2025年6月、イラン議会がホルムズ海峡の封鎖を承認したというニュースが世界を駆け巡りました。中東の情勢が緊迫するなか、日本を含む多くの国がその余波を心配しています。
本記事では、ホルムズ海峡の封鎖が日本に与える影響について、エネルギー、経済、安全保障の観点から多角的にわかりやすく解説していきます。過去の事例にも触れつつ、今後のリスクと対策も提示します。
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とアラビア海を結ぶ幅約50kmの狭い海峡であり、世界でも最も重要な戦略的チョークポイントの一つとされています。特にエネルギー輸送の面では、世界中の原油の約20%、LNG(液化天然ガス)の約25%がこの海峡を通過しており、まさに世界経済の血管とも言える存在です。
日本は、そのエネルギー資源の約80%以上を中東に依存しており、これらの資源の多くがホルムズ海峡経由で輸入されています。したがって、ホルムズ海峡が封鎖されるという事態は、日本の経済と生活にとって極めて深刻な脅威となります。ではホルムズ海峡封鎖が日本に与える影響を見ていきましょう。
ホルムズ海峡が封鎖されれば、国際市場における原油の供給量が急減し、原油価格が急騰する可能性があります。日本の原油の約8割は中東から輸入されており、その輸送ルートの大部分がこの海峡を通過しているため、直撃を受けることになります。結果として、ガソリン代、灯油、電気料金、ガス料金といった生活に直結するエネルギーコストが大幅に上昇します。
燃料コストの上昇は、物流業界全体のコスト構造に大きな影響を及ぼします。トラック輸送、船舶輸送、航空貨物など、あらゆる物流手段の費用が上がることで、食品や日用品、医薬品、工業製品など幅広い物品の価格が連鎖的に上昇するでしょう。中小企業を中心に仕入れ価格の転嫁が難しい場合、経営難に陥るリスクも高まります。
日本の電力は火力発電に大きく依存しており、その燃料であるLNGや原油は中東産が多数を占めています。ホルムズ海峡が封鎖されるとLNGタンカーの航行にも支障が出るため、発電用燃料の供給が滞るおそれがあります。その結果、電力の需給バランスが崩れ、夏や冬のピーク時には電力不足や計画停電が現実のものとなるかもしれません。
エネルギー価格の高騰は、製造業・重工業・運輸業などエネルギー多消費型産業に甚大なダメージを与えます。鉄鋼、化学、セメント、ガラス、自動車産業では、燃料や電力コストが収益を圧迫し、生産量の削減や稼働率の低下を余儀なくされるでしょう。これにより、国内生産の縮小、雇用の不安定化、海外移転の加速も懸念されます。
インフレ圧力の高まり、輸入コストの上昇、消費の落ち込みといった複数の要因が複合的に作用し、日本経済は後退局面へと突入する可能性があります。とりわけ、物価上昇に所得が追いつかないことから実質可処分所得が減少し、家計の購買力が低下します。その結果、国内消費の低迷が企業収益をさらに圧迫し、景気後退の悪循環を生む恐れがあります。
ホルムズ海峡の封鎖は、単なるエネルギー供給の遮断にとどまらず、国際経済や地政学、社会秩序、企業経営といった複数の分野に同時多発的な衝撃をもたらす事態です。
供給不安が国際市場を直撃し、原油価格は1バレル100〜200ドルの水準に達するとの見方もあります。この影響はエネルギー分野にとどまらず、工業原材料、化学製品、食品の生産コストにも波及します。これによって、CPI(消費者物価指数)が急上昇し、スタグフレーション(景気後退とインフレの同時進行)に陥るリスクが高まります。
企業にとってエネルギー価格の不安定化は、戦略の根幹を揺るがすリスク要因です。生産コストの上昇は利益を圧迫し、設備投資や人材採用の凍結を招きます。また、サプライチェーンの混乱により、製品供給の遅延、契約不履行、国際取引の縮小などが発生し、輸出依存型企業には大きな痛手となります。
エネルギーと物流の不安定化は、リスク資産への投資を減退させ、株式・債券市場の不安定要因となります。戦争保険料や貨物保険料の高騰は輸出入コストを引き上げ、貿易業者の収益にも影響を与えます。さらに、生活必需品の値上がりや供給不安は庶民の生活に影を落とし、買い占めやパニック的な消費行動を引き起こす可能性もあり、社会的混乱の火種ともなり得ます。
1990年、イラクがクウェートに侵攻したことで湾岸戦争が勃発し、ホルムズ海峡の航行にも一時的なリスクが生じました。当時、原油価格が急騰し、日本でもガソリン価格や電気料金の上昇、消費者心理の悪化が見られました。
そして今、2025年6月にイラン議会がホルムズ海峡の封鎖を承認し、アメリカによるイラン核施設への攻撃、イスラエルとの軍事的緊張の高まりといった複数の事象が重なり合う中で、情勢は過去以上に不安定な様相を呈しています。海峡封鎖の可能性は「脅し」ではなく、戦略的現実として真剣に捉える必要があります。
このような状況に直面した日本としては、以下のような対策を講じることが急務です:
ホルムズ海峡の封鎖は、単なる外交問題や軍事衝突にとどまらず、私たちの生活、企業経営、日本経済全体を根底から揺るがす大きな脅威です。
エネルギーに依存する日本にとって、世界の動きは決して「対岸の火事」ではありません。今こそ政府と民間が連携し、危機管理と将来への備えを加速させることが求められています。
持続可能で安定したエネルギー供給体制を確立することこそ、日本の未来を守る鍵となるのです。