弾性エネルギーの例
弾性エネルギーの身近な例・利用例
弾性エネルギー(elastic potential energy)は、物体が元の形から変形したときに内部に一時的に蓄えられるエネルギーです。力をやめると形が戻り、そのときにエネルギーが運動や熱などに変わります。最も身近なのはバネやゴムですが、骨や腱、建物の免震ゴム、楽器、スポーツ用品など、生活のあらゆるところで使われています。
1. 基本の考え方(数式つきでサクッと)
- フックの法則:ばねの復元力は
- :ばね定数(硬さ)[N/m]
- :自然長からの変位 [m]
- 弾性エネルギー(直線ばね):
- ねじり(トーション)ばね:
- 材料学の視点:
- 縦弾性係数(ヤング率) が大きいほど変形しにくい=硬い。
- 棒の軸方向ばね定数は概ね (A:断面積、L:長さ)
- ゴムは非線形(小変形で近似的にフック則)、金属ばねはほぼ線形。
重要:弾性は元に戻る領域、塑性は戻らない領域。弾性エネルギーは弾性範囲内でのみ“貯金”できます。
2. 身近な弾性エネルギーの例(カテゴリ別)

2-1. 家の中・日用品
- 🧷 洗濯ばさみ・バインダークリップ:開くと板バネにエネルギーが蓄えられ、閉じると把持力として解放。
- 🧤 輪ゴム・ヘアゴム:伸ばす→弾性エネルギー蓄積→放すと勢いよく縮む。
- 🛏️ マットレス・ソファのスプリング:体重で圧縮→沈み込みを支え、元へ戻る。
- 🚪 ドアクローザー(ばね):ゆっくり閉まる力はばねの弾性エネルギー。
- ⏰ ぜんまい式時計・タイマー:ぜんまい(巻きばね)に蓄えたエネルギーを時間とともに放出。
- 🧴 ポンプ式ディスペンサー:押すとばねが縮み、手を離すと復帰して液体を吸い上げる。
2-2. 学校・学習用具・おもちゃ
- 📏 測りばかり(スプリングスケール):伸びから力(重さ相当)を読む。
- 🧸 玩具のピョンピョンがえる・クラッカー:ばね・ゴムにためて一気に放出。
- ✂️ ホチキス:針を押し出し、戻りはばね。
2-3. スポーツ・アウトドア
- 🏹 弓(ボウ):引き絞りで弾性エネルギー蓄積→矢へ運動エネルギーに変換。
- 🎾 テニス/バドミントンのガット:ボール接触時にたわみ→反発力で飛ばす。
- 🏀 ボールの反発:空気の圧縮+外皮の弾性でバウンド(気体の圧縮も関与)。
- 🧗 クライミングのダイナミックロープ:伸びて衝撃を吸収(弾性エネルギー→熱・内部損失)。
- 🤿 バンジーコード:伸び縮みで落下エネルギーを吸収。
- 🤸 トランポリン:メッシュとコイルばねの弾性で跳ね返す。
2-4. 乗り物・機械
- 🚗 サスペンション(コイル・板ばね):路面衝撃をばねが受け、ダンパーで減衰。
- 🚲 空気入れ・サドル下のスプリング:押し込み/座圧でばねが働く。
- 🏭 ばね式安全機構:非常停止ボタンの復帰、リリーフ機構など。
- ⚙️ ねじりばね(ヒンジ):ノートPC・洗濯機の蓋の保持/戻り。
2-5. 建築・防災
- 🏢 免震・制振装置のゴム支承:地震動を弾性変形で受け、揺れを減らす(ゴム+鋼板)。
- 🧱 耐震ダンパー+ばね:変形エネルギーの一部を弾性に、一部を減衰に。
2-6. 医療・生体
- 🦷 歯列矯正用エラスティック:弱い持続力で歯を少しずつ移動。
- 🏃 アキレス腱・足底腱膜:走行時に腱がばねのように働き、反発で省エネ走行。
- 🦘 カンガルーの跳躍:腱にエネルギーを貯めて効率よくジャンプ(生体の弾性貯蔵)。
2-7. 音・楽器
- 🎻 バイオリンの弓・弦:弾性で振動を保ち、音に変換。
- 🔔 音叉・金属板:たわみ→弾性振動→音。
3. 代表的な“利用シーン”まとめ

| シーン |
仕組み |
目的 |
| サスペンション |
ばねが変形→弾性エネ蓄積→ダンパーで熱に散逸 |
乗り心地、耐久性向上 |
| 免震ゴム |
ゴムのせん断変形で建物の入力を減少 |
地震時の安全性 |
| ぜんまい時計 |
巻取りで蓄積→歯車で少しずつ放出 |
安定した駆動源 |
| 弓・スリングショット |
引張で蓄積→発射時に解放 |
投射(大きな初速) |
| 矯正ゴム |
小さな持続力 |
徐々に形を変える |
| 楽器(弦・板) |
弾性振動 |
音の生成 |
4. 実験
実験A:ばね定数を測る
- バネを吊るし、定規を添えて自然長を記録。
- 既知の重り(質量m)を吊るし、伸び を測る。
- と から 。
- 複数の重りで直線性(フック則)を確認。
実験B:輪ゴムの射程と伸び
- 同じ輪ゴムで伸ばし量を変えて発射し、到達距離を記録。
- 距離と の関係が完全な二次関数にならないのは非線形や空気抵抗のため。
安全メモ:目に向けない、硬いものに向けない、周囲に人がいない場所で。
5. よくある誤解とポイント
- 硬い=弾性が大きい?
→「硬い」は変形しにくい(剛性が高い)こと。弾性エネルギーは変形させた量に比例()。
- 弾性と塑性の違い
→ 弾性:力をやめると元に戻る/塑性:戻らない。ばねは降伏点を超えると元に戻らない。
- 材料のEとばね定数k
→ 棒なら でつながる。形状(AやL)でも硬さが変わる。
- ゴムは温度で性質が変わる
→ 冬は硬く、夏は柔らかくなりやすい(反発や減衰が変化)。
6. 応用の最前線トピック
- エナジーハーベスティング:
- 圧電素子は微小な弾性変形を電気に変える。床発電、センサー駆動など。
- ソフトロボティクス:
- ゴムや形状記憶ポリマーの弾性を利用し、安全な把持やしなやかな動作を実現。
- 生体模倣(バイオミメティクス):
- 腱・筋膜のエネルギー再利用を模して省エネ歩行義足や高反発シューズへ。
7. まとめ(要点)
- 弾性エネルギーは変形に貯まる一時的なエネルギー。
- 数式は (直線ばね)や (ねじり)。
- 家庭・スポーツ・交通・建築・医療・音響など広範囲で利用。
- 安全と限界(弾性域)に注意し、設計や実験では降伏・破断を避けるのが鉄則。
身近な“弾性エネルギー”リスト(チェック用)
- 輪ゴム/ヘアゴム/洗濯ばさみ/バインダークリップ
- ぜんまい式タイマー・時計
- ドアクローザー、押しボタンスイッチの復帰ばね
- マットレス、ソファばね、トランポリン
- 弓、スリングショット、テニスガット、ゴルフクラブのしなり
- 自転車サドルばね、車サスペンション、工具のトルクスプリング
- 免震ゴム、耐震ダンパー
- 矯正用エラスティック、注射器の復帰ばね
- 音叉、弦楽器の弦・弓