結論から言うと、「キヤノンが中国市場から全面撤退した/する」という断定は現時点では不正確です。一方で、中国にある特定の製造拠点を終了(閉鎖)する動きは報じられており、SNS等で言われがちな“全面撤退”ではなく、**生産体制の組み替え(拠点再編・生産移管)**として捉えるのが現実的です。
このテーマは情報が一人歩きしやすいため、ここでは「どの会社・工場が」「いつ」「何をしていたのか」「それは撤退と言えるのか」を、一次情報(キヤノンの公開資料)+報道を組み合わせて整理します。
同じ「撤退」に見えても、実務的には意味が違います。
ニュースやXの投稿は、この違いを混ぜて「撤退」と言いがちです。この記事では、**“どのレベルの撤退の話か”**を分けて確認します。
近年の話題の中心は、広東省中山市にある**「キヤノン(中山)事務機有限公司」**(英語表記:Canon Zhongshan Business Machines Co., Ltd.)です。
キヤノン公式のグループ会社一覧(アジア地域)では、同社について以下が示されています。
つまり、少なくとも2024年末時点で、キヤノンは中国にこの規模の製造会社を持っていたことが公式ページで確認できます。
複数の報道・業界系記事では、上記の中山拠点が2025年11月21日をもって事業を終了する旨が伝えられています。ここで重要なのは、
なお、従業員規模については、時点により数字が揺れます(公式一覧は2024年末で1,795人)。一方で、終了時点に近い報道では「約1,400人」などの数字が出ることがありますが、これは報道・二次情報のレンジとして扱うのが安全です。

キヤノンの統合報告書(Integrated Report 2025)では、環境対応の文脈ながら、
といった名前が具体的に登場します。たとえば再生可能エネルギーの取組として、中山拠点への太陽光パネル設置や、「Canon (China) がオフィス電力の再エネ化に関与している」旨が書かれています。
また、公式のグループ会社一覧(アジア)には、中国の製造拠点として中山だけでなく、
など複数社が掲載されています。よって「中国から全面撤退」というより、**拠点の取捨選択(再編)**と見る方が整合的です。
ここからは“推測”ではなく、キヤノンが公開資料で述べている方向性と、報道で指摘されがちな要因を、論理的に繋げて整理します。
キヤノン年次報告書(Annual Report 2024)には、生産体制について
といった趣旨の記述があります。企業がこうした方針を掲げると、実際の工場閉鎖・移管のニュースが出た時に「撤退」と表現されやすくなります。
近年、多くの製造業が「中国一極集中」を弱め、東南アジア等へ分散させています。
などが背景として語られます。
キヤノン自身も、統合報告書でベトナム・タイ等を含む複数の製造会社名を挙げており、供給網が多拠点で設計されていることが読み取れます。
中山拠点は、公式一覧上「レーザープリンター、レーザー複合機」を主としています。つまり、仮にここが閉鎖されても、
という形で「生産の置き換え」が起こり得ます。
ここを“国単位の撤退”と捉えると話が過大化しやすく、製品・拠点単位の再編として見ると理解がスムーズです。
「今回が初めて」ではありません。たとえば2022年には、キヤノンが中国・珠海の工場(カメラ関連)について見直しを検討していると伝えられました。ロイターが、同拠点の操業停止・閉鎖を検討している旨を報じています。
また日本語メディアも、珠海工場に関する動きを報じています(報道内容の細部は媒体により差があります)。重要なのは、こうした個別拠点の縮小が“中国撤退”と一括りにされやすいという点です。
ここも誤解されやすいポイントなので、影響を項目別に整理します。
通常、特定工場の閉鎖は「生産移管」とセットで計画されるため、即座に供給が止まるとは限りません。ただし、以下は現実に起こり得ます。
「市場撤退」でなければ、一般にサポート網は維持されます。前述の通り、キヤノンの公開資料上も中国法人が登場しており、少なくとも“中国から会社がいなくなる”形ではありません。
「キヤノン中国撤退!」のような強い文言に触れた時、以下の順で確認すると誤情報に引っ張られにくくなります。
今回のケースは、公式一覧に「キヤノン(中山)事務機有限公司」が掲載されていたこと、統合報告書でも中国拠点・中国法人に言及があることから、少なくとも「全面撤退」とは言いにくい構図です。