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オーバーツーリズム対策

オーバーツーリズム対策

近年、日本でも世界各地でも「オーバーツーリズム」という言葉を耳にする機会が増えています。観光客が増えることは経済にとっては良い面もありますが、一定の場所や時期に人が集中し過ぎると、地域の暮らしや環境、文化資源に大きな負担がかかります。その結果、「観光公害」と呼ばれるような問題が起き、地元の人も旅行者もストレスを感じる状況が生まれてしまいます。

この記事では、そもそもオーバーツーリズムとは何かを整理したうえで、自治体や観光業界、地域住民、そして旅行者一人ひとりが取り組めるオーバーツーリズム対策について、できるだけ具体的に解説していきます。


オーバーツーリズムとは何か

オーバーツーリズムとは、ある観光地に許容量を超える数の観光客が訪れることで、地域社会や自然環境、文化資源などに悪影響が出ている状態を指します。

オーバーツーリズムがもたらす主な影響

  • 生活環境への負担
    • 通勤・通学時の混雑、騒音、ゴミの増加、違法駐車などにより、地元住民の生活の質が下がる。
    • スーパーや公共交通機関が観光客で混み合い、日常的な買い物や移動に支障が出る。
  • 自然環境へのダメージ
    • 登山道や海岸、自然公園などでの踏み荒らしやゴミ放置。
    • 野生動物への悪影響や景観の悪化。
  • 文化・コミュニティへの影響
    • 伝統的な商店や住宅が、観光客向けの土産物店や宿泊施設に置き換わり、街の風景や生活文化が変質する。
    • 租税負担や家賃高騰により、長年住んでいた住民が住み続けることが難しくなる。
  • 旅行者自身の満足度低下
    • 名所が大混雑し、長時間の行列や写真撮影の順番待ちで疲れてしまう。
    • 期待していた「ゆったりとした観光」ができず、「人混みを見に来た」ような状態になる。

こうした問題が長期間続くと、「観光はもういらない」「観光客に来てほしくない」という声が地元で強まり、観光地自身のイメージ低下にもつながります。そのため、早い段階からバランスの取れた対策を進めていくことが重要です。


オーバーツーリズムが起きる主な原因

オーバーツーリズムは、単一の要因ではなく、複数の要因が重なり合って発生します。代表的なものを整理すると次のようになります。

  1. 航空運賃の低価格化や交通網の発達
    • LCC(格安航空会社)の普及や高速鉄道網の整備により、遠方の観光地にも短時間・低コストで行けるようになった。
  2. SNSの拡散力
    • 写真映えするスポットが「バズる」ことで、短期間に観光客が集中する。
    • ハッシュタグや位置情報の共有により、今まで知られていなかった場所にも急に人が押し寄せることがある。
  3. クルーズ船や大型ツアーの集中寄港
    • 短時間で大量の観光客が旧市街地などに流入し、一気に混雑が高まる。
  4. 民泊や短期賃貸の急増
    • 住宅がホテルのように使われることで、宿泊可能な人数が急激に増える一方、地元住民の住居費が高騰することがある。
  5. 観光プロモーションの成功と偏り
    • 国や自治体のプロモーションで特定の都市やエリアだけが有名になり、旅行者が同じルート・同じシーズンに集中してしまう。
  6. 観光政策やルール整備の遅れ
    • 急増する観光客に対し、人数制限やマナー啓発、インフラ整備が追いつかない。

原因が多面的である以上、対策も「一つの正解」で解決できるものではありません。国・自治体、観光業界、地域住民、旅行者がそれぞれの立場から取り組みを進めていく必要があります。


自治体・国が行うべきオーバーツーリズム対策

まずは、ルールを作り、インフラを整備する立場にある自治体や国の対策から見ていきます。

1. 入場制限や予約制の導入

観光地のキャパシティを超えないよう、人数や時間帯を調整する仕組みです。

  • 人気の寺社や美術館、世界遺産などで、事前予約制や時間指定入場を導入する。
  • 山岳地域や島しょ部では、一日の入山者数・入島者数に上限を設け、安全面も含めて管理する。

こうした仕組みにより、混雑を平準化し、施設や自然環境への負荷も減らすことができます。

2. 観光税・入域料の活用

観光客から一定の税や利用料を徴収し、その収入を環境保全やインフラ整備、清掃、警備、地域振興に充てる方法です。

  • 宿泊税(ホテルや旅館に泊まる際に課税)
  • 入山料・入域料(自然公園や島への入場時に徴収)
  • 日帰り観光客向けのエントリーフィー

料金設定を工夫することで、ピーク時の過密を抑えつつ、地域に還元する財源も確保できます。

3. インフラ整備とゾーニング

人の流れを分散させ、生活エリアと観光エリアのバランスを取る取り組みです。

  • 歩行者専用道路や一方通行の設定により、危険な混雑を避ける。
  • トイレやゴミ箱、案内看板を整備し、マナー違反が起きにくい環境を整える。
  • 住宅街や学校周辺など、静けさが求められるエリアには観光バスの進入制限を設ける。

4. 地域分散・シーズン分散を促すプロモーション

一部の有名観光地だけに人が集中しないようにするための工夫です。

  • 同じ都道府県・同じエリアでも、あまり知られていない町や季節を紹介する。
  • 春や秋のピークシーズンだけでなく、オフシーズンの魅力を積極的に発信する。
  • 周遊パスやスタンプラリーを用意し、旅行者が複数のエリアを回るよう促す。

5. 法令や条例によるルール作り

迷惑行為や違法宿泊施設を抑制するには、明確なルールと罰則が必要です。

  • 路上飲酒や深夜の騒音、無断撮影などに対する禁止事項・罰金を定める。
  • 短期賃貸や民泊に関して、営業日数やエリアの制限、登録制度を整える。
  • 観光客向けの注意事項を多言語で分かりやすく掲示し、ルールを事前に理解してもらう。

6. データとテクノロジーの活用

リアルタイムの混雑状況や予約状況を可視化し、観光客の行動を分散させる取り組みも広がっています。

  • 混雑度を示すアプリやウェブサイトを整備し、「今、比較的空いている場所や時間帯」を提示する。
  • 交通系ICデータやスマホ位置情報などの統計をもとに、ピーク時期や混雑ルートを分析し、対策に活かす。

観光業界・事業者ができるオーバーツーリズム対策

次に、旅行会社や宿泊施設、交通事業者など、観光に関わる事業者が取り組める対策を見ていきます。

1. ツアー商品・プランの工夫

  • ゴールデンルート(有名観光地を巡るコース)だけでなく、周辺地域や地方都市を組み合わせたツアーを提案する。
  • 大型団体ツアーばかりではなく、少人数・テーマ型ツアーを増やし、観光地への負荷を抑えつつ満足度を高める。
  • 早朝や夜間など、混雑を避けた時間帯の観光プランを用意する。

2. 価格設定やインセンティブ

  • オフシーズンや平日に割安なプランを設け、旅行時期の分散を促す。
  • 連泊割引や、周辺地域との周遊割引を設け、長期滞在と地域分散を組み合わせる。

3. 地域との連携

  • 地元の商店街や生産者と連携し、地域の食や文化を体験できるプログラムを企画する。
  • 収益の一部を環境保全や文化財保護の基金に寄付する仕組みを作り、透明性のある形で公表する。

4. マナー啓発と情報提供

  • 予約時やツアー参加時に、行き先のルールやマナーをしっかり説明する。
  • 宿泊施設や観光バス内に、多言語で分かりやすいマナー案内を掲示する。

観光業界が「お客様は神様だから、何でも許される」という考え方から一歩踏み出し、「地域と観光客の双方が尊重される仕組み」を作っていくことが、持続可能な観光への第一歩と言えます。


地域住民・コミュニティの役割

オーバーツーリズム対策では、地域住民の声や参加も欠かせません。

1. 意見を届ける場づくり

  • 自治体や観光協会が、住民からの意見や苦情を受け止める場(対話会・説明会・オンラインフォームなど)を整える。
  • 住民側も、感情的な反発だけでなく、具体的な問題点や改善提案を伝えることで、建設的な議論につなげる。

2. 住民主体の観光コンテンツ

  • 地元の人がガイドを務める街歩きツアーや体験プログラムを企画し、観光客との交流の機会を作る。
  • その土地ならではの文化や暮らしを、無理のない範囲で見せることで、「消費されるだけの観光地」というイメージから脱却する。

3. 空き家・空き店舗の活用

  • 空き家をルールに沿った宿泊施設やコミュニティスペースとして活用し、無秩序な民泊増加を防ぐ。
  • 地元の人と観光客が共に利用できるカフェやイベントスペースを設けることで、双方の理解を深める場にする。

旅行者一人ひとりにできるオーバーツーリズム対策

オーバーツーリズムは「どこか遠くの問題」に見えますが、実際には旅行者一人ひとりの行動の積み重ねでもあります。次のような点を意識するだけでも、負荷を減らすことができます。

1. 時期と時間帯をずらす

  • ゴールデンウィークやお盆、年末年始などのピークを避けて旅行時期を選ぶ。
  • 同じ日でも、朝早い時間帯や夜の時間帯に観光することで、混雑を避けつつゆっくり楽しめる。

2. 行き先を分散させる

  • 有名観光地だけでなく、その周辺地域や別の町にも足を延ばしてみる。
  • SNSで話題のスポットだけではなく、自分なりに情報を集めて、まだ知られていない場所を訪ねてみる。

3. マナーを守る

  • 住宅街や静かなエリアでは、話し声や音楽のボリュームを控える。
  • 写真撮影の際は、撮られたくない人が写り込まないよう配慮し、撮影禁止の場所のルールを守る。
  • ゴミは持ち帰るか、決められた場所に捨てる。

4. 違法なサービスを利用しない

  • 許可を得ていない宿泊施設や、現地ルールに反したツアーには参加しない。
  • 極端に安い料金の裏に、劣悪な労働環境や法令違反が隠れていないか意識する。

5. 地元経済に貢献する

  • 大手チェーン店だけでなく、地元の小さな飲食店や商店も利用する。
  • 地元産の食材や手作りの工芸品を購入することで、その土地の文化を支えることにつながる。

旅行者が「お客様だから何をしても良い」ではなく、「お邪魔させてもらっている」という感覚を持つことが、オーバーツーリズム対策の大きな一歩になります。


事例から見るオーバーツーリズム対策の方向性

世界各地や日本国内では、さまざまなオーバーツーリズム対策が試みられています。ここでは、代表的な方向性をかんたんに整理します。

1. 山岳・自然観光地での入山規制

  • 登山ルートへの入山者数を制限し、事前予約制を導入する。
  • 料金の一部を安全対策や自然保護、トイレ整備、救助活動の費用に充てる。

これにより、遭難リスクの軽減と環境負荷の抑制が期待できます。

2. 歴史的都市での観光税・日帰り客対策

  • 宿泊者だけでなく、日帰り観光客からも一定の利用料を徴収する仕組みを試験的に導入する都市が増えています。
  • 収入を旧市街の修繕や清掃、景観保全、公共交通の整備費用に充てることで、「観光による負担を観光からの収入でカバーする」循環を目指しています。

3. 小規模な町や集落でのバス台数制限

  • 住宅密集地や狭い道路を抱える港町・古い町並みでは、観光バスの台数を制限したり、駐車場からシャトルバスや船で移動する「パークアンドライド方式」「パークアンドクルーズ方式」を採用したりする例があります。
  • 自家用車の流入を抑制することで、渋滞や違法駐車、騒音の軽減につながります。

4. 住宅市場と観光のバランスをとるルール

  • 短期賃貸物件の数や営業日数を制限し、住宅が過度に観光用に転用されないようにする取り組みも広がっています。
  • これにより、地元住民が住み続けられる状況を維持しつつ、観光需要とのバランスを取ろうとしています。

ビジネスチャンスとしてのオーバーツーリズム対策

オーバーツーリズム対策は「規制」や「我慢」だけではありません。新しいサービスやビジネスの種にもなり得ます。

  • 混雑状況をリアルタイムで可視化するアプリやプラットフォーム
  • 地方やオフシーズンへの旅行を提案するオンラインメディアや旅行会社
  • 環境や地域社会に配慮した宿泊施設・ツアーを認証する仕組み
  • ワーケーションや長期滞在を組み合わせた、地域と関わるスタイルの旅行商品

「人が多すぎるから観光をやめる」のではなく、「観光スタイルを変えながら続ける」という発想に立つことで、新しい価値を生み出すことも可能です。


まとめ: 「来てよかった」と「住んでいてよかった」を両立させる

オーバーツーリズム対策は、単に「観光客を減らせばいい」という話ではありません。観光は、多くの地域にとって重要な産業であり、文化交流のきっかけでもあります。一方で、行き過ぎた観光は、地域社会や環境に深刻な負荷を与えます。

だからこそ大切なのは、

  • 自治体や国が、データと現場の声を踏まえたルール作りとインフラ整備を進めること
  • 観光業界が、地域との共生を前提に商品設計や情報発信を行うこと
  • 地域住民が、観光との向き合い方を主体的に考え、声を上げていくこと
  • そして旅行者一人ひとりが、「お邪魔させてもらっている」意識を持って行動すること

この四つがそろって初めて、「来てよかった」と「住んでいてよかった」を同時に実現できる観光地が生まれていきます。

オーバーツーリズムは、決して遠い国や一部の有名観光地だけの問題ではありません。私たち一人ひとりの旅のあり方が、これからの観光のかたちを左右すると言っても過言ではありません。次の旅行を計画するときには、「少しだけ時期をずらす」「少しだけ行き先を広げる」「少しだけマナーに気を配る」など、小さな工夫を取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

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