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冤罪で死刑執行された人-日本

冤罪で死刑執行された人-日本

死刑制度が議論されるとき、避けて通れないのが「冤罪(えんざい)」です。もし無実の人に死刑が確定し、執行まで至ったなら、取り返しがつきません。

ただし日本では、**「死刑を執行された後に、裁判(再審)で無罪が確定した」**という意味での“確定冤罪”は、戦後の統計・公的な整理の中では確認が非常に難しいのが実情です。理由は単純で、執行後は本人からの防御活動が不可能になり、再審手続も複雑化しやすいためです(後述)。

その一方で、

  • 死刑が確定したのに、執行前に再審で無罪となった事件(確定した冤罪)
  • 死刑が執行された後も冤罪の疑いが強いと指摘され続ける事件
  • 戦前の政治事件として、専門家団体が「冤罪により処刑」と位置づける事件

は、複数存在します。

以下では、言葉の混同を避けながら「何が確定していて、何が“疑い”として残っているのか」をできるだけ丁寧に整理します。


1. まず結論:日本の「冤罪で死刑執行」は“確定”と“疑い”を分けて考える必要がある

一般に「冤罪で死刑執行された人」と言うと、次の2つが混ざりがちです。

  • A:死刑が確定したが、執行前に再審で無罪になった(=冤罪が法的に確定)
  • B:死刑が執行されたが、後に冤罪の疑いが強いと指摘される(=法的に無罪と確定していない)

Aは「再審無罪」という形で法的に確定します。 Bは、DNA鑑定や証拠評価等の問題点が指摘されても、**再審で無罪が確定しない限り“法的には未確定”**のまま残ります。


2. 【確定】死刑が確定→再審で無罪(執行前に救済された)

日本には、**「死刑判決(しかも確定)を受けたのに、再審で無罪になった」**事件が複数あります。

よく「死刑4再審」と呼ばれるのが、次の4事件です(いずれも死刑確定後、再審で無罪)。

  • 免田事件(1983年に再審無罪)
  • 財田川事件(1984年に再審無罪が確定)
  • 松山事件(1984年に再審無罪)
  • 島田事件(1989年に再審無罪)

これらは1980年代に相次いだ再審無罪として、複数の弁護士会・研究者側の整理でも繰り返し言及されます。近年は、静岡で袴田事件(1966年事件)をめぐって再審が進み、同じ文脈で語られてきました(下記)。

免田事件(再審無罪:1983年)

日弁連は、免田栄氏が長期間にわたり死刑囚として置かれ、再審で無罪判決を得たことを会長声明で述べています。

財田川事件(再審無罪確定:1984年)

財田川事件についても、日弁連は無罪判決確定時に声明を出しています。

松山事件(再審無罪:1984年)

松山事件も、再審無罪判決について日弁連が声明を出しています。

島田事件(再審無罪:1989年)

島田事件については、日弁連が再審無罪判決の言渡しに関する声明を公表しています。

※上記4事件は「死刑確定後に冤罪が救済された」例であり、いずれも“執行”される前に無罪となった点が重要です。


3. 【確定】袴田事件:死刑判決→再審で無罪(執行されないまま長期拘禁)

袴田事件は、1968年に死刑判決を受け、長年にわたり死刑囚として拘置されましたが、執行はされないまま再審に進み、**再審で無罪(警察・検察による証拠捏造等を認定する内容)**が報じられています。検察が控訴しないことにより無罪が確定した旨も報じられています。

この事件は、死刑制度の議論だけでなく、取り調べ・証拠管理・再審制度の在り方を問う象徴的事件として国際報道でも取り上げられてきました。


4. 【疑い】死刑が執行された後も、冤罪の疑いが強いと指摘される:飯塚事件

「死刑が執行された」という点で、しばしば名前が挙がるのが飯塚事件です。

東京弁護士会の案内文では、飯塚事件について

  • 1992年に福岡県飯塚市で女児2人が殺害
  • 久間三千年氏は否認を続けたまま、2006年に死刑確定
  • 2008年に死刑執行
  • DNA鑑定の問題点、足利事件と同種の手法・体制などを挙げ、えん罪の疑いが強い
  • 遺族が再審請求を続けている

と整理されています。

ここで重要なのは、飯塚事件が社会的に大きく議論される一方で、現時点では「再審無罪」という法的確定には至っていない(=“疑い”として残る)という点です。


5. 【戦前】「冤罪により処刑」と位置づけられる:大逆事件(幸徳事件)

近代史の文脈で「冤罪で処刑」として語られる代表例が**大逆事件(幸徳事件)**です。

日弁連は、死刑執行100年にあたっての会長談話で、

  • 死刑判決を受けた24名のうち12名は特赦で無期に減刑
  • 残り12名は、死刑判決から短期間で死刑が執行

という事実関係を示したうえで、同事件の問題性に触れています。

戦前の政治・思想弾圧、密室性の高い審理、短期間での執行という特徴から、学術的・市民的には冤罪(フレームアップ)とみなす議論が強く、現代の再審制度や死刑制度を考える際の参照点になっています。

※ただし、戦後の刑事再審制度のもとで「再審無罪」が積み重なったタイプ(死刑4再審等)と違い、歴史事件としての評価・位置づけが中心になります。


6. なぜ「死刑執行後の冤罪確定」が難しいのか(手続の壁)

死刑執行後に「冤罪だった」と法的に確定させるには、基本的に再審で無罪を得る必要があります。

ところが、日弁連(再審法改正をめぐる意見書)は、現行制度には

  • 再審請求中に本人が死亡した場合の“手続の承継”が明確でない
  • 近親者が新たに再審請求し直さなければならない等、救済が困難になり得る

といった課題がある旨を指摘しています。

つまり、執行後はもちろん、執行前であっても死亡した時点で救済ルートが細くなり、証拠の散逸・関係者の記憶の劣化も重なって、真相解明がさらに難しくなります。


7. 冤罪が起きる典型パターン(死刑事件で特に深刻になりやすい)

冤罪事件で繰り返し問題となる論点には、次のようなものがあります。

  • 🧩 自白偏重:長時間取り調べや誘導で自白が形成される
  • 🔬 鑑定(科学捜査)の過信:当時の技術水準・手法の限界が後に露呈する
  • 📁 証拠開示の非対称:弁護側が検察側証拠にアクセスしにくい
  • 再審のハードル:新証拠の扱い、裁判所の判断枠組みが厳格
  • 🔒 死刑執行の告知の在り方:直前告知は、心理的負荷だけでなく救済機会の確保にも影響し得る

死刑事件は、社会的関心が高い一方で、いったん有罪の流れができると覆すことが難しく、誤りがあった場合のダメージが最大化します。


8. まとめ:「確定冤罪」と「疑いの残る事件」を混同しないことが出発点

  • **「死刑確定→再審無罪」**という意味での冤罪は、免田・財田川・松山・島田など、複数の確定例がある(ただし執行前に救済)。
  • **「死刑執行後」**については、飯塚事件のように“冤罪の疑いが強い”と弁護士会等が指摘し、再審請求が続く例がある。
  • 戦前には、大逆事件のように、専門家団体が「冤罪により処刑」という文脈で言及する歴史事件もある。

死刑制度をめぐる議論は、賛否の立場によって結論が割れます。しかし、最低限として、 「取り返しがつかない制度である以上、冤罪救済の制度設計が十分か」 という問いは、立場を超えて共有されるべき論点です。


参考にされることが多い公的・準公的資料

  • 日弁連:免田事件・財田川事件・松山事件・島田事件に関する各声明(再審無罪の節目)
  • 日弁連:大逆事件(死刑執行100年)会長談話
  • 東京弁護士会:飯塚事件を題材にした再審・死刑制度シンポジウム案内
  • 日弁連:再審制度(再審法改正)に関する意見書

 

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