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キヤノン・中国撤退

キヤノン・中国撤退

「キヤノンが中国から撤退」は本当?

結論から言うと、「キヤノンが中国市場から全面撤退した/する」という断定は現時点では不正確です。一方で、中国にある特定の製造拠点を終了(閉鎖)する動きは報じられており、SNS等で言われがちな“全面撤退”ではなく、**生産体制の組み替え(拠点再編・生産移管)**として捉えるのが現実的です。

このテーマは情報が一人歩きしやすいため、ここでは「どの会社・工場が」「いつ」「何をしていたのか」「それは撤退と言えるのか」を、一次情報(キヤノンの公開資料)+報道を組み合わせて整理します。


1. 「撤退」という言葉が生む誤解(用語整理)

同じ「撤退」に見えても、実務的には意味が違います。

  • 市場撤退:中国での販売・サービス自体をやめる(販売会社・サポート網の大幅縮小を伴う)
  • 生産撤退:中国での製造をやめる(ただし販売は継続し、他国生産か外部調達に切り替えることがある)
  • 拠点撤退(工場閉鎖):特定の工場や子会社を閉じる(中国内の他拠点や他国へ移す場合がある)
  • 縮小・再編:雇用や生産品目を減らして最適化(完全にゼロにしない)

ニュースやXの投稿は、この違いを混ぜて「撤退」と言いがちです。この記事では、**“どのレベルの撤退の話か”**を分けて確認します。


2. 何が起きた?注目されたのは「中山(Zhongshan)」の拠点

近年の話題の中心は、広東省中山市にある**「キヤノン(中山)事務機有限公司」**(英語表記:Canon Zhongshan Business Machines Co., Ltd.)です。

キヤノン公式のグループ会社一覧(アジア地域)では、同社について以下が示されています。

  • 所在地:中華人民共和国 広東省中山市(火炬開発区)
  • 設立:2001年
  • 人員数:1,795人(2024年12月31日現在)
  • 主な内容:レーザープリンター、レーザー複合機

つまり、少なくとも2024年末時点で、キヤノンは中国にこの規模の製造会社を持っていたことが公式ページで確認できます。


3. 「中山の工場(子会社)閉鎖」報道:いつ・どれくらいの規模?

複数の報道・業界系記事では、上記の中山拠点が2025年11月21日をもって事業を終了する旨が伝えられています。ここで重要なのは、

  • “キヤノン中国が消える”という話ではなく、
  • **「中国の中の一つの製造会社が終了する」**という粒度で語られている点です。

なお、従業員規模については、時点により数字が揺れます(公式一覧は2024年末で1,795人)。一方で、終了時点に近い報道では「約1,400人」などの数字が出ることがありますが、これは報道・二次情報のレンジとして扱うのが安全です。


4. 「撤退ではない」と言える根拠:キヤノンの公開資料に“中国拠点・中国法人”が残っている

キヤノンの統合報告書(Integrated Report 2025)では、環境対応の文脈ながら、

  • Canon Zhongshan Business Machines(中山)
  • Canon (China)(中国法人)

といった名前が具体的に登場します。たとえば再生可能エネルギーの取組として、中山拠点への太陽光パネル設置や、「Canon (China) がオフィス電力の再エネ化に関与している」旨が書かれています。

また、公式のグループ会社一覧(アジア)には、中国の製造拠点として中山だけでなく、

  • キヤノン(蘇州)有限公司(複合機・インクジェット等)
  • キヤノン大連事務機有限公司(トナー等)
  • キヤノンファインテックニスカ(深圳)有限公司(周辺機器等)

など複数社が掲載されています。よって「中国から全面撤退」というより、**拠点の取捨選択(再編)**と見る方が整合的です。


5. では、なぜ「中国撤退」と言われるのか(背景の読み解き)

ここからは“推測”ではなく、キヤノンが公開資料で述べている方向性と、報道で指摘されがちな要因を、論理的に繋げて整理します。

5-1. 公式資料にある「生産拠点の再編」方針

キヤノン年次報告書(Annual Report 2024)には、生産体制について

  • 生産拠点が世界に約60あること
  • それらを効率化の観点から見直し、
  • 政治・社会の安定した国や地域へ集約していく

といった趣旨の記述があります。企業がこうした方針を掲げると、実際の工場閉鎖・移管のニュースが出た時に「撤退」と表現されやすくなります。

5-2. 地政学リスク・サプライチェーン再設計

近年、多くの製造業が「中国一極集中」を弱め、東南アジア等へ分散させています。

  • 米中対立による関税・規制の不確実性
  • 紛争・制裁・輸出規制などの地政学的リスク
  • コロナ禍で露呈した物流寸断
  • 賃金上昇や人手不足などコスト構造の変化

などが背景として語られます。

キヤノン自身も、統合報告書でベトナム・タイ等を含む複数の製造会社名を挙げており、供給網が多拠点で設計されていることが読み取れます。

5-3. “製品別”に見ると理解しやすい(中山=レーザープリンター系)

中山拠点は、公式一覧上「レーザープリンター、レーザー複合機」を主としています。つまり、仮にここが閉鎖されても、

  • その製品群の生産が 蘇州ベトナムタイフィリピンなど他拠点へ移る
  • あるいは委託・部材供給の形が変わる

という形で「生産の置き換え」が起こり得ます。

ここを“国単位の撤退”と捉えると話が過大化しやすく、製品・拠点単位の再編として見ると理解がスムーズです。


6. 過去にもあった「中国工場」見直し報道(珠海の例)

「今回が初めて」ではありません。たとえば2022年には、キヤノンが中国・珠海の工場(カメラ関連)について見直しを検討していると伝えられました。ロイターが、同拠点の操業停止・閉鎖を検討している旨を報じています。

また日本語メディアも、珠海工場に関する動きを報じています(報道内容の細部は媒体により差があります)。重要なのは、こうした個別拠点の縮小が“中国撤退”と一括りにされやすいという点です。


7. 生活者・消費者への影響は?(製品供給・修理・価格)

ここも誤解されやすいポイントなので、影響を項目別に整理します。

7-1. プリンターや複合機が急に買えなくなる?

通常、特定工場の閉鎖は「生産移管」とセットで計画されるため、即座に供給が止まるとは限りません。ただし、以下は現実に起こり得ます。

  • 📦 生産移管の立ち上げ期に、一時的な納期延長
  • 🧩 部材・工程が変わることで、型番更新や仕様微調整
  • 💱 為替・物流費の影響を受け、価格改定が起きる可能性

7-2. 修理やサポートが弱くなる?

「市場撤退」でなければ、一般にサポート網は維持されます。前述の通り、キヤノンの公開資料上も中国法人が登場しており、少なくとも“中国から会社がいなくなる”形ではありません。


8. SNSでよく見る“強い言い切り”のチェックリスト(ファクト確認の型)

「キヤノン中国撤退!」のような強い文言に触れた時、以下の順で確認すると誤情報に引っ張られにくくなります。

  • ✅ ① “どの会社名・どの工場名”が書かれているか(地名だけでないか)
  • ✅ ② “撤退”が 販売なのか 生産なのか 特定拠点なのか
  • ✅ ③ 一次情報(公式一覧・統合報告書・有価証券報告書等)に該当会社が残っているか
  • ✅ ④ 従業員数などの数字は 公式推定

今回のケースは、公式一覧に「キヤノン(中山)事務機有限公司」が掲載されていたこと、統合報告書でも中国拠点・中国法人に言及があることから、少なくとも「全面撤退」とは言いにくい構図です。


9. まとめ:この記事の結論

  • **「キヤノンが中国から全面撤退」**という断定は、現状では根拠が薄い
  • 一方で、中国の特定製造拠点(中山)を終了するという報道があり、これが「撤退」として拡散されやすい
  • キヤノンは公開資料で、生産拠点の集約・効率化方針を示しており、個別拠点の閉鎖はその延長で理解できる
  • 公式のグループ会社一覧には、中国に複数の製造会社が掲載されているため、「中国ゼロ」ではなく 再編の可能性が高い

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