EV(電気自動車)、風力発電、スマホ、半導体、そして防衛産業まで――現代のハイテク社会は「レアアース(希土類元素)」なしでは回りません。ニュースでは「中国が握っている」「供給が止まると大変」といった話題が多いですが、そもそも世界のどこにどれくらい埋蔵されているのでしょうか。
この記事では、最新の推計にもとづく「レアアース埋蔵量(リザーブ)」の国別ランキングをわかりやすく整理し、数字の読み方や背景、今後の見通しまでまとめます。
レアアースは、周期表で「ランタノイド15元素+スカンジウム+イットリウム」の計17元素の総称です。代表例はネオジム、ジスプロシウム、テルビウム、セリウム、ランタンなど。
「レア(希少)」といっても地殻中に少ないわけではなく、濃集した鉱床が少ない/分離精製が難しいために希少資源扱いされます。
ランキングで使われる「埋蔵量(Reserves)」は、
のことです。
つまり、
などで埋蔵量は毎年けっこう動きます。
(例:ベトナムやロシアの埋蔵量が、報告精査で大幅に下方修正された年があります。)
最新の国際推計(レアアース酸化物換算)をもとにした上位ランキングは次の通りです。
世界全体の埋蔵量は約1.2億トン規模とされ、中国が「量」でも最大クラスであることが分かります。
中国は内モンゴルのバヤンオボ鉱山など巨大鉱床を複数持ちます。加えて採掘・分離・精製・磁石製造まで一貫した産業チェーンを国内に持つのが最大の強み。
という点で世界の中枢にいます。
南米最大の資源国。近年、イオン吸着型粘土鉱床などの開発が進み、**“中国以外の磁石用レアアース供給地候補”**として注目が急上昇しています。
沿岸部の**モナザイト砂(海浜砂鉱床)**にレアアースが多いのが特徴。政府主導で精製・磁石産業の育成に力を入れ、将来的に供給国としての存在感が増すと見られています。
マウント・ウェルド鉱山を中心に、採掘・濃縮のインフラが整っている非中国圏の代表格。 ただ、精製部分は海外(マレーシアなど)に依存しており、サプライチェーン強化が課題です。
埋蔵量は大きい一方、採掘・加工の実働規模はまだ小さいのが現状。欧米制裁や投資環境の問題もあり、どこまで実用化・輸出できるかは政治情勢に左右されます。
かつて“世界2位級”とされた埋蔵量が、報告再評価で大幅に下方修正されました。量は減ったものの、中国隣接の地理と新規開発余地から、依然として重要な供給候補地です。
カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山などが中心。採掘量は多いのに埋蔵量順位が低いのは、採算条件や資源評価の厳しさが影響しています。 米国は「採掘はできるが精製が弱い」ため、中国依存を減らす目的で国内精製や同盟国連携を急いでいます。
人口が少ない一方で資源は巨大。環境規制と政治判断(対中・対欧米)で開発が左右されます。**“将来の潜在エース”**のような立ち位置です。
レアアースは、他の鉱物よりも埋蔵量の修正が激しいジャンルです。
など、各国の報告精度や採算前提が変わるとランキングも変わります。
さらに最近では、
といった動きがあり、“公式に埋蔵量へ計上されるかどうか”が次の注目点になります。
レアアースは、「掘る」より「分けて精製する」ほうが難しい資源です。
そのため、
埋蔵量が多くても、精製できなければ意味が薄い
という構造が生まれます。
ここで中国が圧倒的に強いのは、採掘量だけでなく精製・磁石製造まで長年の蓄積があるためです。
日本はレアアースをほぼ輸入に頼ります。
これらの競争力は、安定調達できるかどうかに直結。
過去に中国が輸出制限を示唆した際、日本の産業が大きく揺れた経験もあり、
といった“脱・一国依存”が国家戦略になっています。
レアアース市場は、
で需要が中長期的に増える方向です。
一方で供給は、
によって一気に増えにくい。
その結果、
という構図はしばらく続く可能性が高いでしょう。
レアアースは“地中の量”だけでなく、“地上の産業と政治”で価値が決まる資源です。ランキングを入り口に、供給網のニュースにも注目していくと、世界の動きがよりクリアに見えてきます。