ここ数年、「男消し構文」という言葉がSNSやネット記事で急速に広まりました。
これは、犯罪報道などで「加害者が男性」である事実が、ニュースの見出しや本文から意図的・無意識的に消えてしまう現象を指します。
例えば「千葉・船橋 コンビニでフィギュア奪う」といった見出しには、加害者の性別が書かれていません。ところが、女性が加害者の場合は「○歳女」や「女性●●容疑者」など、はっきり性別が書かれる傾向が強い。
なぜ、こうした差が生まれるのでしょうか?
「男消し構文」とは、主に次のような構造を指します。
たとえば以下のような例です:
「都内のスーパーで従業員が万引き」
→ 実際には男性だったが、性別は記事に出ない。
しかし女性ならこうなります:
「都内のスーパーで従業員の女が万引き」
このように、「加害者が男性」という情報が、ニュースの文章構造の中から“消える”現象を、ネットでは「男消し構文」と呼ぶようになりました。
ここで非常に重要なのが、まさにあなたが指摘された点です。
「なぜ男性の加害者は書かれないのか?」
それは多くの人が心の奥底でこう感じているからです。
「犯罪をするのは普通、男だろう。だからわざわざ書かなくても当然。」
実際、日本の犯罪統計を見ると、暴力事件や性犯罪、強盗などの加害者は圧倒的に男性が多いのが現実です。たとえば警察庁統計によると、性犯罪加害者のうち男性はほぼ全体の98%以上を占めています。
そのため、多くの人にとって「加害者は男である」という前提がほぼ“常識”になっている。つまり 男は加害者側の「デフォルト(標準)」 として扱われがちなのです。
この「当然男だろう」という感覚が、わざわざ「男」と書かない理由になり、結果的に男消し構文が生まれるのです。
社会学には「無徴性(unmarked)」という考え方があります。
これは、社会で多数派や標準と見なされる属性(例:男性、異性愛者、健常者など)が「当たり前すぎて」ラベルを必要としなくなる現象です。
たとえば:
同じ構造で、犯罪者も「言わなくても男だろう」と想定されてしまうのです。つまり、男は「書かなくていい存在」になりやすい。一方、女性が犯罪者だと珍しいと感じられ、ニュース価値として強調される結果、「女」「女性」と書かれる。これが男消し構文と女表記の差を生んでいる大きな理由です。
「男消し構文」が存在する理由はもう一つあります。
女性が加害者になると「珍しい」と思われるから、わざわざ書かれる。
社会の常識として、
「犯罪をするのは男。女が犯罪をするのは珍しい。」
という偏見が根強い。そのため女性が加害者だと、ニュースとしての“異例性”を強調する意図で「女」や「女性」と書かれがちです。
こうした見出しは実際によく見かけます。男性では書かれない部分が、女性だと強調される。
裏を返せば、男は犯罪者として「当たり前」だから書かれない、という構造があるのです。
性犯罪や暴力事件の加害者がほとんど男性だという事実は、社会構造の一部です。
しかし報道で男が書かれないと、その構造が見えなくなります。
たとえば:
結果、「誰が加害者か」という問題がぼやけ、暴力や性犯罪が個人の異常行動のように扱われてしまう危険があります。
加害者の性別を消す一方で、被害者の性別や年齢だけが詳しく書かれると、被害者ばかりがニュースで“晒される”ことになります。
「女性(〇〇歳)が被害に」
と強調されることで、読者に「自分も被害に遭うかもしれない」という恐怖を煽りつつ、加害の責任はぼやかされる。これも男消し構文が問題視される理由の一つです。
女性加害者が「女」と強調されることで、
「女性は本来、犯罪をしない。女がやるのは異常だ。」
という偏見を社会に植え付けてしまう危険もあります。
結果、女性加害者が過度に“特異”扱いされ、報道の中で「物珍しさ」や「異常性」ばかりが注目されるという問題が生じます。
はてな匿名ダイアリーなどの検証記事によると、男消し構文が特に目立つのはNHKです。職業名だけを用い、「男」「女性」といった性別をなるべく書かない傾向が強い。
一方、民放テレビやスポーツ紙などは、男性でも比較的「男」と表記することが多いようです。
「〇〇容疑者の男(◯歳)」
「会社員の男が女性を暴行」
こうした例はネットニュースでよく目にします。つまり、男消し構文はどのメディアにも共通する現象というわけではなく、媒体による差もあります。
男消し構文の是非をめぐって、意見は分かれます。
ただし多くの専門家が一致しているのは、
「なぜ書かないのかを説明するべきだ」
という点です。
たとえば、
など、理由を明示するだけでも信頼度が上がるはずです。
また、読者側のメディアリテラシーも重要です。「書かれていない情報」に目を向け、
「なぜ男と書かないのか?」 「もし女だったら書かれるのでは?」
と疑問を持つことが、男消し構文の温床を減らす第一歩になるでしょう。
男消し構文は単なる言葉の問題ではなく、社会が抱えるジェンダーの無意識を映し出しています。
こうした取り組みが、より公平で透明な報道に繋がるはずです。
「犯罪をするのは普通男」という社会通念は、確かに現実の統計とも結びついています。しかし、その「当たり前」によって性別情報が省略され続けることは、加害者像をあいまいにし、社会問題の不可視化を招きます。
あなたは「男消し構文」、どう思いますか?