「日本は唯一の戦争被爆国なのに、なぜ核兵器禁止条約(TPNW)を批准しないのか?」という疑問は、長く議論されてきました。ここでは、政府が示している説明を中心に、条約の仕組み・安全保障との関係・批判側の論点まで、できるだけ噛み砕いて整理します。
核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons / TPNW)は、核兵器を「非合法化(禁止)」する初めての国際条約です。
TPNWは、核兵器の
※条約は核兵器国(米・露・中など)も含め「全世界で核兵器をなくす」ことを目的としますが、現実には核兵器国は参加していません。
まず、ニュースで混同されやすい3つを整理します。
日本の場合、「署名も批准もしていない」だけでなく、近年は「締約国会議へのオブザーバー参加」も見送ってきました。
日本政府は、核軍縮の目標(核兵器のない世界)そのものは掲げつつ、方法論としては次を軸にしています。
この考え方の延長線上に、TPNWに対する日本の距離感があります。
日本の「批准しない理由」は、単独の事情ではなく、複数の要素が絡み合っています。政府説明の核心は、次の4点に集約できます。
日本は「非核三原則」により核を持たない方針ですが、同時に日米同盟の下で、**米国の核を含む抑止力(拡大抑止)**に安全保障を依存してきました。
政府は、核の使用をちらつかせる国家(核の恫喝)に対して、通常戦力だけでは抑止が難しい局面があるという立場を取っています。
TPNWは、核兵器の「使用」だけでなく「使用の威嚇」まで禁止します。さらに重要なのが、
日本が批准する場合、
政府はこの点を「TPNWは核抑止と両立しない」という言い方で説明しています。
日本政府は繰り返し、
政府は、被爆国として日本には核軍縮での「影響力」がある一方、
要するに、政府の論理は「TPNW一本足打法より、核兵器国を含むNPTの枠組みで成果を積む方が前進につながる」という考え方です。
2025年3月のTPNW第3回締約国会議について、日本政府はオブザーバー参加を見送る判断を示しました。
その説明では、
日本が批准しない理由が“安全保障”にあるとしても、批判や反対意見は根強いです。代表的な論点は次の通りです。
「唯一の戦争被爆国が参加しないのは説得力を失う」「核廃絶の旗を下ろしたように見える」といった批判があります。
TPNWは核兵器国を直ちに法的に縛れないとしても、核を「許されないもの」にしていく規範(ノルム)づくりに意味がある、という考え方です。
米国の同盟国の中には、署名や批准はしなくても、締約国会議にオブザーバー参加する国があります。 「日本もまずはオブザーバー参加で被爆者の声を届けるべきだ」という主張は、ここに根拠を置きます。
TPNW批准は、日米同盟や抑止政策の再設計を含む大きな決断になります。一方で「何もしない」以外にも選択肢はあります。
現実には、「核抑止が必要なほど安全保障環境が厳しい」という認識が強まるほど、批准は難しくなるというジレンマがあります。
日本が核兵器禁止条約を批准しない理由を、政府の説明に沿って一言でまとめるなら、
核の傘(拡大核抑止)を前提とする日本の安全保障と、核を全面禁止するTPNWの枠組みは整合しにくい
という点です。
ただし、批判側も「被爆国としての責任」「条約が持つ規範的効果」「オブザーバー参加という中間案」などを根拠に、別の道筋を提示しています。