松原全宏の経歴
東大病院准教授に何が起きたのか
2025年11月19日、東京大学医学部附属病院(東大病院)の救急・集中治療科の医師であり准教授でもある松原全宏(まつばら・たけひろ)容疑者が、医療機器メーカーからの奨学寄付金をめぐる収賄容疑で警視庁に逮捕されたというニュースが報じられました。
本記事では、現在報道などで明らかになっている情報をもとに、松原全宏容疑者の経歴を時系列で整理しつつ、
- どのようなキャリアを歩んできた医師だったのか
- どのような研究・診療分野を専門としてきたのか
- 今回の収賄容疑はどのような文脈の中で起きたのか
といった点を分かりやすくまとめます。
※本記事は、報道や公的データベースに基づいて経歴を整理したものであり、刑事事件については「容疑」の段階であること、無罪推定の原則があることを前提に記載しています。
松原全宏とはどんな人物か
まずは、現在判明しているプロフィールを簡単に整理します。
- 氏名:松原 全宏(まつばら たけひろ)
- 年齢:53歳(2025年時点)
- 所属:東京大学医学部附属病院 准教授
- 主な担当領域:
- 救急・集中治療医学
- 整形外科領域(特に外傷診療、大腿骨インプラントなど)
- 役職(逮捕前時点):
- 東京大学医学部附属病院 救急・集中治療医学 准教授
- 外傷診チーフ
- Hip Fracture Board 副代表 など
- 学位:博士(医学)(東京大学)
公式プロフィールや研究者データベースによれば、松原容疑者は東京大学医学部附属病院を拠点に、整形外科学と救急医学の両分野で長年にわたって活動してきたエリート医師であり、研究面でも基礎・臨床研究に携わってきた人物です。
年表でみる松原全宏の経歴
ここからは、公開情報をもとに時系列で経歴を整理していきます。
1970年代前半〜 生い立ち・学歴
- 1972年ごろ:
- 報道によれば、1972年生まれとされています(2025年時点で53歳とされているため)。
- 出身地については、公的に確認できる情報はなく、現時点では不明です。
- 1980年代後半〜1990年代前半:
- 都内の有名私立高校に通っていたとする報道があります。
- 具体的な高校名は公式には明らかになっておらず、推測レベルの情報も含まれるため、本記事では言及を控えます。
- 1990年代前半〜1997年:
- 東京大学医学部に進学。
- 1997年に東京大学医学部を卒業したと複数の報道で伝えられています。
1997年〜2002年 東大病院での医師としてのスタート
- 1997年:
- 東京大学医学部を卒業後、東京大学医学部附属病院に医師として入職したとされています。
- ここから、一貫して東大病院を主な職場とするキャリアが始まります。
- 1990年代後半〜2002年ごろ:
- 公式な詳細職名は公開されていませんが、大学病院の医師として臨床経験を積み、整形外科や救急医療の現場で症例を重ねていった時期と考えられます。
2003年〜2006年 東京大学・埼玉医科大学での助手時代
研究者データベース「KAKEN」によると、2000年代前半からは教育・研究にも本格的に関わるようになります。
- 2003年度:
- 東京大学医学部附属病院 教務職員として勤務。
- この頃から、整形外科学関連の研究プロジェクトに関与し始めています。
- 2004〜2005年度:
- 東京大学医学部附属病院 助手(整形外科関連)として在籍。
- 軟骨分化や関節形成に関する基礎研究プロジェクトに参加し、学術的なキャリアを築き始めます。
- 2005〜2006年度:
- 埼玉医科大学 医学部および救命救急センターの助手を務める。
- 整形外科のみならず、救急医療の現場にも関わり始め、のちの「救急・集中治療医学」への専門性の土台を築いたとみられます。
2007年〜2013年 東京大学医学部附属病院への復帰と助教としての活動
- 2007年度:
- 東京大学医学部附属病院 医員として復帰。
- 東大病院に戻り、大学病院での診療・教育に再び本格的に関わります。
- 2009〜2013年度:
- 東京大学医学部附属病院 助教として勤務。
- この時期、整形外科学を中心に、軟骨、骨、関節形成、再生医療などをテーマとする研究に関わり、研究代表者としてのプロジェクトも多数担当しています。
- 整形外科医として臨床の第一線に立ちつつ、基礎研究も行う「大学病院医師らしいキャリア」を歩んでいたといえます。
2012〜2015年 講師・特任講師として教育・研究の比重が増加
- 2012年度:
- 東京大学医学部附属病院 特任講師に就任。
- 同時期に、講師としても登録されており、教育・研究・診療の三本柱を担う存在として位置づけられていました。
- 2012〜2015年度:
- 東京大学医学部附属病院 講師として在籍。
- 整形外科学分野の研究代表者として、関節再生や骨軟骨代謝に関する研究プロジェクトを主導。
- 同時に、救急医療や医療情報システムに関する共同研究にも参加し、救急医療体制のIT化、臨床意思決定支援システムなどのテーマにも関与していました。
- 2014年度:
- 東京大学医学部附属病院 救急部・集中治療部 助教としても登録。
- この頃から、整形外科と救急・集中治療の橋渡し役としての立場がより明確になっていきます。
2014〜2021年 救急・集中治療医学と整形外科をまたぐ講師時代
- 2014〜2015年度:
- 東京大学医学部附属病院 特任講師として、救急・集中治療医学分野の教育・研究・診療に深く関与。
- 2018〜2021年度:
- 東京大学医学部附属病院 講師。
- この時期の研究テーマとしては、
- 異物反応や軟骨代謝に関する整形外科学の基礎研究
- 救急医療における臨床意思決定支援システム
- 救急外来の医療情報システム、医療安全、敗血症や急性呼吸窮迫症候群に関する研究 など、運動器疾患と救急集中治療をまたぐテーマが目立ちます。
こうした研究実績や臨床経験を背景に、救急・集中治療医学と整形外科の両方に専門性を持つ医師として評価されていたと考えられます。
2022年〜2025年 東京大学医学部附属病院 准教授としての活動
- 2022年度〜2025年度:
- 東京大学医学部附属病院 准教授。
- 東京大学の公式教員情報や救急・集中治療科のスタッフ紹介ページによれば、
- 「救急・集中治療医学 准教授」
- 「外傷診チーフ」
- 「Hip Fracture Board 副代表」 として紹介されており、外傷患者、とくに骨折患者の診療・治療方針の決定に大きな影響力を持つ立場にあったことが分かります。
- 専門分野・役割:
- 専門は「救急医学」「整形外科学」。
- 外傷患者、とくに大腿骨骨折などのインプラント治療に関する診療を担当。
- 救急・集中治療科の中で外傷診療の中心的役割を担い、医療機器の選定や導入にも関与するポジションにあったと報じられています。
こうした立場から、医療機器メーカーとの関係性や、インプラントの選定プロセスにおける影響力が、今回の事件でも焦点となっています。
研究分野と主な業績の概要
研究者データベースなどから、松原全宏容疑者の研究分野を大まかに整理すると、以下のようになります。
整形外科学分野の研究
- 関節形成や軟骨分化、骨代謝に関する基礎研究
- 軟骨細胞の分化や変性メカニズムの解析
- 関節再生、変形性関節症に関する研究
- 幹細胞や再生医療を用いた運動器再生の可能性の探索
これらの研究は、将来的な関節再生医療や変形性関節症の新しい治療法につながるテーマであり、学術的にも一定の評価を受けていた分野です。
救急・集中治療医学・医療情報分野の研究
- 救急医療における臨床意思決定支援システムの評価
- 救急外来の医療情報システム、電子カルテの活用
- 重症感染症や敗血症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に関する研究
- 救命救急センターの診療成績や医療体制の分析
これらは、医療現場の質向上や医療安全の確保を目指した研究であり、実臨床に直結するテーマが多いのが特徴です。
東大病院での役職と権限
東京大学医学部附属病院・救急・集中治療科のスタッフ紹介ページによると、松原全宏容疑者は、准教授として以下のような役割を担っていました。
- 救急・集中治療医学 准教授
- 外傷診チーフ
- Hip Fracture Board 副代表
- 救急科専門医・整形外科専門医
- ICLS(蘇生トレーニング)インストラクター
- JATEC(外傷初期診療ガイドライン)インストラクター
- 臨床研修指導医、東京消防庁指導医 など
これらから分かるのは、
- 臨床現場でのリーダー的立場にあったこと
- 若手医師の教育・指導にも深く関わっていたこと
- 救急医療と整形外科外傷診療を結びつけるキーパーソンであったこと
です。
また、報道によれば、整形外科・外傷診療の領域において、
- 大腿骨インプラントなどの医療機器の選定
- どのメーカーの製品を採用するかの判断
において、松原容疑者が実質的な決定権・影響力を持っていたとされています。この点が、医療機器メーカーからの寄付金と今回の収賄容疑を結びつける重要な要素となっています。

収賄容疑での逮捕(2025年11月)
逮捕容疑の概要
2025年11月19日、警視庁捜査2課は、松原全宏容疑者を収賄の疑いで逮捕しました。報道によれば、その概要は次のようなものです。
- 医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」(日本エム・ディ・エム株式会社)が扱う大腿骨インプラントなどの製品の使用について便宜を図る趣旨で、同社側から奨学寄付金名目で現金計80万円を東大への寄付として振り込ませた疑い。
- 2021年9月と2023年1月の2回にわたり、計80万円が東大側の口座に寄付金として送金されたとされています。
- 東大では、企業などからの寄付金の約85%が研究者個人の裁量で使える仕組みになっており、その一部が実質的な賄賂として私的流用された疑いが持たれています。
寄付金の使途とアップル製品購入
報道によれば、
- 2016年12月〜2023年1月にかけて、日本エム・ディ・エム社など5社から約300万円の寄付金が松原容疑者側に送金されていたとされています。
- このうちの一部は、東京大学の学内生協で米アップル社製のタブレット端末やパソコンを購入する費用に充てられていたとされています。
- それらの機器は、親族へのプレゼントとして渡されていた可能性があると見られ、警視庁が詳しい経緯を調べています。
寄付金は本来、「研究や教育の充実」を目的としたものであり、私的な物品購入に用いられていたとすれば、その部分が「賄賂」にあたると判断された形です。
認否と今後の捜査
- 松原全宏容疑者の逮捕時点で、警視庁は容疑に対する認否を明らかにしておらず、報道でも本人の具体的なコメントは伝えられていません。
- 事件は、別の医療機器関連の捜査から派生して発覚したとされており、今後、
- 他社からの寄付金約300万円の全体像
- それぞれの寄付金の使途
- 病院内の決裁・監査のプロセス などが詳しく調べられていく見通しです。
事件が投げかける問い——エリート医師の経歴と寄付金制度の問題
松原全宏容疑者の経歴を時系列で追っていくと、
- 東京大学医学部を卒業
- 東大病院・埼玉医科大学などで整形外科・救急医療の経験を積む
- 東大病院助教・講師として研究と教育に携わる
- 救急・集中治療医学と整形外科をつなぐ専門家として准教授に就任
- 外傷診療のチーフ、Hip Fracture Board副代表として実務の中心を担う
という、エリート医師としての典型的な成功ルートをたどっていたことが分かります。
一方で、今回の逮捕容疑は、
- 企業からの「奨学寄付金」が、研究や教育ではなく私的な物品購入に使われた疑いがあること
- 寄付金制度が、医療機器の選定権限を持つ医師とメーカーとの間で、癒着の温床になり得ること
といった、制度の構造的な問題も浮き彫りにしています。
松原容疑者個人の刑事責任の有無は、これからの捜査・裁判で明らかにされていくべきものです。しかし同時に、
- 大学病院における寄付金管理のあり方
- 企業と医療現場の適切な距離感
- 医療機器選定の透明性
といったテーマについて、社会全体で考え直す契機となる事件であることも確かです。
まとめ
本記事では、公開情報をもとに松原全宏容疑者の経歴を時系列で整理しました。
- 東京大学医学部を卒業し、東大病院を中心に整形外科・救急医学の専門家としてキャリアを重ねてきたこと
- 助教・講師・特任講師を経て、2022年には東京大学医学部附属病院の准教授に就任し、外傷診療の中心的な役割を担っていたこと
- その一方で、医療機器メーカーからの奨学寄付金をめぐって、研究・教育と無関係な物品購入に流用した疑いが持たれ、2025年11月に収賄容疑で逮捕されたこと
といった点が見えてきます。
今後、捜査や裁判が進むなかで、新たな事実が明らかになる可能性があります。本記事の内容も、そうした新しい情報に応じてアップデートされるべき性質のものです。
いずれにせよ、今回の件は、
- 一人のエリート医師のキャリアとその落差
- 医療現場と企業の関係をめぐる構造的な問題
の両方を映し出す象徴的な事件と言えるでしょう。