中国→ASEANなど)
- 拠点統廃合(固定費削減の一環)
本記事内の代表例
- ソニー(北京のスマホ工場を閉鎖し生産移管)
- ニコン(中国工場の操業停止を含む構造改革)
🏗️ 素材(鉄鋼・金属・基礎素材)
起きやすい動き
- 自動車・建設など需要先の変化を受け、供給体制や合弁の設計を見直しやすい
- 合弁(JV)は、設立目的・契約条件に沿って、**“役目を終えたら整理”**が起き得る
ニュースで出やすい“撤退の形”
- 投資撤退(合弁解消・持分譲渡)
- 生産能力の最適化(特定ラインの整理)
本記事内の代表例
🏬 小売(百貨店・流通・外食を含む店舗ビジネス)
起きやすい動き
- 賃料・商圏・消費行動の変化に直撃しやすく、撤退が「閉店」という形で見えやすい
- 近年はEC・ライブコマースの影響も大きく、集客モデルの再設計が必要になりやすい
ニュースで出やすい“撤退の形”
- 店舗撤退(閉店)
- 投資撤退(現地法人の清算)
- 事業形態の転換(直営→別形態へ)
本記事内の代表例
- 三越伊勢丹(上海梅龍鎮伊勢丹の営業終了=店舗撤退)
- 高島屋(上海店舗の閉店・現地法人整理=店舗撤退+投資撤退)
🧪 化学(素材化学・機能性材料・医薬・化学品)
起きやすい動き
- 設備産業のため「撤退=工場の統廃合」になりやすい一方、 取引先・用途別に残す事業も多く、外からは“撤退”が見えにくいことがあります。
- 研究開発・品質・規制対応などが絡み、生産国の変更や委託生産への切り替えとして出ることもあります。
ニュースで出やすい“撤退の形”
- 生産撤退(特定工場・特定ラインの閉鎖)
- 合弁解消(JV持分譲渡)
- 事業再編(製品群の整理/事業譲渡)
本記事内の代表例
- (このカテゴリは、現状の本文では「業界の読み方」を中心に整理しています。企業名の追加は可能です)
🏦 金融(銀行・証券・保険・リースなど)
起きやすい動き
- 製造業のように「工場閉鎖」で可視化されにくく、撤退が起きてもニュースになりにくい分野です。
- ただし、現地規制や事業環境の変化で、 拠点の縮小、合弁比率の変更、特定サービスの停止などが起こり得ます。
ニュースで出やすい“撤退の形”
- 拠点統廃合(支店・駐在員事務所の整理)
- 投資撤退(持分譲渡)
- サービス撤退(新規取引停止など、限定撤退)
本記事内の代表例
- (このカテゴリは、現状の本文では「業界の読み方」を中心に整理しています。企業名の追加は可能です)
🧑💻 サービス(IT・コンサル・物流・教育・メディア等)
起きやすい動き
- “物理的な工場”がないため、撤退が起きると法人清算やオフィス閉鎖として表れやすい
- ただし、ビジネスモデルが多様で、 「撤退」ではなく 提携先変更、運用拠点の移転、サービス提供範囲の変更として実質的な縮小が進む場合もあります。
ニュースで出やすい“撤退の形”
- 投資撤退(現地法人清算)
- 拠点撤退(オフィス閉鎖)
- 事業撤退(サービス終了・提供国変更)
本記事内の代表例
- (このカテゴリは、現状の本文では「業界の読み方」を中心に整理しています。企業名の追加は可能です)
中国から撤退・縮小した日本企業の代表例(一覧)
※年次は「発表・報道時期」や「実施時期」を目安にしています。最新の状況は企業の最新開示で更新されることがあります。
🚗 自動車:市場環境の激変(EV化)で“撤退・縮小”が目立つ
1)三菱自動車:現地生産の終了(合弁持分の譲渡)
- 何から撤退?:中国での三菱ブランド車の現地生産
- 形:投資撤退(合弁持分譲渡)+生産撤退
- ポイント:合弁会社の持分を中国側へ譲渡し、現地生産を終了。販売・サービス面は「どこまで残すか」が別論点になりやすい。
2)ホンダ:一部工場の閉鎖・休止(生産能力の削減)
- 何から撤退?:中国の一部生産拠点(工場)
- 形:生産縮小(閉鎖・休止)
- ポイント:需要変化と競争環境に合わせて生産能力を削減する動き。完全撤退ではなく「規模最適化」として報じられやすいタイプ。
自動車分野では、撤退が起きる背景として「EV化」「ソフトウェア競争」「価格競争の激化」などが重なり、 “従来型の勝ちパターン”が通用しづらくなったことが語られることが多いです。
🏭 素材・製造:合弁解消や生産拠点の整理
3)日本製鉄:宝山鋼鉄(宝鋼)との合弁を解消(持分譲渡)
- 何から撤退?:自動車用鋼板の合弁事業(BNA)
- 形:投資撤退(合弁解消・持分譲渡)
- ポイント:設立当初の目的が達成されたことや、環境変化を背景に、合弁を解消する判断。
4)ニコン:中国工場の操業停止を含む構造改革
- 何から撤退?:中国の生産拠点(操業停止)
- 形:生産撤退(拠点の停止・整理)
- ポイント:市場環境の変化や事業構造見直しの中で、固定費削減策として拠点の整理が行われるタイプ。
5)ソニー:北京のスマートフォン工場を閉鎖し生産を移管
- 何から撤退?:中国(北京)のスマホ生産
- 形:生産撤退(工場閉鎖)+生産移管(タイへ)
- ポイント:コスト削減や供給網の組み替えの文脈で、中国での生産を終え、他国へ移す判断。
製造業では「撤退=中国市場を捨てた」ではなく、 **“中国市場は重要だが、生産配置は別に考える”**という動きが見えやすい分野です。
🏬 小売・百貨店:賃料・商圏・EC競争で撤退が起きやすい
6)三越伊勢丹:上海の老舗店(上海梅龍鎮伊勢丹)の営業終了
- 何から撤退?:上海の百貨店店舗
- 形:店舗撤退(閉店)
- ポイント:象徴的店舗の閉店はニュースになりやすい一方、背景としては契約条件、商圏変化、消費行動の変化など複合要因になりやすい。
7)高島屋:中国(上海)店舗の閉店・現地法人整理
- 何から撤退?:中国での百貨店運営
- 形:店舗撤退+投資撤退(現法の清算)
- ポイント:店舗閉店を機に、中国事業を整理する形になった代表例。
小売・百貨店は、製造業と違い「設備投資=固定費」が重く、 さらにEC・ライブコマースなどの影響も受けやすいため、 撤退が“わかりやすい形(閉店)”で出やすいのが特徴です。
「撤退が増えた」と感じる理由:体感が強くなる構造
体感として「撤退が増えた」と感じやすい理由は、
- ①ニュースになりやすい(大企業の工場閉鎖・百貨店閉店は目立つ)
- ②サプライチェーン再編(China+1)で拠点が動く
- ③中国の都市部で撤退が目立ちやすい(店舗・工場が集中)
- ④SNSでは“撤退”が強い言葉として拡散しやすい(縮小や移管が省略されがち)
といった要因が重なるためです。
一方で、統計的には「地域や業種によって増減が異なる」こともポイントです。 たとえば沿岸部で減り、内陸部で増える、といった動きが同時に起こることがあります。
なぜ撤退するのか:よくある理由(テンプレではなく“現実的な要因”)
撤退理由は企業ごとに違いますが、現実には次のような複合要因になりやすいです。
- 📉 市場構造が変わった:例)EV化で競争ルールが変化、現地勢が急伸
- 🏭 コストが合わなくなった:人件費・物流費・規制対応コストの上昇
- 🌏 地政学リスクとサプライチェーン分散:輸出規制、制裁、対立激化への備え
- 🧾 規制・コンプライアンス強化:データ、情報管理、監督強化など
- 🏬 小売の地殻変動:EC・ライブコマースの台頭、商圏の変化、賃料負担
- 🔁 全社構造改革:中国だけの問題ではなく、事業全体の採算見直し
- 🧰 品質・供給の安定性を重視:複数拠点化で「止まらない」体制を作る
ここで重要なのは、「撤退理由=1つ」で語られることは少なく、 実際には**市場環境+コスト+戦略(事業ポートフォリオ)**がセットで説明されることが多い点です。
よくある誤解:撤退=「中国が危ないから逃げた」ではない
撤退が話題になると、理由が単純化されがちです。 しかし実務的には、次のようなケースも多いです。
- 🧩 賃貸借契約の満了:百貨店・商業施設はこれがトリガーになりやすい
- 🧩 JVの契約期間満了:合弁は“期限到来”で整理が起こることがある
- 🧩 工場の役割変更:閉鎖=全撤退ではなく、製品ラインの移転・集約の場合も
- 🧩 中国で儲かる分野は残る:撤退は一部、他事業は拡大という企業も普通にある
- 🧩 「撤退」より「再配置」:販売は続けて、生産だけ別国へ、という判断もある
つまり、撤退ニュースを見るときは「善悪」や「恐怖」ではなく、 **企業の資源配分(どこに人・金・設備を置くか)**として捉えるほうが、現実に近いことが多いです。
影響はどこに出る?撤退で起きやすい“現場の変化”
撤退・縮小が起きると、一般に次のような変化が起きやすくなります。
- 👷 雇用・人材の再配置:現地スタッフの雇用調整、別拠点への異動
- 🚚 調達先の再構築:部品・素材の調達先変更、リードタイムの変化
- 🧾 契約・取引の見直し:取引条件、物流契約、賃貸借契約の整理
- 🛠️ 保守・サポート体制:拠点閉鎖でも、部品供給や修理拠点は残す場合がある
読者としては、「撤退=その会社の商品が買えなくなる」と早合点せず、 何が変わり、何が残るのかを見ると理解が深まります。
まとめ:撤退ニュースを見るときのチェックリスト
最後に、撤退ニュースを読むときは次の順で見ると誤解が減ります。
- ✅ 撤退の種類は?(販売・生産・投資・店舗・縮小・売却)
- ✅ 対象はどの事業?(全社ではなく“一部事業”のことが多い)
- ✅ 撤退先(移管先)は?(ASEAN、インド、日本回帰、中国内移転など)
- ✅ 撤退後に残るものは?(アフターサービス、部品供給、販売網)
- ✅ 撤退理由は1つではなく複数(市場変化+コスト+戦略が重なりがち)
この5点だけでも、「撤退」という言葉に引っ張られずに状況を把握しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「中国撤退」と「中国依存の見直し」は同じですか?
必ずしも同じではありません。中国市場は重要でも、調達や生産を分散する動き(China+1)は一般にあり得ます。
Q2. 撤退したら日本国内に戻ってくるのですか?
国内回帰の場合もありますが、実際はASEAN・インドなどへ移すケースも多く、企業や製品によって異なります。
Q3. 撤退=失敗ですか?
そうとは限りません。市場や技術が変われば、資源配分を変えるのは経営判断として自然です。