少子化問題が深刻さを増しています。合計特殊出生率(女性が生涯に産む子どもの数)は、近年さらに低下し続け、日本社会の持続性が危ぶまれています。
政府もあらゆる対策を打ち出していますが、その多くは「結婚した後」の子育て支援や経済的補助に偏っています。たしかに子育てしやすい社会づくりは大事です。
しかし、私が思うに、少子化の本質的な原因はもっと手前――「結婚に至るまでの過程」に隠れているのではないでしょうか。出会い、恋愛、結婚へ至るまでの人間関係のあり方が、根本的に変わってしまったことが、今の深刻な少子化の大きな理由だと思うのです。
結婚して子どもを持つためには、まず男女が出会い、知り合い、その中で恋愛関係へ発展することが欠かせません。ところが現代は、この当たり前のプロセスがかつてないほど難しくなっています。
昭和の時代を振り返ると、当時の恋愛は今とは様子がずいぶん違っていました。
男性が強引だったり、執拗だったりするアプローチも珍しくなく、女性側が「観念して」最終的に恋愛関係や結婚に進む――そんなパターンが少なからず存在したのです。
もちろん今の価値観から見れば、それを単純に肯定することはできません。当時は男女間の社会的立場に格差があり、女性にとって不本意な結婚もあったでしょう。
しかし恋愛というものは、そもそもどちらかが「押す」ことで動き出す部分が大きいのも事実です。昭和の恋愛には、そうした男性の積極性が確かに存在し、その積極性が恋愛や結婚へつながるきっかけを作っていたのです。
ところが現代はどうでしょう。
「ストーカー」という言葉が社会に深く浸透し、男性から強引さや積極性がすっかり影を潜めてしまいました。
もちろん、しつこい誘いや不快なアプローチが取り締まられるのは当然のことです。社会が健全になるためには必要な変化でしょう。
しかし、その一方で「好きな人に声をかける」ことすら、リスクとみなされる時代になったのも事実です。
恋愛関係へ発展させるには、やはり男性が女性にアプローチすることが多いのが現実です。しかし実際には、相手が恋愛感情を持っているかどうかなど、最初の時点ではわからないことの方が圧倒的に多い。
だからこそ、男性はリスクを取ってイニシアティブをとるわけです。声をかける、食事に誘う、連絡を取る――それらはすべて相手に拒絶される可能性を含む行為です。
その結果、何割かはうまくいき、何割かはうまくいかない。ある意味で恋愛は「確率のゲーム」でもあり、本来ならばリスクを取らなければ成立しないものでした。
しかし現代では、その「確率のゲーム」に挑戦すること自体が、大きなリスクと見なされるようになりました。
少しでも勇気を出してアプローチしようものなら、「セクハラだ」と言われたり、下手をすれば訴えられたりする危険すらあります。SNSやネット掲示板では、個人が特定されるリスクも高まりました。
たとえ誤解であっても、「変な人」だとレッテルを貼られたら社会的にダメージを負いかねない時代です。
こうした状況は、男性にとって女性に近づくことや、好きになること自体を「地雷原を歩くような行為」にしてしまいました。
恋愛は本来、人と人との自然な感情の交流ですが、今やリスクまみれの行為になりつつあるのです。
「出会いがない」と嘆かれる一方で、出会い系サイトやマッチングアプリの登場によって、出会いの場はむしろかつてより格段に増えています。
アプリを使えば、自宅にいながら数百人単位で異性を検索できるし、メッセージも簡単に送れます。技術的には「出会うチャンス」は大幅に広がったはずです。
それにもかかわらず、結婚する人が減り続けているのはなぜでしょうか。
それは単に「出会いの数」が増えただけでは恋愛関係には進めないからです。
結局のところ、リアルで会ってみて、相手の空気を感じ取りながら関係を深め、恋愛へと移行するには、どこかでリスクを取って行動しなければなりません。しかし、そのリスクを社会が許さない空気が強まっているのです。
アプリでメッセージをやり取りするまではできても、実際に会う段階で尻込みしてしまう人は多いです。「断られたらどうしよう」「変な人と思われたらどうしよう」という恐怖が、現代の若者を縛っています。
もちろん、もう一つ大きな要因があります。
「結婚するのが当たり前」という価値観自体が、昔に比べて大きく変わってきたことです。
これらが複合的に作用し、あえて結婚を選ばない人も増えました。
特に女性の社会進出が進み、収入を自分で得られるようになったことで「結婚しなくてもいい」と考える人が増えたのは大きな変化です。
ただ、それ以上に深刻なのは、恋愛そのものが「危険な行為」と認識される社会になったことだと私は思います。
出会いの場は増えた。けれども恋愛すること自体がリスクだと感じられる社会になってしまった。そこに少子化の本質的な原因が潜んでいるのではないでしょうか。
だからこそ、少子化対策は「結婚後の支援」だけでは不十分だと思います。恋愛や出会いの段階で、人々がリスクを恐れず動けるようにする環境づくりこそ必要だと考えます。
たとえば:
こうした取り組みが、長期的に見て合計特殊出生率の低下を食い止める大きな鍵ではないでしょうか。