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日本の中国国債保有額

中国国債

日本の中国国債保有額

数字が出てこない理由」と実際のイメージを整理

「日本は中国国債をどれくらい持っているのか?」

米国債については、日本や中国の保有額ランキングが毎月ニュースになるのに対し、中国国債については、はっきりした数字やランキングがほとんど出てきません。そのため、SNSでは

  • 「日本は中国国債を●十兆円も持たされている」
  • 「日本政府が中国国債を一気に売却した」

など、真偽のあいまいな情報も飛び交っています。

結論からいうと、2025年現在、日本政府や公的機関が中国国債をどれだけ保有しているかを示す公式な統計は公表されていません。

しかし、過去の政策発表や国際機関・研究者の分析をたどることで、

  • 日本がいつ、どのような枠組みで中国国債を買うことにしたのか
  • その規模は外貨準備全体から見てどの程度だったのか
  • 日本の公的年金(GPIF)などは中国国債にどう向き合っているのか

といった「大まかな実態」は見えてきます。

この記事では、

  1. 日本と中国国債の関係の基本整理
  2. 2012年の「最大100億ドル規模」購入方針とは何だったのか
  3. 現在の日本の外貨準備と人民元資産の位置づけ
  4. GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のスタンス
  5. 民間金融機関による中国国債保有の可能性
  6. SNSで広がる「日本の中国国債●十兆円」論の問題点
  7. まとめ:日本の中国国債保有額をどう理解すべきか

という流れで、日本の中国国債保有額について丁寧に整理していきます。


1. まず整理:日本が持つ「中国国債」とは何か

ここでいう「日本の中国国債保有額」とは、

日本の政府や公的機関・民間金融機関が保有している、中国政府が人民元建てで発行する国債(CGB: Chinese Government Bonds)の残高

を指します。

一方で、よく混同されるのが、

  • 中国が日本の国債(JGB)をどれだけ保有しているか
  • 中国が各国に対して行っている融資(「一帯一路」関連の対外債権など)

といった話題です。

これらは資金の流れの向きがまったく異なります。

  • 日本の中国国債保有額
    → 日本側が中国政府にお金を貸している(=中国国債を買っている)
  • 中国の日本国債保有額
    → 中国側が日本政府にお金を貸している(=日本国債を買っている)
  • 中国からの融資・一帯一路の債務問題
    → 中国政府・中国の銀行が他国にお金を貸している話

本記事で扱うのはあくまで 「日本が中国国債をどれだけ持っているか」 というテーマです。


2. 2012年の「最大100億ドル規模」購入方針とは?

China 中国

日本と中国国債の関係で、もっともはっきり数字が出ているのが、2011〜2012年ごろに発表された、公的な中国国債購入の方針です。

2-1. 日本が初めて人民元建て国債を外貨準備に組み入れ

2012年3月、当時の財務大臣が、

日本政府が外貨準備の一部として、中国政府が発行する人民元建て国債を最大65億元(約100億ドル)購入する

と発表しました。これはロイターや海外メディアでも「日本が中国国債を最大100億ドル購入へ」と大きく報じられ、

  • 主要先進国として初めて、本格的に人民元建て国債を外貨準備に組み入れる
  • 人民元の国際化を後押しする象徴的な一歩

と位置づけられました。

当時の報道では、

  • 100億ドル規模という数字は、当時の日本の外貨準備(約1.3兆ドル)の 1%にも満たない水準 であること
  • つまり、「全体としてはごく一部だが、象徴的な意味合いが大きい」という性格を持っていたこと

が繰り返し指摘されています。

2-2. 東アジア3カ国協調の一環としての国債相互投資

同じ時期に、中国・日本・韓国は、外貨準備を用いて互いの国債に投資することで、

  • 為替市場の安定
  • 地域金融協力の強化

を図ることで合意していました。日本による中国国債購入は、こうした 東アジア域内の金融協力の一環 として実施された側面もあります。

2-3. 実際の購入額は「上限枠」の範囲内

日本は「最大65億元(約100億ドル)」という上限枠を設定しただけで、

  • 実際にどのタイミングでどれだけ購入したのか
  • その後どの程度ロールオーバー(買い替え)されたのか

といった詳細は公表されていません。

ただし、上限自体が外貨準備全体の1%未満であることから、

仮に枠いっぱいまで買っていたとしても、日本の外貨準備に占める中国国債の比率はごく小さい

という点は押さえておくことができます。


3. 現在の日本の外貨準備と人民元資産の位置づけ

3-1. 日本の外貨準備は約1.3兆ドル規模

財務省の統計によると、日本の外貨準備高は2025年9月末時点で 約1.34兆ドル と公表されています。これは世界でもトップクラスの規模で、

  • 米ドル建て資産(米国債・ドル建て預金など)が中心
  • そのほかユーロ、ポンドなど主要通貨建て資産

で構成されていると考えられています。

しかし、日本の外貨準備については、

  • 通貨別(ドル・ユーロ・人民元など)
  • 債券・預金などの資産クラス別

細かい内訳は公表されていません。

したがって、

「外貨準備のうち人民元建て資産が何%か」

は、外からは推測しかできないのが実情です。

3-2. 世界全体では人民元のシェアはまだ数%レベル

IMFのCOFER統計などによれば、世界全体の外貨準備に占める人民元のシェアは、

  • 2010年代半ば以降じわじわと上昇
  • それでも 全体の数%程度 にとどまる

という水準にあります。

つまり、人民元は

  • 「ドル・ユーロに次ぐ“新興の準主要通貨”として存在感を高めつつある」一方で
  • まだドル・ユーロ・円などと並ぶ“メイン通貨”というほどではない

という位置づけです。

日本についても、

人民元建て資産(中国国債を含む)は持っている可能性が高いが、その比率は外貨準備全体から見ればごく一部

と考えるのが自然だと言えます。


4. GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のスタンス

日本の公的マネーの中でも、特に規模が大きいのが GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) です。運用資産は約200兆円規模に達し、世界最大級の年金ファンドとして知られています。

4-1. GPIFは「当面、中国国債には投資しない」と明記

GPIFの英語版年次報告書では、

  • FTSE世界国債インデックスに中国国債が組み入れられた後も、
  • 決済インフラや制度面の課題 などを理由に、
  • 「当面は中国国債には投資しない」 方針を明記しています。

そのため、少なくともGPIFに関しては、

2020年代前半の時点でも、中国国債の保有はゼロ、もしくは政策ベンチマーク上はカウントしない運用方針

を取っていることがわかります。

4-2. 「日本の公的マネー=中国国債だらけ」ではない

SNSなどでは、

  • 「日本の年金は中国国債に突っ込まれている」
  • 「日本の公的マネーは中国リスクだらけだ」

といった極端な言説も見られますが、少なくともGPIFについては、

慎重なスタンスが公式文書で確認できる

という点は重要です。

日本政府の外貨準備として保有している中国国債(前述の最大100億ドル枠など)と、GPIFのような年金マネーとは、

  • 意思決定主体も
  • 運用目的も

が異なるため、両者を混同しないよう注意が必要です。


5. 民間金融機関による中国国債保有の可能性

日本全体としての「中国国債保有額」を正確に把握できないもう一つの理由は、

民間金融機関や機関投資家がどれくらい中国国債を保有しているかが、統計上まとめて公表されていない

ことです。

5-1. メガバンク・保険会社・投資信託など

  • メガバンクや大手保険会社
  • アセットマネジメント会社
  • 投資信託・ETF

などは、

  • 金利水準
  • 分散投資
  • インデックスへの組み込み状況

などを見ながら、中国国債や中国の政策金融債をポートフォリオに組み入れている可能性があります。

しかし、これらは通常、

  • 「外国債券」
  • 「新興国債券」

といった大きなカテゴリーで公表されることが多く、

「そのうち中国国債が何割か」「人民元建てがどれくらいか」

までを外部から把握するのは容易ではありません。

5-2. カストディ(保管機関)経由の保有で国籍が見えにくい

さらに、国際的な債券投資では、

  • 香港
  • ロンドン
  • ルクセンブルク
  • シンガポール

などの国際金融センターにある保管機関名義で債券を保有することが一般的です。

そのため、仮に

  • 日本の機関投資家が香港のカストディアンを通じて中国国債を持っている

というケースがあっても、統計上は

「香港の投資家が保有している中国国債」

と見えてしまい、日本の投資家の持ち分を正確に集計することは難しくなります。


6. SNSで広がる「日本の中国国債●十兆円」論の問題点

6-1. よくある主張のパターン

SNSや動画サイトでは、

  • 「日本は中国国債を●十兆円も買わされている」
  • 「日本政府が中国国債を7兆円売却した」
  • 「日本の年金が中国国債漬けになっている」

といったショッキングなタイトルのコンテンツが散見されます。

しかし、こうした主張の多くは、

  • 具体的な出典が示されていない
  • 出典をたどっても、単なる憶測や誰かのコメント止まり
  • 米国債・日本国債・中国の対外融資など、別々の話を混同している

といった問題を抱えています。

6-2. 「7兆円売却」などの数字の出どころ

特に「日本政府が中国国債を7兆円売却した」といった情報は、

  • 実際には 「日本国債を中国が売却した」 というニュースや
  • 全く別の「対外資産の評価損益」

などと混ざって伝わっているケースも見受けられます。

現時点で、

日本政府や日本銀行が「中国国債を●兆円売却した」と公式に発表した事実は見当たりません。

数字だけが独り歩きしている可能性が高く、慎重に見る必要があります。

6-3. ファクトチェックのポイント

日本の中国国債保有額に関する情報をチェックする際には、

  • 財務省・日本銀行・GPIFなどの公式資料を確認する
  • IMFやBISなどの国際機関の統計と照らし合わせる
  • 「米国債の話なのか」「日本国債なのか」「中国の対外融資なのか」を切り分ける

といった点を意識することが重要です。


7. まとめ:日本の中国国債保有額、どう考えるべきか

最後に、本記事のポイントを整理します。

  • 日本は2012年前後に、外貨準備の一部として 最大約100億ドル(65億元)規模の中国国債を購入する方針 を示しました。これは当時の外貨準備全体の1%未満であり、象徴的な意味合いが大きいものでした。
  • その後、実際にどの程度購入し、どのようにロールオーバーしてきたかについて、詳細な数字は公表されていません。
  • 日本の外貨準備全体は2025年時点で約1.3兆ドル規模ですが、通貨別・銘柄別の内訳は公表されておらず、「中国国債の現在の正確な保有額」を外から知ることはできません。
  • 世界全体で見ても、人民元の外貨準備に占めるシェアはまだ数%レベルであり、日本においても中国国債の比率は外貨準備全体の中でごく一部にとどまっていると考えられます。
  • 公的年金のGPIFは、決済インフラ等の理由から 「当面は中国国債に投資しない」 方針を年次報告書で明記しており、「日本の年金が中国国債だらけ」というような主張は事実と大きく異なります。
  • 民間金融機関や機関投資家が中国国債を保有している可能性はありますが、統計上は「外国債券」の一部としてまとめられ、国別・通貨別に細かく把握することは困難です。
  • SNS等で広がる「日本は中国国債を●十兆円も持たされている」「日本政府が中国国債を一気に売却した」といった話は、現状では信頼できる一次情報に裏付けられていないものが多く、慎重なファクトチェックが必要です。

以上を踏まえると、現時点で言えるのは、

日本の中国国債保有額は、外貨準備・公的マネー全体から見ればごく一部にとどまっているとみられるものの、正確な金額や比率を示す公式統計は存在しない

ということです。

今後、人民元の国際化が進み、各国の外貨準備に占める人民元資産の比率が高まれば、日本の中国国債保有もじわじわ増えていく可能性があります。しかし、その場合であっても、

  • 外貨準備全体の中での位置づけ
  • 為替リスク・地政学リスクとのバランス

を踏まえた慎重な議論が求められる点は変わりません。

「日本の中国国債保有額」というテーマは、単なる数字探しではなく、

  • 日本の外貨準備運用
  • 人民元の国際化
  • 日中関係・国際金融秩序

といったより大きな文脈の中で捉えることが大切だと言えるでしょう。

 

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