ジュゴンは、浅い海に生える海草を食べて暮らす海の哺乳類です。丸みのある体、穏やかそうな表情、ゆったりと泳ぐ姿から「海の牛」とも呼ばれ、人魚伝説のモデルになった動物としても知られています。
一方で、ジュゴンは世界的に数を減らしている希少な生き物でもあります。特に日本周辺のジュゴンは非常に少なく、沖縄周辺では地域絶滅の危機が指摘されてきました。
この記事では、ジュゴンの特徴、マナティーとの違い、食べ物、人魚伝説との関係、日本での生息状況、鳥羽水族館で見られるジュゴン、そして絶滅危惧種としての保護の現状まで、わかりやすく解説します。

ジュゴンは、哺乳類の仲間で、海牛目(カイギュウ目)・ジュゴン科に分類される動物です。学名はDugong dugonです。
現在生きているジュゴン科の動物は、ジュゴン1種だけです。かつてはステラーカイギュウという大型の仲間もいましたが、人間による乱獲などの影響で18世紀に絶滅しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 哺乳類・海牛目・ジュゴン科 |
| 学名 | Dugong dugon |
| 体長 | およそ2.5〜3.5メートル |
| 体重 | およそ300〜500キログラム |
| 食べ物 | 主に海草 |
| 生息地 | インド洋から西太平洋の浅い沿岸域 |
| 寿命 | 70年以上生きることもあるとされる |
ジュゴンは肺で呼吸するため、魚のように水中でずっと過ごすことはできません。海の中で暮らしていますが、定期的に水面に浮上して呼吸します。
ジュゴンの体は、海の中をゆっくり泳ぐのに適した流線型をしています。体色は灰色から茶色がかった色で、皮膚は厚く、成長した個体では背中や体表に傷あとが見られることもあります。
ジュゴンの見た目で特にわかりやすい特徴は、尾の形です。ジュゴンの尾はイルカやクジラのような三日月型をしています。
この尾を上下に動かして、ゆったりと前へ進みます。前足はヒレのようになっており、方向を変えたり、体のバランスを取ったりするために使われます。
ジュゴンの口は下向きについています。これは、海底に生える海草を食べるのに適した形です。砂地や浅い海底に顔を近づけ、海草を口で掘り起こすようにして食べます。
この姿から、ジュゴンは「海の草食動物」「海の牛」と呼ばれることがあります。
ジュゴンとよく似た動物に、マナティーがいます。どちらも海牛目に属する哺乳類で、丸い体つきや草食性という点では共通しています。しかし、実際には別のグループの動物です。
| 比較項目 | ジュゴン | マナティー |
|---|---|---|
| 分類 | ジュゴン科 | マナティー科 |
| 尾の形 | 三日月型 | 丸いしゃもじ型 |
| 主な生息地 | インド洋〜西太平洋の海 | アマゾン川、カリブ海、大西洋沿岸など |
| 食べ物 | 主に海草 | 海草、淡水植物、水辺の植物など |
| 口の向き | 下向きで海底の海草を食べるのに適している | ジュゴンより前方に向いた印象がある |
もっとも見分けやすいポイントは、尾の形です。ジュゴンはイルカのような三日月型の尾、マナティーは丸いしゃもじ型の尾を持っています。
ジュゴンは、主に海草を食べる草食性の動物です。ここで注意したいのは、「海草」と「海藻」は違うという点です。
海藻は、ワカメ、コンブ、ノリのような藻類を指します。一方、海草は、海の中に生える種子植物です。陸上の植物と同じように根、茎、葉を持ち、花を咲かせる種類もあります。
ジュゴンが主に食べるのは、この海草です。浅い海に広がる海草藻場は、ジュゴンにとって食事場所であり、生きていくために欠かせない環境です。
ジュゴンは海草を食べるとき、海底に溝のような跡を残すことがあります。これを英語では「feeding trail」と呼ぶことがあります。
ジュゴンが海草を食べることで、藻場の一部が更新され、若い海草が再び伸びやすくなる場合があります。そのため、ジュゴンは海草藻場の環境に影響を与える重要な草食動物と考えられています。
ただし、ジュゴンが生きていくには、十分な広さの健康な海草藻場が必要です。埋め立て、海岸開発、水質悪化、船舶の増加などで藻場が失われると、ジュゴンの生息にも大きな影響が出ます。

ジュゴンは、浅い海の沿岸域を中心に暮らしています。単独で行動することもあれば、親子や少数の群れで見られることもあります。
ジュゴンは、餌となる海草を求めて広い範囲を移動することがあります。海草藻場の状態や季節、潮の流れ、人間活動の影響などによって、利用する場所が変わることもあります。
一見のんびりした動物に見えますが、生きていくためには広い海域と複数の餌場が必要です。
ジュゴンは、個体数が一度減ると回復しにくい動物です。その理由の一つが、繁殖のペースの遅さです。
つまり、混獲や船舶衝突、餌場の消失などで個体数が減ってしまうと、短期間で元に戻ることは難しいのです。
ジュゴンは、人魚伝説のモデルになった動物の一つといわれています。
昔の船乗りたちは、遠くからジュゴンやマナティーの姿を見て、人魚と見間違えたという説があります。特に、母親が子どもに授乳しているような姿が、人間の女性が赤ちゃんを抱いているように見えたのではないかと考えられています。
もちろん、現在の感覚で見るとジュゴンを人魚と見間違えるのは不思議に思えるかもしれません。しかし、長い航海の途中、揺れる海上から遠くに見える姿であれば、想像力が加わって伝説が生まれたとしても不自然ではありません。
また、「dugong」という名前は、マレー語系の言葉で人魚を意味する「duyung」に由来するとされています。ジュゴンと人魚伝説のつながりは、名前の面にも表れているのです。

ジュゴンは、インド洋から西太平洋にかけての熱帯・亜熱帯の沿岸域に分布しています。主に浅い海に暮らし、海草藻場がある場所を利用します。
代表的な生息地には、次のような地域があります。
特にオーストラリア北部は、世界的に見ても重要なジュゴンの生息地として知られています。一方で、地域によっては個体数が大きく減少しており、同じジュゴンでも生息地ごとの状況には大きな差があります。
日本では、沖縄県を中心とする南西諸島がジュゴンの分布の北限にあたります。
かつては沖縄周辺でジュゴンが目撃されることがあり、沖縄の民話や信仰の中にもジュゴンにまつわる話が残っています。しかし、近年は生息数が非常に少なくなり、日本周辺のジュゴンは地域絶滅の危機にあるとされてきました。
日本のジュゴンは、環境省レッドリストおよび沖縄県レッドデータブックで絶滅危惧IA類とされています。これは、ごく近い将来に野生で絶滅する危険性が極めて高いとされるカテゴリーです。
2019年には沖縄県今帰仁村で死亡個体が確認され、その後、しばらく確実な確認が乏しい状態が続きました。そのため、南西諸島のジュゴンはすでに地域絶滅した可能性も指摘されていました。
しかし、2024年には沖縄島東部や宮古諸島で採取された糞のDNA分析から、ジュゴン固有のDNAが検出されたことが公表されました。さらに、2025年には久米島近海でジュゴンとみられる個体が確認されています。
つまり、日本周辺のジュゴンは非常に厳しい状況にありますが、完全に姿を消したと断定できる段階ではありません。むしろ、わずかに残っている可能性があるからこそ、今後の調査と保護が重要になっています。
野生のジュゴンを日本で見ることは非常に難しく、沖縄の海で偶然出会えるような動物ではありません。生息数が極めて少ないうえ、ジュゴンへの接近は保護の観点からも慎重であるべきです。
一方、日本国内で飼育されているジュゴンを見られる場所として知られているのが、三重県の鳥羽水族館です。
鳥羽水族館では、メスのジュゴン「セレナ」が飼育されています。セレナは日本で唯一飼育されているジュゴンとして知られ、長年にわたり多くの来館者に親しまれてきました。
2026年4月には、セレナが入館39周年を迎えたことも発表されています。ジュゴンの飼育は非常に難しいため、長期飼育の実績は貴重です。
「日本でジュゴンを見たい」という場合、現実的には鳥羽水族館が最も確実な選択肢になります。
ジュゴンは、国際自然保護連合の評価で世界全体としては危急種とされています。ただし、地域によって状況は大きく異なり、日本周辺のように極めて深刻な危機にある個体群もあります。
ジュゴンが減少している主な理由には、次のようなものがあります。
ジュゴンにとって最も重要なのは、餌となる海草藻場です。埋め立て、港湾整備、海岸開発、赤土流出、水質悪化などによって藻場が失われると、ジュゴンは食べ物を得られなくなります。
海草藻場はジュゴンだけでなく、魚、甲殻類、貝類、ウミガメなど多くの生き物にとっても重要な場所です。そのため、ジュゴンの減少は海の環境全体の悪化を示すサインともいえます。
ジュゴンは、漁網にかかってしまうことがあります。呼吸のために水面に上がる必要があるため、網に絡まると溺死してしまう危険があります。
ジュゴンは繁殖のペースが遅いため、たとえ少数の死亡でも個体群に大きな影響を与える可能性があります。
浅い沿岸域は、人間の活動が集中しやすい場所です。漁船、観光船、レジャーボートなどが増えると、ジュゴンが船と衝突するリスクも高まります。
ジュゴンはゆったりと泳ぐ動物であり、船の接近に素早く反応できない場合もあります。
沿岸部の工事、船舶の音、軍事演習、観光活動なども、ジュゴンの行動に影響を与える可能性があります。
特に個体数が少ない地域では、わずかな環境変化が生息の継続に影響することがあります。
沖縄県名護市辺野古周辺の海域は、ジュゴンの餌となる海草藻場がある地域として知られてきました。一方で、この地域では米軍普天間飛行場の移設に伴う埋立工事が進められており、開発と自然保護の両立が大きな論点になってきました。
辺野古をめぐる議論では、ジュゴンそのものだけでなく、海草藻場、サンゴ礁、沿岸生態系、地域住民の生活、基地問題など、複数の要素が重なっています。
ジュゴン保護の観点からは、工事による海草藻場への影響、騒音や水質変化、船舶の増加などが懸念されてきました。一方で、事業を進める側は環境影響評価や保全措置を行っていると説明してきました。
この問題は、単純に「開発か自然保護か」という二択ではなく、希少生物の保護、地域の安全保障、住民生活、環境影響評価のあり方をどう考えるかという複雑なテーマです。
ジュゴンの保護には、国際的な取り組みと地域ごとの保全活動の両方が必要です。
ジュゴンは、ワシントン条約の附属書Iに掲載されており、国際取引が厳しく制限されています。また、移動性野生動物種の保全に関する条約でも保護対象とされています。
国際的には、ジュゴンそのものだけでなく、餌場である海草藻場を守ることが重要視されています。ジュゴンは広い範囲を移動するため、一つの国だけでなく、複数の国や地域が協力して保全を進める必要があります。
沖縄県では、ジュゴンの生息状況調査や保護方策の検討が行われています。目撃情報の収集、海草藻場の調査、普及啓発などを通じて、今後の保護につなげる取り組みが続けられています。
また、大学や研究機関によるDNA分析、地域の自然保護団体による調査、教育活動なども重要な役割を果たしています。
ジュゴンは姿を見ることが難しい動物ですが、糞、食み跡、目撃情報、DNA分析などを組み合わせることで、生息の手がかりを探ることができます。
意外に思われるかもしれませんが、ジュゴンは進化の系統で見るとゾウに近い仲間とされています。どちらも、遠い共通祖先から分かれて進化した動物です。
ジュゴンは海で暮らすようになり、ゾウは陸上で大型化しました。見た目はまったく違いますが、進化の歴史をたどるとつながりが見えてきます。
ジュゴンは海草を食べる草食動物で、ゆっくりと海底の植物を食べる様子から「海の牛」と呼ばれることがあります。
英語でも、ジュゴンやマナティーの仲間は「sea cow」と表現されることがあります。
ジュゴンは無口な動物に見えるかもしれませんが、実際にはさまざまな音を出して仲間とコミュニケーションを取ると考えられています。
「ピィー」「キュッ」といった高い音を発することがあり、親子のやりとりにも音声が使われるとされています。
ジュゴンは一般におとなしい印象を持たれる動物ですが、野生動物であることに変わりはありません。
もし海で偶然見かけた場合も、追いかけたり、触ろうとしたり、進路をふさいだりしてはいけません。観察する場合は距離を取り、地域のルールや保護ガイドラインに従うことが大切です。
日本周辺のジュゴンは極めて少数と考えられています。2019年以降、地域絶滅の可能性も指摘されていましたが、2024年には糞のDNA分析からジュゴンの存在を示す証拠が報告され、2025年には久米島近海で個体が確認されています。完全に姿を消したと断定する段階ではありませんが、非常に危機的な状況です。
日本で飼育されているジュゴンを見られる施設として知られているのは、三重県の鳥羽水族館です。メスのジュゴン「セレナ」が飼育されており、日本で唯一の飼育個体として知られています。
同じ海牛目の仲間ですが、別の動物です。ジュゴンはジュゴン科、マナティーはマナティー科に分類されます。見分けるポイントは尾の形で、ジュゴンは三日月型、マナティーは丸いしゃもじ型の尾を持っています。
主に海草を食べます。ここでいう海草は、ワカメやコンブのような海藻ではなく、海底に根を張って生える種子植物です。ジュゴンは浅い海の海草藻場を利用して暮らしています。
主な原因は、餌場である海草藻場の減少、漁業による混獲、船舶との衝突、沿岸開発、水質悪化などです。ジュゴンは繁殖のペースが遅いため、一度個体数が減ると回復に時間がかかります。
ジュゴンやマナティーは、人魚伝説のモデルになった動物の一つといわれています。昔の船乗りが、遠くから見たジュゴンの姿を人魚と見間違えたという説があります。
ジュゴンは、ただ珍しいだけの動物ではありません。海草藻場に依存して生きるジュゴンの姿は、沿岸の海がどれだけ健全に保たれているかを示す存在でもあります。
日本周辺のジュゴンは、極めて厳しい状況にあります。特に沖縄周辺では、長い間、地域絶滅の可能性も心配されてきました。しかし、DNA分析や目撃情報によって、わずかながらも生息の可能性が示されています。
だからこそ、今後の保護と調査が重要です。ジュゴンを守ることは、ジュゴンだけを守ることではありません。海草藻場、サンゴ礁、魚たち、そして人間の暮らしを支える海の環境を守ることにもつながります。
人魚伝説のモデルともいわれるジュゴンは、今も静かに海の中で生き続けています。その未来を守るためには、まず私たちがジュゴンのことを知り、海の環境に目を向けることが大切です。